働き口と帰る家
「ん……ここは?」
俺はゆっくりと瞼を開ける。
ここはどこだろうか?
そこは六坪ほどの部屋だった。
タンスやテーブル、本棚などが置かれておりとても簡素な部屋だった。
俺はというとベットに寝ていたようだ。毛布も掛けられている。
「俺はあの後…あ!思い出した!」
俺の記憶が少しずつ甦ってくる。
俺は奴隷にされそうだか逃げてきて、確かどっかの店で倒れたはずだ。
それにしても怖かった。今この時も震えが止まらない。
「…それから俺はどうしたんだ?」
「アンタはここに担ぎ込まれたのよ」
その俺の疑問に答えてくれたのは1人の女性だった。
茶髪で背はだいたい160くらいだろうか?年齢は見たところ20後半って所か。
で、その女性は俺に何の用があるのだろうか?
「店内で倒れていたアンタをうちの旦那がここに担ぎ込んだのよ」
「その…ありがとうございます」
「私はケインよ。あなたは?」
「元木です。高橋元木」
「へ~モトキっていうの。変わった名前ね~~」
ケインさんはそう言いながら持ってきた籠から何やら取り出す。
それは俺の世界でもよく見るリンゴだった。
「ケインさん、それは?」
「ああ、これね。これはリンゴよ。」
「ですよね…はは」
名前まで同じか。リンゴの他にもそういう物はあるのだろうか?
そんなことを考えてたらケインさんがリンゴを八つに切って皿に盛って僕に渡してくる。
「っえ!? 僕にですか!?」
「は?他に誰がいるのよ?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
俺はリンゴを口に放り込む。
リンゴを噛み砕くと同時に甘い汁口いっぱいに広がる。
この味だ、いつも慣れ親しんだ味に安堵する。
「おいしい」
「ハハ。そう言ってもらえると嬉しいよ」
感想は自然に出てきた。
空腹だったからだろうか? 日本で食べた時より美味しく感じる。
「ご…ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
ケインさんは皿を片付ける。
俺はその一挙一動をボ~~と見ている。
なぜなら頭が全然回らないからだ。
「モトキはまだボ~としているね」
「そう見えますかね?」
「誰が見てもね」
確かにリンゴは美味しかったが、今は正直肉が食いたい。
当然そんなことも言えるはずもなく俺は作り笑いを浮かべる。
「まあ元気になったら下に降りておいで、旦那にも合わせたいから」
そんなことを言いながらケインさんは部屋を後にする。
「後、店は左行って階段降りたらすぐだから」
ケインさんドアから顔だけを覗かせ俺に店へのルートも教えてくれた。
どうやら俺は優しい人に拾ってもらえたようだ。
さてケインさんが退出した所で状況を整理しよう。
まずここはどこかの食堂かな。
おそらくケインさんはそこで働いていると考えて間違いない。そして俺はケインさんの旦那さんに担ぎ込まれたと…まあそんな所だろう。
そして俺の今の状態の確認だ。
今俺の体はケインさんの旦那さんよって五体満足だ。
ただ右足を上げようとするとズキンというような痛みが走る。麻袋との死闘の時、右足使いまくったからな、筋肉痛かもしれない。まあ歩くのには支障はないと思う。
最後に時間だ。
俺の部屋には時計が掛けてある。俺の世界と同じならば今は12時30分だ。ちょうどお昼時だ。
今食堂に行ったらジャマになるだけだろう。とはいうものの、少しくらいここから出てみたいという衝動に俺は駆られる。
少しくらいいいよな。ジャマにならならない場所にいれば。
「あ~体まだダルい」
俺がドアを開けると重なった声が聞こえてくる。
部屋から出て左に進んでいくとケインさんの言った通り階段が見えてきた。と、そこで俺は立ち止まった。
この建物の一階は一部が吹き抜けになっていた。下を見ると昼時なのでたくさんの人で賑わっていた。
「すげぇ…」
ザッと70人くらいだろうか。中には立っている人もいる。いかにも料理店という場所だ。
そんな中で忙しそうに料理を運んだりしている人達がいた。
その人達の中にはケインさんもいた。忙しそうにあっちこっちを行き来きしている。今話し掛けるのはよそう。そう思いながら俺は二階から店を眺めていた。
「異世界……ね。なんか凄い所に来ちゃったみたいだな」
店の人達を見ていると鎧を着ていたりと耳が尖がっていたりと千差万別だ。こういうものは見ていて飽きない。
あれから二時間が経った。
昼時よりも客はかなり減り6人くらいだ。
そろそろ行ってもいいよな。俺は腰を上げる。相変わらず力が出ない。
「っお。起きられるようになったかいモトキ」
「あ、はい」
ケインさんが話しかけてくる。丁度お暇なようだ。
てか、あれほど店内を走り回っていたのに息切れ一つ起こさないとはさすがだな。
「ちょっと待っていてね、旦那呼んでくるから」
「あ、はい」
と言いながらケインさんは厨房の中へと入っていく。
厨房でかいな~などと考えているとケインさんが厨房から出てきて一人の男を連れてきた。
間違いない。俺を追ってきた蛮族共を蹴散らせてくれた人だ。
「あの時は助けてくれてどうもありがとうございました」
「おお、あの時の坊主か。まあ、気にすんな」
日本ではまずお目に掛かれないであろう筋肉隆々の肉体。
一体どんなトレーニングをすればあんな体になるのだろうか? 人生の半分をベッドの上で過ごした者としては興味がある。
「そういえばケイン、この坊主に何か食わしたのか?」
「ああ、リンゴを食べさせたあげたわ」
「は?リンゴだと? おいちょっと座って待ってろ」
男の言われるがままに俺は近くの椅子に腰を掛ける。
一体何をするつもりだ?
「そういえばさ、モトキはなんであんな奴等になんかさらわれたの?」
「裏路地でうずくまっていたらサッと連れて行かれてしまいまして」
「へ~そうなんだ」
一応うずくまっていたことにしといた。
ゴミ漁ってましたなんて言えないよな。
「っと言うことはモトキは捨て子だったりするの?」
「まぁそんな所ですかね」
間違ってはいないはずだ。
処分しろと言われたわけだしね。てか死体の事後処理とかどうするつもりだったんだろうか……って戸籍ないから燃やせばいいだけか。
「お~い。できたぞー」
ケインさんの旦那さんがなにやら香ばしい匂いのする料理を持ってきた。
これは、肉だろうか?
香ばしい匂いに釣られ、口から唾液は大量に分泌される。
「こ……これは?」
「これはウォーバードの肉を塩コショウで味付けをして丸焼きにしたもんだ。ほら遠慮無しに食え」
ウォーバードといのはモンスターの一種だろうか?
それにしても美味そうだ。俺は無意識の内にフォーク手に取り肉をほお張る。
「ほらやっぱり男には肉だろ?」
***
おれはウォーバードの肉を残さず食べた。
久しぶりに味わう満腹感。いや~食った食った。
俺が食べ終わったあとにケインさんの旦那さんが話しかけてくる。
そういや名前がまだだった。反省反省。
「俺の名はブローズだ。よろしくな」
「僕はモトキです。よろしくおねがいします」
それぞれの自己紹介を終えると、ブローズさんがいきなり俺に鋭い眼差しを向ける。なんぞ?
「大体の話はケインから聞かせてもらったが、モトキ一つ質問いいか?」
「はい。どうぞ……」
「お前はなんで捨てられたんだ?」
「え?そ…それは…」
俺は何を迷っていたんだろうか。
この人に助けてもらわなければ奴隷になっていたかもしれないのに。
そんないい人に一切の秘密も明かさないのか?
俺は恩人であるブルーズさんに対して正直なことを話した。
「「召喚された!?」」
「はい」
ケインさんとブローズさんが間の抜けた声を上げる。
そりゃそうだよな、信じられないよね。
「さすがにちょっと。ねぇあんた?」
「いや。俺も嘘かと疑ったが坊主の目がマジなんだよな~。嘘はついていないんじゃないかと思う」
「あんたが言うなら信じてあげてもいいけどこれはちょっと」
だよね、やっぱり信じないよね。
まあ普通の考え方だよね。俺も異世界着た時は半信半疑だった。
――どう信じてもらうかな
「お、そっか」
あ! そうだ俺のステータスに勇者モドキとかいう能力があったな。
あれを見せれば、どにかなるかもしれない。
そう思った俺はすぐにステータスを開いた。
「ブローズさん、ケインさん。これを見てく……」
「「は!?」」
「このステータスどっから持ってきたのよ!?」
「え?普通に出てきて欲しいと思ったら出てきましたよ」
「普通ならステータスカプセルがなきゃステータスは開けないんだよ!」
「そうなんですか!?」
「ああ、カプセル無しで開くことは普通できない………ということはお前は本当に召喚されたのか!??」
「やっと信じてくれましたか」
二人共なんとか信じてくれたようだ。
そういえば周りにいる人に聞かれていないだろうか? 俺が心配して周りを見渡していると……
「あの人達は常連さんだから見なかったことにしてくれって言ったらばらしたりはしないよ。」
ケインさんがそう言いながら客の方へ歩いていく。
***
「そういえばお前、この後どうすんだ?」
ブローズさんが唐突に言う。
「ここに世話になるのも迷惑でしょうしギルドにでもいきますかね」
「迷惑なんて言うなよ。お前さ、ここで泊まりながら働かないか?」
そんなことをブローズさんは言った。
確かにありがたいが、これ以上迷惑になるわけにはいかない。
「でもやっぱり迷惑になるのでは?」
「そう言うなって」
「でも……」
「別に迷惑じゃねえよ。それに食った分は働いて返してもらわねえとな……なぁ?」
は? 食った分?
俺の目の前にはウォーバードの骨があった。
なるほど、そういう手口か。
「という訳だ。よろしくな。俺のことは親父って呼んでくれ、みんなもそう呼んでいる」
「親父?」
「お前のことは、モトキは何か呼びにくいからな……トモ…トモでどうだ?」
「別にいいですけど……」
トモというのは、たぶんモトキのモトを取って逆さにしたのだろう。
「んじゃ改めてよろしくなトモ!」
満面の笑みでブローズさん…もとい親父が手を差し伸べる。
こうなったら諦めるか。
そう思った瞬間俺の中で何かが吹っ切れた。
もうどうとでもなれ、と。
「世話になるぞ親父」
俺は差し伸べられた手を強く握った。




