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助け舟

 


 ――俺は町にいた。


 夜になったらあの女の言うとおりに明かりが見えて、その明かりをたどって来たらいつの間にか町についていた。

 やっぱり人がいると安心感が断然違うな。


「あの女の言うことは一応正しかったのか。それにしても不思議な服着てるな」


 町は活気に満ちていた。

 ファンタジー風な衣装を纏った女性に、鎧を着ている男達。なんか長い耳が生えている人もいる。周りを見渡してみると上半身裸の男が道を堂々と闊歩していく。



 俺はその場の石畳に腰を下ろす。

 他人から見れば孤児にでも見えたかもしれない。まぁ否定はできないよな金無いし。


「よいしょっと」


 重い腰を持ち上げてまた俺は探索を始める。

 それにしても珍しいものが多くて非常に目が疲れる。

 

 少し歩くと《ギルド》と書かれた大きい看板と共に大きなビルのような建物がそびえ建っていた。

 高さははだいたい百メートルくらいだろうか。

 だが、今はここには用はない。

 たしかに情報は欲しいが、今は何でもいいから血肉になる物にありつきたい、それが本音である。だが都合よく食べ物は道端には転がっていない。


 「今日どこ行く?」

 「ん~露店を見回ってから適当なところで飯を食うかな。」

 「わかった!それじゃ早く行こ!」

 「そんなに急ぐなよ~~」


 仲の良さそうそうなカップルが視界に入る。

 どちらも不細工なので爆発しろとは言わない。あえて祝福しよう。

 女性は食べていたスナック菓子ような物を路地裏の入り口に置いてある直方体の箱に捨てる。たぶんゴミ箱だ。


 (ん?待てよ。今の食いかけだったよな?)


 あんまり汚いことはしたくないが、背に腹は代えられえない。

 俺はゴミ箱に駆け寄る。パン様な物の食いかけや、ジュースなどがそこにはあった。

 俺はパンの様な物を口に放り込む。味はパンと一緒だった。日本にい俺からすれば考えられない出来事だろう。


 「情けないな……俺」


 一体これからどうするか……盗みでも働くかな。それしか生きていく方法が見つからない。


 ん? なんだ、後ろに誰かいるのか、周りが少し暗くなる。

 俺は咄嗟に後ろを振り向く。

 しかし、この時から、もう勝負は決着していた。


 「なんだ!?」

 

 そこには2人の如何にも蛮族というような男達が口元に笑みを浮かべ立っていた。

 勘で無くとも分かる。男達に捕まるという未来が容易に予知できる。


 あ………何かヤバい…!?


 俺は咄嗟に逃避を試みる! 

 しかし、それは叶わない。男達に袋を被せられ視界が真っ暗になる。

 この一瞬で何が起こった!?


 「チョロイもんだなこの仕事も。」

 「ああ。そうだな、さっさとずらかるぞ。」

 「ンンン~~~!!」

 「うるさいガキだな…と!」

 「ゴハァ!!」


 腹を蹴られて体の中から空気と意識が奪われる。

 こうして俺は二人の男に連れていかれた。





 「ん……?」


 そこは小さな部屋だった。

 天井には明かりが1つ。奥にはドアノブの付いたドアがある。また、丸い机が1つありビンが何本か置かれている。そして2人の男がイスに腰を掛けている。

 

 一方俺は両手を縄で縛られていた。

 俺に束縛プレイの趣味は無い、ていうか、この世界に来てからろくな事が起きないな。


 俺が今置かれた状況を確認していると男の口が開いた。


 「へっへ、これを奴隷商に売るんだな」

 「ああ。女性ではないし、まだガキだが、健康体だし銀貨10枚くらいで売れるだろう」

 「これでまたたくさん酒が飲める。やっぱ金は命だよなー」

 「まぁ見たところ孤児だし衛兵も来ないだろうしな」


 ほ~なるほど。

 俺を奴隷商に売るつもりなのか…てゆうか本当にあるんだな奴隷商。にわかには信じがたい。

 こんな絶体絶命の状況でも冷静に事を分析できている自分がいる。いや、事の重大さを分かってないだけか。

 

 とりあえず俺は寝ている振りをする。

 起きているとばれたら色々とめんどくさい。あと足が縛られていないことに感謝だな。これなら脱出できるかもしれない。


 

 とりあえず脱出ルートを考えよう。ここでグズグズしていても仕方ない。俺は薄く目を開く。


 脱出できる所はあのドアだけか。次はどうやって開けるかだけど手は縛られているな。足は届かない……口か! 歯で開けるしかないな。


 次はどうやってこの男達にバレずに抜け出すかだが、2人一緒にトイレは無いし、こればっかりはどうしようもないな。金的食らわせようにしても相手が油断してなきゃ……














 こいつらアホなのだろうか?


 俺の目の前にはテーブルに突っ伏している男達がいた。

 なんと酒を飲みすぎて気持ち良く寝てしまったのだ。

 馬鹿だ……本物の馬鹿がいる。


(まぁ、こちらとしては都合がいいけど……)


 俺はゆっくりと立ち上がる。

 気づかれないように忍び足で男達の前を横切る。

 近くでみると更にアホさが増すな。


 そして、なんとかドアの前に辿り着く。

 俺はゆっくりとドワノブに手ではなく歯をかける。


 ドアノブを歯で開ける音が部屋中に響き渡る。さすがにこの音はどうにもなんない。


 ……ガサッ。

 男の体が動いた。もしかして起きたか……!?



 俺の悪い予感は見事に的中した。男がゆっくりと顔を上げる。

 このままじゃ捕まる。それまでに開けられるか?

 ドアを開けるのことを急ぐが、この状況では落ち着いてはいられない。

 


 「んんっ、なんだ?おい何していやがるテメェ!!」


 すぐにでも男は襲ってくると思っていたが、足がふらふらだ。

 俺は一か八かの策に出る。

 俺は素早く男の懐に入り込む!


 「クソ!!ガキがぁああ!!」

 

 残念ながら中身は成人なんだけどね。まぁそんなことはどうでいい。

 俺は男に蹴りを入れ込む! そしてその蹴りは男の股間へと吸い込まれていき……


 「ハッ!!!!」


 クリティカルヒット!!

 チ~ンという音が聞こえてきてもおかしくないほどの絶妙な蹴りだった。


 「ぅぐっっ…!」


 男はその場に倒れこむ。

 俺はもう一人の男のの方を見る。――おかしい。さっきまでいたはずなのに消えている。

 どこだ……どこに消えた?


 「逃げんじゃねぇよ」

 「え?」


 簡単な事だ、あんなに大きな音を立てたのだから気づかれて当然だ。

 逃れようとしても完全に力負けしている。

 まぁ大人と子供だしな。当然といえば当然だ。


 「ちっ……」

 

 こうなったら、諦めるしかないのか。まぁ、奴隷になっても食事はくれるだろう。

 だが、そんな俺の甘い考えを男はぶち壊した。


 「そういえば以前、お前みたいに脱走を試みた奴がいてな……」

 「……?」

 「そいつは、もちろん逃げられなかったよ。そして奴隷商に売ったんだけどな。ある日そいつをたまたま見かけたんだよ」

 「……」

「そしたらあいつ、片方の耳と手が一本無くなってたんだよ、笑えるだろ。まぁ、お前もそうなっちゃうかもな……ハハ」


 俺は話の内容が理解できなかった。

 正確には理解したくなかった。奴隷の最悪な末路を告げられ恐怖が俺を支配した。


 ――怖い――


 俺はいつの間にか男の指を噛み千切ろうとしていた。

 男から血があふれ出す。

 嫌だ、そんな末路は嫌だ、変えられるなら何でもしてやる。


 「てめぇ!何しやがる!」


 男が俺を離すと俺は急いでドアを開ける。

 早くここから逃げたい。恐怖が俺を駆り立てる。


 「はっ……はぁ」


 初めて感じる身の危険に俺の体はちゃんと反応する。

 だが大人と子供の差は大きい。

 無理だ、追いつかれる……!


 「早く!! 出口はどこだ!?」


 まだ俺は建物の中にいる。あの部屋はこの建物の一室だったのだ。

 短いはずの廊下がゆっくりに見える。


 「まてぇやガキィィ!!」


 男が追ってくる。

 と…その時、出口ではないが階段が見えてきた。

 俺は階段を二段飛ばししながら降りていく。

 あれが出口か! 早く外に出なければ……


 「逃げんじゃねぇぇぇぇ!!」


 扉を開けるとあの賑やかな町だった。

 だがさっきのような活気はない。おそらくもう深夜なのだろう。

 

 だれかに助けを求めようとしたが、後ろの怖い顔をした男達に追いかけられている限り手を貸してくれる人はいないだろう。

 誰だって面倒事には巻き込まれたくない。それに周りにも人はほとんどいない。いても見て見ぬふりをしている。


 25……20……15…10……どんどん距離が縮まっていく。


 

 ――あぁ。やっぱ無理だったか。

 心では諦めかけているものの、足は止まらない。


 くそ、こんなところで……

 男が俺の肩を強く掴む。肩が大きくビクンと震える。

 

 「まったく手こずらせやがっ…」

 

 しかし、俺が諦めかけたその時、風を切る 「ブゥンン!!」 という音が聞こえ……

 

 「ぐあぁ!!」


 男が俺の後ろで叫び声を上げた。

 恐る恐る後ろを振り返るとそこには延びている男がいた。

 

 そして、もう1人…………190はあるだろうと思われる身長に、太いゴツゴツとした腕……無精ひげを生やしたその人の手にはパンを練る時なんかに使う長い木の棒が握られていた。


 「真夜中にギャーギャーうるせんだよ。近所迷惑だろうが。しかもこんな小さな子供を追いかけまわしてどういうつもりだ?」

 

 アンタの方がよっぽどうるさいと思うが、口には出さない。

 その30代後半の男性は男達に向かって一喝すると俺の方を向いてくる。

 

 「まぁ、そのなんだ……入れよ」


 男性は先ほどとは打って変わってやさしそうな目を俺に向ける。

 もちろんこの誘いを断れる筈もない。

 俺は動揺しながらも男性が入っていった建物の中に入る。


 食堂だろうか? テーブルがいくつもあるし、ゆっくりと食事をしている人が2人いた。

 

 「なんとか死ななかったか……」


 そして俺は何か緊張の糸がプツンと切れたようにしてバタリと倒れてしまった。

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