パワフル老人
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俺達は空の迷宮の目の前に来ていた。その名の通り塔のような迷宮だ。てっぺんはここからだと見えない。
俺とエンナが雲を突き破って聳え立つ塔に見とれていると、ガル爺が頭をポンと叩く。
「それじゃ行くかの。ちゃんと付いてくるんじゃぞ」
「おーけー」
俺達は迷宮の中に入る。迷宮だけあって迷路のようになっている。こんなところを迷わず進めるだろうか?
俺とエンナがそんなことを考えているとガル爺が手招きをする。
「こっちじゃよ。お主らには十層から始めてもらう」
「それはいいんだけど迷宮はあっちよ?」
「この門を通れば近道ができる。この門は五十層まで繋がれておる」
「転移門ですか」
その門は、紫と黒が混ざり合ったような模様だった。近くで見ると更に不気味だ。本当にこんな門で転移なんてできるのだろうか? ぶっちゃけ入りたくないのが本音である。
「ほれ、行くぞい」
「おー」
俺とエンナはガル爺に手を引かれ転移門の中へと吸い込まれていく。数秒間フワフワとした感覚が俺を襲う。結構前、斧男から逃げる為に飛び降りた感じと似ている。
「おーここが迷宮かガル爺」
「左様じゃ。ここで戦ってもらうぞい」
そして気づいたら、そこは迷宮の中だった。迷宮の中は、決して明るいとは言えないがランプが必要というわけではない。光源はどこか分からないが、ちゃんと視認できる。
「本当に転移したのガルさん?」
「問題なく転移したぞい」
「ほんと一瞬だったな」
俺とエンナが転移したことに感動していると、早速モンスターが現れた。敵はゴブリン一匹だ。俺でも何とか倒せそうだ。
「転移した直後に敵か……」
「ここは私がやるわ。モトキは手を出さないで」
「お、おう。了解した」
「どれ、ベラルの弟子のお手並み拝見といくかの」
エンナは地を勢いよく駆けてゴブリンとの間合いを一気に詰める。ゴブリンが動揺しているが、エンナはお構いなしにタガーを振る。いやぁー前とは別人だ。
ゴブリンの体が裂けて返り血を浴びそうになるが、エンナはそれを三つ編みを揺らしながら華麗なバックステップで回避する。
まさに一瞬の出来事だった。先に攻撃をして戦闘を有利に持っていっている。
「すげぇなエンナ。けっこうスピード上がったんじゃないか?」
「まぁ、こんなところね。伊達に師匠に鍛えられていないわよ」
「ほ~中々じゃな。ベラルも良い弟子に恵まれたのう」
エンナは自慢げにタガーを手元でクルクル回す。
先の戦いは速かった。まさに光の剣術だ。そして動きにもキレがある。この前よりも圧倒的に強くなってる。ちょっと焦るな。
「次はモトキの番ね。がんばってね」
「あんまり期待するなよ。俺は剣術はまだ習ってないんだから」
「トモはワシがちゃんと鍛えた。完璧な仕上がりじゃ」
「そんなにハードル上げんなよ」
俺はゴブリンと対峙する。エンナみたいに電撃作戦はできないので、剣を中段に構える。トロールと戦った俺はこんな敵には怯えない。
先行はゴブリンからだ。俺はゴブリンの攻撃を防御する。そして両手で剣を振りかぶり、勢いよく振り下ろす。
「……あれ?」
「なんで外してんのよモトキ。この至近距離で外すのはおかしいわよ」
「やはり体の方が慣れていないか」
俺の渾身の一撃は見事に外れた。原因は剣の軽さにあった。この前持った時よりも剣が軽く感じられる。まるでチャンバラでよくオモチャの剣のような重さだ。
「モトキは一体どうしたのガルさん?」
「まだ自分の体の変化に己自身が追いつけていないだけじゃよ。過度の力の増強をしたせいじゃな」
「ふ~ん。モトキは戸惑っているのね」
エンナとガル爺の言うとおり、今俺はかなり戸惑っている。剣が軽すぎて上手く振れないのだ。
今の状況を簡単に言ってしまうと俺はこの体に慣れていない。筋力がついたことは嬉しいのだが、これでは足手まといだ。
「ガル爺、この剣軽すぎて上手く振れないんだけど」
「ふむ、では特別にこれを貸してあげよう。おそらく、こいつが一番お前との相性が良い」
「お、気が利く。ありがとガル爺」
俺はガル爺から新しい剣をもらった。その剣はしっかりとした重みがあり、手に掛かる重みが気持ち良い。これなら倒せる。やはり剣は少し重いくらいが丁度いい。あくまで俺の持論だけど。
「じゃあ改めていくぞ」
「今度こそは倒しなさいよ」
俺は剣を鞘から抜くと防御姿勢に入る。あくまで狙うのはカウンターだ。
ゴブリンは攻撃を仕掛けるが、もちろんそんなものは通じない。ゴブリンは弾かれた反動で後ろに逸れる。今がチャンスだ!
「もらったぁ!」
俺の剣先がゴブリンの横っ腹を捉える。振りぬくとゴブリンの上半身が宙を舞う。
「……え? なんで攻撃が当たるのよ」
「それは剣で斬ったからだろ」
「そうじゃなくて……」
俺は自分のの剣先を見て、ようやくエンナの言わんとしていることが分かった。よく見ると剣先にしかゴブリンの体液が付着してない。それにも関わらずゴブリンの体は真っ二つに引き裂かれている。本来ならば剣の半分に体液が付着しているはずだ。
「確かにおかしいな。なんでだ?」
「それはトモの修行の成果によるものじゃよ。剣のリーチが伸びたと考えてもらって構わん」
「いや強すぎだろ……」
「またモトキが強くなった……」
俺が驚いている横でエンナが四つん這いになって落ち込んでいる。どんだけ俺が強くなるのが嫌なんだよ。エンナは俺への対抗意識が強い。俺をライバルと認めているからだろうか?
「さて、次は迷宮のもっと奥へ進むかの」
「え? 親父にあんまり迷宮の奥に行くなって言われてるんじゃ……」
「細かいことは気にするな。あれは口約束に過ぎない」
「そんなんでいいんですか……」
「私は構わないわよ。ガルさんが安全っていうなら」
どのくらい奥に行くんだろうか? 急に四十層とは言われたらやだなぁ。俺が嫌な顔をしているにも関わらず、エンナはさっきよりテンションが上がっている。楽観的過ぎだろ。
「ところで何層までいくの?」
「……五十層。そこから少しずつ奥へいく」
「は!? 五十層ってなに考えてんだよガル爺!」
ガル爺は俺の聞き間違いではなければ、五十層と言った。それは転移できる階層の限界である。いくら俺達が強くなっていても五十層はさすがに無理だ。
遂にこの爺さんも頭がいかれてしまったのだろうか?
「おかしい……なんでこうなるんだ?」
「モトキ……モンスターがガルさんに殴られた直後に消えているんだけど……」
俺達はありえない光景を目の当たりにしていた。ガル爺が五十層のモンスター相手に素手で戦って、瞬殺している。あのご老体からはとても考えられない。
もっとも驚くべきことはモンスターを倒す瞬間にある。本来ならば倒されたモンスターは一定の時間が経ってから自然に消えていく。
しかしガル爺の場合は違う。殴った瞬間に消えてしまうのだ。それが意味するのは、モンスターが拳によって爆散されているという事実である。
「ちょっとやりすぎてしまったか……」
「なんで、あんな芸当ができるんだよ……」
「モトキ、私達がいるのって五十層よね?」
そう、ここは五十層なのだ。決してモンスターは雑魚ではない。それなのにガル爺は、そいつ等を爆散させている。どこまで強いんだ一体?
ちなみに俺もこの五十層のモンスターに攻撃を加えてみたが、ちょっとした切り傷しか入らなかった。今回は俺が弱いんじゃなくてガル爺が強すぎるのだ。
「あのさぁ。さっきから聞きたいと思ってたんだけど、ガル爺って武器は使わないの?」
「ああ武器か。それなら随分前に売り払ってしまったぞい」
「武器なしでこれってことは、武器あったら、これよりも強くなるの……?」
エンナの疑問はもっともである。武器を持った時のガル爺の強さが想像できない。
俺は色々突っ込みたことはあるが、とりあえず保留にしておく。このままでは質問攻めになってしまう。
「そういえば、この迷宮って何層まであるの?」
「それは俺にもわからな……」
「百層じゃよ。ぴったり百層じゃ。ちゃんと記憶しておる」
「百層!?」
ガル爺は甲殻類のモンスターに拳で穴を開けながら、そう呟いた。百層か……攻略できるだろうか?
ん? ちょっと待て。なんでガル爺がこの迷宮が百層まであるって知ってんだ? この迷宮はガル爺によって踏破されたのか?
「もしかしてガル爺。この迷宮踏破した?」
「いいや。踏破はしとらん。だが百層でこの迷宮の主と対峙したことはある。あまりの強さに逃げてきてしまったんじゃよ」
「どんな奴だった?」
「ドラゴンじゃよ。だが二つの頭から繰り出されるブレスが中々に強くてのぉ」
「へ~そんなに強かったのか、そのドラゴン。それにしてもよく逃げられたな」
「ワシは逃げるのが一番得意じゃからのう」
どうやらこの迷宮のボスはドラゴンらしい。ドラゴンには一度会ってみたい。この迷宮を百層までいけば会えるらしいが、戦うのは勘弁して欲しい。確実に死んでしまう。
俺はそれからガル爺の冒険譚を興奮するエンナの隣で聞いて空の迷宮探索を終えた。
読んでいただきありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。




