ミルラの洞窟
ちょっとご都合主義な展開があったりしますが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。
「トモくーん。今日は最終日だっけ?」
「ああ。今日でこの講習も終わりだよ」
「洞窟行くんだっけ? 一応ランプはバッグの中に入れておいたから」
「さんきゅー、ライル姉さん」
「気をつけてね。くれぐれも怪我だけはしないでねトモくん」
「ああ、んじゃ行ってくる」
俺は店を出る。
軽快な足取りでギルドの方へ向かう。遅刻はしていない。最後の最後で遅刻をしたらさすがに締りが悪いからな。
今日は講習五日目――つまり最終日だ。
「エンナは……まだ来ていないか」
俺はパートナーである少女の姿を探すが、まだ来ていないらしい。
まさかアイツは最終日も遅刻するつもりだろうか? 学習しない奴だな。いや、学習しようとしないだけか。
時計の針が集合時間の30分を示してもエンナは来ない。二度寝でもしているのだろうか?
ちなみに、風引いたとか病気に掛かったとは思わない。心配するだけ損というものだ。
集合時間から10分が過ぎてようやくエンナが現れた。
「ギリギリセーフ……危なかった。あ、おはよモトキ」
「なにがギリギリセーフだ遅刻魔が。10分も遅れてるだろうが」
俺はエンナにチョップを入れる。
10分あれば、お湯沸かしてカップラーメンが余裕で食べられるぞ……この世界には無いけどな。
「10分くらいいいじゃん。モトキも二度寝してみれば?」
「お前……反省してないだろ」
こんな普段は、だらしないエンナだが、戦闘面では結構頼りになったりする。やっぱり一人より二人だよな。
それとウルフラビット戦以来、エンナとの戦闘での息が合ってきている。そのおかげで、他の四人パーティーが苦戦を強いられた森の奥のモンスターも余裕とまではいかないが安定して狩れている。
「さて諸君、今日は最終日だ。そして今日行くのはミルラの洞窟だ。諸君にはここで初心者最後の難関である人型モンスターの討伐を行ってもらう。討伐目標はスケルトンだ。詳しいことは現地に着いてから教える、以上!」
こうして俺達はミルラの洞窟へと向かった。
「中は暗そうね」
「ああ、そうだな……」
俺たちはミルラの洞窟に着いた。
別に変わった所は無い普通の洞窟である。ただ、何だろうか? 嫌な予感しかしない。危険を感じるというか……まあ気にしててもしょうがないか。
「ミルラの洞窟に着いたわけだが……まずはこの洞窟に出てくるスケルトンについてだ。スケルトンは通常通りダメージを与えても倒せるが、首を切断すれば即死させることができる。ちなみに、足とか切っても体力が残っている限り再生するので、弱点の首を狙うことをお勧めする」
なるほど。首を切り落とした方が楽に戦闘を進められるのか。俺の剣はスケルトンの首まで届くだろうか?
「それと魔道ランプについてだが、これは一人につき二個の貸し出しを行う。ちなみに洞窟内では魔道ランプは一個で足りるだろう。ランプを点けるのは一人で十分だ。パーティーで残りの魔道ランプが一個か二個になったら戻って来い。また補充をする。以上だ」
説明を受けると皆は次々と魔道ランプを貰い洞窟の中へと入っていく。
しかし、俺とエンナは魔道ランプを貰うと地べたに座り込む。いつもの作戦タイムだ。
「さて、スケルトンについてだが、俺は首までは届くと思うが、恐らくあまり剣に力を乗せられない。エンナは首まで届くか?」
「たぶん届くと思うわ。私って意外と跳躍力あるのよ」
エンナは立ち上がり、俺に垂直とびを披露する。一気に俺の三倍以上の高さを跳ぶ。
「おお…まさかお前がこんなに跳躍力が高かったとは知らなかったな」
「今まで高さのあるモンスターとは戦ったことが無かったから、見せる機会が無かっただけよ」
これで高さの問題はクリアした。
これで安心して洞窟へ潜ることができる。少し胸騒ぎがするが、ここで立ち止まっていても仕方がない。
「でも、ランプ点けることになるから奇襲はできないぞ」
「分かってるわ。私は後ろから弱点を攻撃するだけよ」
最近、俺達の戦闘スタイルは固まりつつある。
まずモンスターを見つけたら機をうかがって奇襲をかける。それから二人でタイミング良く攻撃。ずるいかも知れないが、これが一番楽なのだ。
だが今回は奇襲ができない。俺達の場合は二人しかいない為、奇襲でダメージを稼ぐ。だから今回は少しリスクが大きくなる。
「んじゃ、そろそろ入りますか」
「今日も張り切って行くわよ」
俺とエンナはそう言って暗闇の洞窟の中へ入っていく。
「結構暗いのね……ランプ点けてくれる?」
「あいよ」
俺は魔道ランプを点ける。点けたらランプをバックに掛ける。両手剣だから片手を塞ぐわけにはいかない。
「とりあえずスケルトン探すか?」
「そうね。単体でいる奴を探しましょう。あとマップがあるから大丈夫だと思うけど、あんまり奥には進まないようにしましょう。オーケー?」
「了解」
俺たちは洞窟の中を進む。ちなみにマップというのは、この洞窟の地図で、自分達のいる場所も表示してくれる便利な物だ。入る前にみんなに配られた。
俺達はスケルトンを探す。
一匹でいるスケルトンは、意外と早く見つかった。ランプを点けている為、あちらも俺達に気づく。スケルトンは、武器は持っていない。持っていたらこっちが困る。
「作戦通りにいくぞ、エンナ!」
「分かったわ」
俺はスケルトンに向かって剣を振り下ろす。スケルトンはそれを片手で防御する。そしてエンナは俺の横を通り過ぎ、スケルトンの背後に回る。
「ッハ!!!!」
エンナは後ろからスケルトンの首を狙おうとする。
しかし、スケルトンはその攻撃をもう片方の手で防御する。そして俺の攻撃を防御した手でエンナに殴りかかる――!
「しゃあ!」
「ナイスモトキ!」
俺はスケルトンがエンナを殴る前にスケルトンの腕を切断する。
この状態になると、時間との勝負だ。スケルトンの腕が修復する前に決着を着ける。
スケルトンは標的をエンナから俺に変えたようだ。 スケルトンが残った腕で今度は俺に殴りかかる――!
(掛かった……!!)
俺はスケルトンの拳を剣で防御する。ここ最近で剣での防御も上手くなってきた。
俺が防御に徹している為、ノーマークのエンナが地を力強く蹴る。大きく跳躍したエンナの二つの刃がスケルトンの首を引き裂いた。
「ふぅ……なんとか倒せたわわね」
「ああ。戦い方も安定していると思う」
「でも、もしスケルトンが二体いたら結構やばそうね」
「その時は逃げればいい……危ない戦いはしない方がいい」
「……それもそうね」
俺のこの発言は決して弱気な自分から出た言葉ではない。
勇敢と無謀は違う――――ガルハールさんもそう言っていた。あの言葉は間違っていないと思う。あの時のガルハールさんの顔はいつに無く真剣だった。
それから俺達は二匹のスケルトンを狩った。今日も俺達は絶好調だ。
「あっ……」
ライルは声を上げる。理由は、弟であるモトキの皿が割れたからだ。その割れた皿を見ると、眉をへの字に曲げる。
モトキは怪我などしていないだろうか?
「大丈夫かな……トモくん……」
ライルは、そんな心配そうな顔をしながら、モトキの皿を丁寧に拾い上げる。
「そろそろ入り口まで戻る? モトキ?」
「そうだな、戻るか」
ある程度スケルトンを狩ることができた俺とエンナは洞窟へ戻ることを決める。そろそろ魔道ランプが切れてきた。
「あ、どうする?」
「四体か……逃げた方がよさそうね」
「そうだな」
俺達はスケルトンから一目散に逃げる。四体はさすがに多すぎる。
意外と、スケルトンから逃れることは意外と簡単だ。アイツらは意外とトロい。
「ふぅ、なんとか巻いたみたいね……ってあれ?」
「またかよ……」
俺たちの目の前にはスケルトンが三体いた。
ちょっとした不運はまだ続いていた。俺たちはまた逃げる。まぁ、こんなこともあるか……。
「やべぇ……」
「どうしよ…………モトキ」
俺たちは袋小路に追い込まれてしまった。
正確には、行き止まりの岩壁の下に人が入れそうな穴があったりするんだが……絶対に入りたくない。中は見えないし、明らかに怪しい。
地図を見ながら逃げていればこんなことにはならなかっただろう。
だが、いまさら悔やんでも仕方の無いことだけどな。
「倒すしかないだろ……」
「モトキは私にここで死ねと?」
エンナがそんなことを言った訳はスケルトンの数にあった。
二、三体ならもしかすると勝てたかもしれない。だが今、俺達の目の前には十体のスケルトンがいた。
二十の瞳が俺達を見据える。あ、スケルトンには瞳なんて無いか……。
「モトキあのスケルトン達、突破できると思う?」
「たぶん無理じゃないかな……」
まだ距離は離れているが、スケルトン達はまるで騎士団のように整列して道を塞ぐ。どんだけ通したくないんだよ……。
スケルトン達が少しずつ近づいてくる。このままじゃ二人共フルボッコにされて死に絶える運命しかない。死への恐怖に怯えながらも、俺はある決断をする。
「しょうがねえか……」
「モトキ?」
俺は手に治まる位の石ころを拾うと岩壁の下にある穴に落とす。石の落ちた音はすぐに俺の耳へ返ってくる。
「これなら問題ないか。エンナ、この穴に落ちるぞ」
「ええ!? モトキ正気!?」
「正気もなにもこれしか方法は無い。大丈夫だ。落ちても無傷で済む高さだ」
「でも…………」
エンナは少し考えた後、決断した。
「分かったわ。この穴に落ちるしか方法はないんでしょう?」
「ああ。じゃあ行くぞ」
俺達は一緒に怪しさ溢れる穴へと落ちていった。




