望まぬ来客
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「……暇だ。なんもやる事がねぇ」
天井の木目をぼんやりと眺める。
暇だ、恐ろしく暇だ。
――魔鬼との戦闘から一ヶ月。
あれから何も奴らはアクションをこちらに向かって起こしてこない。
少年の話ではあと一度、魔鬼が国を襲うはずなのだが、来ない。
このカリュー帝国はそこまで被害は受けていないが、ギルドへ赴けば怪我をした冒険者が何千人も見受けられるだろう。
『じゃあ私は露店にでも行ってくるから』
そう言ってエンナは自由行動中だ。
今頃は適当に店を回っているだろう。
こんな時には一人で迷宮に行ったりするもんだが、やる気が出ない。
なんか面白いこと起きないだろうか……戦闘以外で。
「……ダイブするか」
「モトキ様ーお客様です~」
俺が妄想に入る直前に、この宿の看板娘であるルクの声がドア越しに響く。
俺に客? 配達ではなく?
誰だろうか、何一つとして心当たりが無い。
「ど、どうぞ」
「……久しぶりだなモトキ」
「っベラルさん!?」
腰にはエンナと同じく二本の短剣。
俺の剣の師である親父とは似ても似つかない、ひょろりとした細身の体形。
別れるときと同じく笑わず、怒ってもいない無表情。
「突然すまんな、モトキ」
「いえ、そんなこと無いです。えっとお茶入れますね」
「その必要は無い。少し場所を変えさせてもらう」
「そうですか」
ベラルは音を立てずに静かに立ち上がると部屋を早々に出て行く。俺もそれにつられる様に部屋をそそくさと出て行く。
「そういえばエンナはどうした? 一緒じゃないのか?」
「あいつは露店の周りをブラブラするって行ってましたから、暫くは帰りませんよ」
「そうか、それなら問題ない」
場所を変えて話すということは、それなりに重要な話なのだろうか?
もしかすると、エンナが勝手に付いて来たことについてかもしれない。でもそれなら、もっと早くに来ているはずか。
まぁ、どちらにしろ聞けば分かる事か。
***
――昼間のカフェで重要な話。
ドラマだったら「別れましょう」などという言葉と共にコーヒーをすすって……ていうのを随分前テレニで見たのを覚えている。
「どうしたモトキ、さっきからソワソワして」
「いえ……ちょっとこういう所は慣れないもので」
「そうか」
どうしよう……なんだか怖い。
場所を変えてる時点で重大発表があるのは確実だが、その内容が何なのか心配だ。
さっさと帰ってベッドに潜り込みたい。
「ところでモトキ」
「は、はい!」
「エンナは元気か? 病などにはかかっていないのか?」
「あいつならいつも変わらず騒がしいですよ」
「そうか……」
ベラルの口元が少しだけ動く。
本人としてはエンナが元気という事実に安堵しているだけかもしれないが、俺としては、その小さいアクション一つで肩が小刻みに震えてしまう。
意識を外に向けてみる。
相変わらず商人の叫び声や、冒険者の雑談、子供達のわめき声がガラス越しに聞こえてくる。
だが、なんだろうか? 少しだけ遠い感じがする……俺が極度の緊張状態に入っているからだろうか。
「さて、そろそろ本題に入るか」
「そ、そうすね」
「まず、なぜ俺がここにいるかだ。そうだな~とりあえず魔鬼出現のところからか」
「そっちにも現れたんですか?」
「まぁな」
それからベラルは、俺とエンナが去ってから魔鬼が出現した事について話しはじめた。
敵が恐ろしく強かったこと。
多くの冒険者が魔鬼の餌食になってしまったこと。
まだ完全覚醒していない勇者がベラル達と共に敵の首領になんとか勝ったこと。
てか、完全覚醒してない勇者って役立たずだな……その状況を作り出している元凶である俺が言えた義理じゃないけど。
「で、問題はこれからだ」
「ほぅほぅ」
「魔鬼に押されていた勇者を見た国の連中が、遂に焦り始めてな。それで国が――」
「なるほど……そういうことですか」
「さすがに頭の回転が速いな」
今の会話で大体分かった。
つまり、勇者の覚醒を早めたいってわけだ。
ということは……
「俺を捕まえるために網を広げるということですか」
「そういうことだ。おそらくあと一週間で、お前の手配状が国中にばら撒かれる」
「今のうちに逃げろと……?」
「そうだ。普通のガキならまだしも、お前は特別だ。ここに来る途中でお前が魔鬼のデカブツを倒したという話を五回も耳にした。おそらく真っ先に疑われるのはモトキ――お前だ」
嫌な汗が俺の頬を伝わり、木製のテーブルに小さな染みを作る。
一体どうそればいい、この状況。
安全だと思って駆け込んだ国でも追い出される。救いなんてものは無かった。
一気に息が荒くなる。
予想外といったら嘘になるかもしれない。つまり予想はしていた。
ただ自分の心の奥底にしまいこんで、目を背けていた。
そんなただの空の器となった俺にベラルが更に激しい追い打ちをかける。
その言葉は――
「エンナについてだが……あいつは母国に帰す。だから、お前はもうエンナとは会えない」
――――俺の少ないライフを一瞬で削り取った。
「え?」
「すまんな。この事については諦めた方がいい。なんたって敵が敵だからな」
自分の時間が止まるのを感じ取る。
その次に俺を俺を襲ったのは、孤独、疎外感。
先ほどまで店内にまで響いていた外の人々が奏でる騒音が一瞬で消え失せる。
先ほどの、「お前はもうこの国にはいられない」という事実よりも重いものが俺にのしかかる。
だめだ……自分の頭が処理落ちしている、たった一人の少女の処遇が決まっただけだというのに。
(……そうか……)
エンナといられない……考えてみれば当然の事だ。
あいつは独断で付いて来たようなものだ。
本来なら付いてこなかった人なのだ。
なのに……悔しい。
なぜいつもいつも、俺の周りからは人が消え失せるんだ。
俺のせいだ。自分が訳も分からず指名手配をうけているからだ。
「エンナには家族がいるんですよね……」
「そうだ。俺もモトキと道連れになるエンナの姿は見たくない。キツイことを言うようだが、俺にはお前を守れない。言い訳はしない」
「分かってます……」
分かっている。
別にベラルは悪くない。実に冷静な判断だ。
弟子の友人よりも自分の弟子を優先させる、当然だ。
敵は――――国だ。
いくら屈強な戦士であろうと手が届かないであろう領域。
国という一つのまとまりは、武力、権力共に一線を画している。
「……く……そ」
だが、割り切れない。エンナがいなくなってしまう運命を受け入れたくない。
すでに頭がショートしかけている俺に、国からの追っ手という更なる課題が俺を取り囲む。
「ここを発つなら早いほうがいい」
「……わかりました」
ベラルは俺の分の料金を同時に支払って店を出た。
「言うべきことは言った、後はお前次第だ」
そんな事を言われている感じがした。




