渓谷防衛戦―前夜―
少し更新速度が落ちてしまうかもしれない。すんません。
「どう? 何か見えるかボライ?」
「なんーにも見えん。ずっと谷ばっかだな。魔鬼とやらは見えんな」
「おい下見ろよ。ここ渓谷だぞ。ちょっと貸せ」
ボライから望遠鏡をひったくる。あんなところを見て敵がどこにいるか分かったらエスパーか何かだ。渓谷なのだから下を見ないでどうする。
現在、地上からは百メートル以上に位置する谷にいる。これは上から魔法などの攻撃や奇襲をしやすくするためである。それに見渡しも良い。
ちなみにこの崖は自力で登った。当然だ、エレベーターなどあるはずも無いのだから。
「敵襲は無しと……このまま休憩に入るか?」
「そうね。私達は夜の見張りだしね」
「んじゃテント張るか」
敵襲がいなくて良かった。登ってすぐ戦いにでもなったら確実に負ける。
魔鬼の特性などが分からない以上どれだけこの位置取りが最適だったとしても不安は残る。
「それじゃお休み~」
昼は眠りにくいはずなのだが、崖登りが予想以上に体に応えたのか体は素直に休息を求めてくる。
それもそのはず、途中で何人かギブしてしまったため俺が二人ほど担いできた。これが美少女ならヒャッハーするところだがむさい奴らばっかだった。
そういや英雄達はどこにいったのだろうか。魔鬼の本体でも潰しにいってるのだろうか。
俺達を国を守る盾として、英雄は敵を討つ。ぶっちゃけ俺達もけっこう大事な役目を担ってるな。
***
「交代の時間だ」
「ふぁ? もうそんな時間か」
寝ていた時間はそこまで長くはない。だが疲れは取れている。万全だ。
とりあえずボライとエンナを起こす。エンナにイタズラをしようと思ったが、顔面パンチのトラウマが頭をよぎったので断念。俺は二度は同じ間違いは起こさない。
「状況は?」
「まだ出てきてない。他のチームも同様だ」
「ほう。モトキ、俺はあっちの様子を見てくる。見張りは頼む」
「オーライ。そんじゃのんびりいきますか」
ボライが他のチームの所へ行くと言ってここを後にする。きっと他がしっかり見張っているか心配なのだろう。
俺は望遠鏡片手にリンゴにかぶりつく。乾いていた喉が潤う。
ちなみにチームというのは他の谷に駐留している奴らのことだ。
当然だが、この作戦は俺達のとこのチームだけで行われているわけではない。
俺達の他にも同規模のチームが一直線上に並んでいる。その数はおよそ五十。
連絡はライトで行い、他の渓谷に移るには長い梯子を渡っていく。
正直いうとこの梯子、需要が全く無い。
そっれもそのはず、道幅が狭く、歩くたびににギシギシと揺れる。梯子の先端を見るとしっかりと固定されているのだが不安は拭えない。
「ボライって意外と命知らずだよな」
「あれ渡るって度胸あるわよね」
「ただの馬鹿かもしれんがな」
本当にそうだ。危機感が麻痺しているとしか思えない。
ちょっとコンビニ行ってくるわ、的なノリでボライは他のチームの視察に向かったのだ。正気の沙汰ではない事だけは確かだ。
「それでさ、魔鬼の特性についてだけど――」
「スー……」
「寝るなよオイ。お前は俺と同じ見張りだろ」
げんこつを一発。自分が真面目にやっている隣で爆睡されるとイラつく。
案の定エンナが頭を抑えながら転げまわる。どうだ俺のげんこつは。ガル爺の鬼畜特訓で研ぎ澄まされた右パンチ。げんこつでは済まされないのだ。
「別に少し目を瞑るくらいいいじゃない」
「いや、完全に寝てただろお前……でも、まぁいいか」
「ん? 今日はやけに優しいわね」
「だってエンナはすぐ眠たくなる子供だからな」
「むむ……モトキだって子供じゃない」
「だけど俺はしっかりと眠たいのを我慢してるだろ」
どうだエンナ。これがお前と俺との違いだ。睡眠という欲の制御の問題だ。
これでおそらくエンナなら――――
「やってやろうじゃない……!!」
「へいへい、無理はするなよお嬢ちゃん」
「ムカつくから、そのしゃべり方やめてくれない……?」
単純だ。実に単純だ。どんなに強くても所詮は子供。しかもエンナなのだから人一倍負けず嫌いだ。
これで少しは時間を稼ぐ事ができるだろう。
***
「どうだったボライ?」
「どこもかしこも異常は無い。そっちはどうだ?」
「今、エンナが力尽きたとこ」
「だろうな。お子様にはきつい時間帯だからなハハ」
「こいつが寝ちまうと話す相手がいなくて困るんだよ」
いくら他に夜の見張りがいようとも一人は寂しいものがある。だから、ここでボライが帰ってきてくれて内心少しホッとしている。
「――ん。ふぁ……」
「お、起きたかお子様眠り姫」
「……ってこれはただ目を瞑って体を休めていただけよ! け、決して眠くなったから寝落ちしてしまったとかそういうのじゃないんだから!」
「目を瞑って体を休めるって……それって完全に寝てね?」
「意識はあったのよ! だからお子様じゃない!」
「あっそ。そんでスッキリしたか?」
「大丈夫よ。これで朝までいけるわ」
どうやらしっかりと熟睡できたらしい。いざ戦うってなって使い物にならないと困るのは俺だからな。
てか、いつになったら襲撃してくるんだろうか魔鬼どもは。
もし、国が出現座標を間違えていたら今すぐ国に殴る込みをかけてやる。もちろん冒険者全員で。
「お前達は仲いいよな。なんか以心伝心みたいな?」
「それは二年はパーティー組んでるからな」
「そういえばもう二年経ってるのよね」
二年――俺にとってはあっという間だった。前世の頃に比べたら、一日一日が濃密で、それでいて時間は早く過ぎ去っていく。
辛い事もあったが、その度に支えてくれるパートナーが俺にはいる。そのパートナーはずっと俺の隣にいる。
中年の男が全速力で走ってくる。なんかあった?
「お――い! 敵を発見! 発見場所はチーム十六地点。形状はどれにも該当しない。推測するに魔鬼である可能性が濃厚である。各自連絡灯を回せ!」
「本当か!?」
「来たようね。十六っていうとかなり距離はあるけど」
まじできやがった。数の報告は受けていないが百体や二百体では済まされない数だろう。なにせこの規模の冒険者達を集めたのだから。
「あ……何だよ……」
「ん? どうした?」
俺達がこれからどうすか考えていると、一人の望遠鏡を覗き込んでいる冒険者が情けない声を出す。俺は冒険者の元へ駆け寄る。一体何がみえたのだろうか?
望遠鏡の三脚を情けない冒険者と同じ向きにセットする。
俺は片目を瞑りゆっくりとレンズを覗き込む――――
「……は? 何だよアレ――!」
「どうしたのモトキちょっと見せてみなさいよ」
「どうしたんだそんな青ざめた顔して」
「いや……数がおかしい……!」
俺は望遠鏡から後ずさる。
エンナとボライは興味深々にレンズを覗き込む。
しばらく経つと二人の顔が青ざめる。俺も二人の事は言えないだろう。ここには鏡はないがおそらく俺も酷い顔をしているはずた。
「あれって魔鬼?」
「それしかないだろ……」
「俺は戦うのが好きだけどな……これは」
この状況でボライが「これは無双のチャンスだ。暴れまわるぜ!」とでも言えたら心の底から尊敬してやろう。できたらの話だが。
――――魔鬼の規模は桁が違っていた。
その数――――およそ三千。
圧倒的な数だ。俺の予想を軽く超えやがった。
もしも、この渓谷にいる冒険者が全てここに終結できたら倒せるだろう。数で圧倒できる。
「もし、十六の方でも同じ規模の魔鬼がいたらどうすんだ?」
「戦線は持たないわね」
「だろうな」
このチームの人数では太刀打ちできない。ちなみに昼のメンバーは叩き起こした。それでも人数が足りない。戦術云々の前に数が足りない。
そんな俺達にまたもや悪いニュースが連絡灯で知らされる。
『四一、三一の地点で魔鬼と思われる大群が出現。その数四千。手の空いているものは援護に向かえ』
簡潔な文章。それでいて凶悪な意味を含んでいる。
四千……? おかしい、なぜこうなった?
「モトキ、俺分かった気がする」
「偶然だな俺もやっと分かった」
「私も」
三者は憎しみを込めた声で叫ぶ。
「「「この世に美味しい話ほど酷いものはない……!!」」」
俺達は渋々武器を握る。その手には自然と力が入り、手も小刻みに震えている。
この震えが武者震いであることを願いたい。
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