怪剣
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イヤール王国を未練たらたらで発ち、カリュー帝国からも飛び出し、モトキは三つ目の迷宮があるザウェイ王国に向かった(強制的に)。
それから二年近く経った話。
***
――ザウェイ王国に十数か所ある中の一つのギルド。
ギルドの重いドアが、「ギギィ……」という音と共に開かれ、ギルド内の篭った空気が入れ替えられる。
だが、ギルドで酒を飲んでいた冒険者達は扉を開けた主を見るなり顔をを伏せ、自然とギルド内の空気が一気に重くなる。
「おい、あいつって……」
「また来たのかよ。よく飽きもせずに戦えるよな」
「あれはもうマシーンだよ、笑っているのを見た事が無い」
ギルドの酒場で酒を飲み交わしている者達は口々に少年――モトキの悪口で言葉のキャッチボールをする。おそらく、あの若さでの圧倒的な強さに嫉妬しているのだろう。
十五歳の若さでありながら、その目と気迫は普通の冒険者ならば怖気づいてしまうだろう。
肩には大きめのリュックサックに、その身には大きすぎる肉厚の大剣。
極限まで絞り込まれ、無駄な肉は削がれ、細マッチョなどという言葉は相応しくない肉体。腕周りと肩の筋肉を見れば、モトキがどれだけ剣を振ってきたかが如実に伝わってくる。
男達はモトキに嫌味を込めた視線を送るが、決してモトキはそれを返そうとはしないし、男達もその態度で逆上し、殴りかかるというような愚かな行動はしない、もしくはできない。
モトキは多くの視線を一斉に集めながらも、気にも留めていない様子でギルドカウンターの前に立つ。
先ほどまで、人形のようにだらりと肩にぶら下がっていた腕がポケットからおもむろに一枚の紙を取り出し、ギルドカウンターの上に置く。
「ありゃりゃ、可愛そうに。あの受付嬢、ほんの一週間前に入ったばっかだろ」
「入って一週間で”怪剣”の相手をさせられるなんて地獄だな。この前、何年も受け付けやってる子が、奴との話が終わってギルドを出て行った直後にへたり込んでるのを見たよ」
気の毒そうに思っているが、決して助けない取り巻きの話には耳を貸さず、肩にかけているリュックサックに手を伸ばし、リュックの口を開放する。
「こ……こんなに……!?」
「これで頼む。たぶん依頼の方は達成していると思うから」
新人の受付嬢はリュックから留めなく溢れるモンスターの牙や皮に息を呑みながらも、腕をまくり、ドロップ品の精算に取り掛かる。
「しょ、少々お待ちくださいね!」
「あ、ああ」
普通の冒険者ならそこまでの重労働ではないが、モトキの場合、ドロップ品の量が尋常ではない。
それに、もし計算を間違えて本来より少ない金を渡せば、モトキは必ず激怒する……っとモトキ以外の全員が思っていることだろう。
(え……キバニアの牙にドライバッファロー皮って、八十層クラスの魔物じゃない! 私でも始めてみるわ……!)
かなりの高ランクのドロップ品に受付嬢は唾を飲み込む。もし、このドロップ品一つ数え間違えていたら、誤差と呼ぶにはあまりにも大きい……具体的に言えば銀貨2枚ほどの差がついてしまう。
大きなプレッシャーが受付嬢の過度の緊張に拍車をかける。
「せ、精算できました!」
「そうか、いくらだ?」
「えっと、金貨十五枚と銀貨2枚――」
「おい、そこのキバニアの牙、精算し忘れてないか?」
「え? ……あーー! す、すみません! えっとキバニア牙は銀貨一枚だから……金貨一枚と銀貨三枚になります。どうもすみません!」
受付嬢は精一杯の誠意を見せるために頭を何度も下げる。
モトキの顔は数秒ほど経つと、無表情から、同情を誘うような顔に変わっていく。
「それほどの問題でもないんだが……俺ってそんなに怖いか?」
「い、いえ! なんというか近寄りがたいだけかと存じ上げます」
「はぁ……なんで敬語なんだよ」
モトキは一際大きな溜息をつくと受付嬢に渡された金を受け取る。
受付嬢の肩は、モトキとに金を渡す時も震え、硬貨の擦れる音が何重にも重なる。
「それでは、またのお越しを~……」
「ああ」
受付嬢はモトキが身を翻してその場を去っていくと力が抜けたようにヘナヘナと椅子に持たれかかる。
***
ドロップ品の精算を終えると、近場の席に座り酒を注文する。
俺としては、こんな所での酒は嫌なのだが、そうも言っていられないほど喉が酒を切望している。
「酒、銅貨二十枚だ」
「……ん」
「まいど」
やっとだ……やっと久しぶりの酒にありつける。このところ迷宮探索ばっかりだったから、ろくな物を食べていない。
酒は、元いた世界では二十歳未満の飲酒はご法度だったが、この世界はそこまで法に厳しくないので、遠慮なく飲ませてもらう。
「……はぁ…」
喉に染み渡っていくのが分かる。十五歳が酒を飲む光景はこの世界では一般的だったりする。
今の俺の所持金だと、酒のシャワーをしたって余るほどだ。
それもそのはず、今の俺は、酒と飯、武具以外に金を一切使っていない。というか使える暇が無い。
「おい、知ってるか? あのパーティーの噂」
「ああ、あれか。聞いたときは半信半疑だったがこの強さだったら当たり前なんだろうなぁ」
「″怪剣″は一体どれだけ殺せば済むんだが……」
「だって一気に六十五層までいったんだろ。それじゃ無事に帰ってこれないだろ」
きたよ、これが、俺がギルドの酒屋を嫌っている主な理由だ。俺の噂話がうるさい。
聞いてるこっちの身にもなってみろと言いたいところだ。
ていうか「殺した」はいくらなんでも言いすぎだ……まぁ、死んだ事は否定しないけど。
――あれは俺がそこそこ有名になってきた頃だった。
たしかあの頃はそこまで恐れられていなかった……って、あの事件のせいで恐れられたんだっけか?
記憶が随分と曖昧だな。
その日も俺はいつも通り迷宮探索に独りで行こうとしていた。
しかし、その日は、なにやら俺とパーティーを組みたいという連中が現れたのだ。
「どうですか? 一人よりも沢山居たほうが狩りも捗りますよ」
「勝手にしろ」
おそらく俺に付いていけば、おこぼれを貰えると踏んでいたのだろう。
この迷宮の最大転移地点――六十五層に着いても怯える様子は無かった。きっと俺ならば瞬殺してくれるだろうとお花畑な考え方をしていたのだろう。
だが――誤算だ。
六十層からは、四方八方からモンスターが出てくる。
もちろん、俺は全ての人間の面倒を見れるわけでもない。
「ガグガァァァァァァァァァ!」
「ひぃ!?」
連中は十分程で混乱に陥り、俺も見捨てるわけにはいかず、片足と両足を噛み千切られている二人は見捨て、残りの三人を担いで一目散に転移扉に飛び込んだ。
そして命からがらギルドに戻ってきた三人は俺が騙したとという嘘をギルド中に流した。
三人にとっては、倒せて当たり前と思っていたのだから、騙されたと思ったのだろう。
だが、あんなに稼いでるのだから、それに見合うリスクを背負っていることは真っ先に考え付くと思うのだが、どうやらそこは念頭においてなかったらしい。
「ふぅ……」
そんな事件があったからか、俺は皆に恐れられるようになってしまった。
先ほどの事件は全部あいつ等の責任だが、俺が悪いことになった。なんか癪だな。
また、こういう事件を通して俺は皆に名前で呼ばれなくなった。
――″怪剣″。それが俺のこの町での名だ。
おそらく意味としては二つ。
一つ目は怪力。これは俺が戦闘で大型モンスターを真っ二つにしたのを見た人間がつけた理由だ。
二つ目は怪物。これについては心当たりが多すぎて困るくらいだ。心当たりがあるとすれば、俺に逆上して斬りかかってきた剣士の剣の方が俺の体に当たって折れたという、カオスな事件が元だろう。
「さて、また潜るか」
俺としては十分休んだ。そろそろ迷宮に潜る頃だ。
次に戻ってくるのはいつになるだろうか? 一日後、二日後、もっと先かもしれない。
だが、休んでる暇は与えられない、与えてはならない。
いつ国の連中に襲われても、逃げ切れるくらいの力はつけなければならない。
おそらく見つかったとしても″万″は来ないと思うが"千″くらいは普通に来そうだから、気を抜いてはいられない。
「まだ弱いからな」
そう、まだ弱い。俺が求める強さの足元にすら及ばない。
だから、より激しい戦いを求め、長い時間剣を振り、剣とともに過ごす。
ベラル、親父、ガルハールのようなレベルに達するには時間が必要だ。
だが……例えばベラルは一日平均三時間を剣に費やしていたとしよう。
その場合、俺は一日平均二十一時間戦っているから、単純計算だと二年でベラルの十四年分となる。
――つまり全ての時間を戦闘に捧げることで急速な成長を遂げる事ができるのだ。
「足りない年月は時間でカバーだ」
俺は今日も誰もいない階層でモンスター相手に剣を振るう。
タカハシ・モトキ 十五歳 男
メイン:変動者
サブ:ルーク
固定能力:勇者もどき、雷剣、剛剣、鋼の体躯、三動一眠、延斬参式
読んで頂きありがとうございます!




