穴の落ちたので行動方針を立てる
「お~い、エンナ生きてるか?」
「ええ、なんとか。そっちは大丈夫?」
「ケツがマジ痛い。起き上がれねぇ……」
「その様子だと大丈夫そうね」
そこは上の洞窟の道幅よりも三倍ほどの広さを誇る大きな道だった。
ここってどこだ? 勿論、答えてくれる者などいない。
俺たちは、あの穴から落っこちて、ここにたどり着いた。
奇跡的なことに骨折はしていない。この体は丈夫すぎる。それともこの世界ではこの位は普通なのか?
「何とか無事だったみたいだな……って避けろ! エンナ!!」
「え?」
俺は尻の痛みも気に留めずエンナを抱えてその場から離脱する。
エンナが離脱するのとほぼ同時にスケルトンが落ちてきた。ここまできても諦めないか……何か俺達に恨みでもあるのだろうか?
「くそっ! エンナ、早く逃げるぞ!」
「いいから早く下ろしなさいよー!!」
俺は顔を赤くしたエンナを下ろす。さすがに最初からお姫様抱っこはハードルが高かったか。
さて、俺はスケルトン達の方を振り向く。今度は袋小路じゃないから、なんとか逃げ切れるだろう。
しかし、俺の考えは無駄に終わった。
そこにはスケルトン達の残骸があった。
なぜだろうと思うと、上からまたスケルトンが落っこちてきた。スケルトンは残骸の上に不時着する。愚かなことに頭から残骸への着地を試みる。
スケルトンは「パキッ」という音をを立てながら首を折った。これでスケルトンの残骸の理由が分かった。
「……まさかコイツら、あの穴からヘッドダイブしてきたのか?」
「まさか…嘘でしょ?」
しかしあの穴からヘッドダイブでもしない限り、不自然な着地の説明がつかない。
それにしてもコイツらは自分達の弱点を知っているのだろうか? まぁ知ってたらこんな真似はしないか。
「まぁ嬉しい誤算だな、エンナ」
「今まで戦ってきた敵がここまで呆気なく消えると、何か切ないものを感じるわね」
「エンナ……俺もだ」
十体もいたはずのスケルトンが今は残骸の山となっている。一度は死ぬかもしれないところまで追い込んだスケルトン達は誰にも倒されること無く自らの判断で死んだ。ていうかダイブした理由が是非とも知りたい。
「スケルトンの事はとりあえず置いといて、今は状況の整理が先決だ」
「ええ…分かったわ」
「とりあえずゆっくり話せる所は……あるはず無いか」
「モトキ、あれ」
エンナが指指した先には小さな洞穴があった。俺達は洞穴に近づく。洞穴の入り口には文字が彫られていた。
《休憩所》
『ここに来た者は武者修行をしにきたか、間違ってそこの穴から落っこちてしまって者だろう』
『ここは寝ることも許されないミルラの深層じゃ。寝ている間もモンスターがいつ襲ってくるか分からん。そこで私は、ここを訪れる者に対して静かに眠れる場所を提供しよう』
『旅人ガルハールより』
まさかのガルハールさんの名前ができていた。一体何者なんだガルハールさん。まぁ、そんな事はどうでも良い。これは嬉しい情報だ。どうやらここで休めるらしい。
「入ってみるか?」
「ええ、そうしましょ。もしかすると何かここから出る方法が見つかるかもしれないし」
「そうだな。入ってみるしかないか」
俺たちはその洞穴に入ってみた。
中をランプで照らすと本当にただの休憩所のようだ。家具などは一切置かれていなかった。そして壁には何かのレバーがあった。さらにレバーの横には何か書かれている。
――結界の使用方法について――
『結界の使用方法についてたが、これはレバーを下に下ろすだけじゃ。それと……』
なるほど、下ろせばいいだけなのか。俺はレバーを下ろしてみる。
そうすると洞の入り口が青白く光り、すぐに入り口は青白いシールドのような物で覆われる。
「ほぅ、便利なもんだな」
「これでモンスターが来ても安心ね」
「ずっとここにいて、助けを待つのが無難だな。てか助けくるか? もし来なかった二人とも餓死だな」
「希望を持てないようなこと言わないでよ」
一応レバーを下ろしてみたが、まだ説明を読んでる途中だったな。俺はガルハールさんが残してくれた説明の続きを読む。
『それと……この結界は洞窟内の魔力を少し分けてもらっとるだけじゃから一日9時間しか持たない。ちなみに一回発動させたら一時停止をすることはできん。では若き冒険者の健闘を祈る』
まじか。9時間しか持たないのか、この結界。
これでずっと此処にいることはできなくなった。そして、あと9時間後には結界の効果が切れるのだ。
「モトキ……もしかして私達かなりピンチ?」
「結界はあと9時間しか持たない。エンナ、今のうちに睡眠を取るぞ。しっかり寝ておけ」
「眠たく無いんだけとど……」
「結界の停止ができない以上、今寝なきゃ後々しんどくなってくるぞ」
「分かった……頑張って寝る」
エンナはそんなことを言っていたが、俺よりも遥かに早く眠りに着いた。さすが5日間ずっと遅刻をしてきただけはある。
一方、俺はまだ寝つけていない。怖いのだ、これからのことが。
マップを見ても俺たちの現在地は地図に記されていない。つまり入り口に戻れない。落ちてきた穴も高すぎて届かない。
「どうしたもんか……」
俺はステータスを開く。脱出の手立てはどこに転がっているか分からない。生憎、脱出に使えるようなものは無かったが、一つスキルが追加されていた。
アルバアクセル
効果:俊敏力10倍 発動条件:相手が<すごく強い>
またしても使えないのが出てきた。
ちなみに今日戦ったスケルトンの強さは<ふつう>だった。いつになったらこのスキルを使う機会が来るのだろうか。
俺は新たに使いどころの無いスキルを得たことに落ち込みながらも、瞼をゆっくりと閉じた。
「遅い……」
ブルーズはカウンターに肘をつく。理由はトモが帰ってくるのが遅いからだ。いくらなんでも遅すぎる。もう店を閉める頃合いだ。
今の絶好調のトモならスケルトンごときに負けるはずは無いのだ。地図だってあるらしいし、エンナというパートナーもいるらしい。負ける確率のほうが低い。
「もしかするとキャンプでもしてんのかも知れないな」
そうだ。キャンプでもしているのかも知れない。トモ達を引率していた現役冒険者の姿も店には見えなかったし、そうかもしれない。
「トーモ大丈夫なのかな?」
「心配するな、カーテ。きっとキャンプでもしてるんだろ。明日には帰ってくるさ」
「本当?」
「大丈夫だから、カーテはもう寝ろ」
ブルーズはカーテを早く寝るように促す。変な心配は掛けない方がいいだろう。
「ふぁあ……」
俺は目を覚ます。寝心地はあんまり良くなかった。ベットのありがたみを改めて思い知る。そして、上半身を起こすと俺は時計を見る。
「結界が無くなるまであと1時間か。お~いエンナ、起きろー」
俺はエンナの体を揺さぶるが、エンナが起きる気配は無い。今度はエンナのおでこを叩く。今度も反応はない。かなり熟睡してるな。
俺がどうやって起こしたもんかと悩んでいると俺の中の悪魔が名案……もとい一つのイタズラを思いつく。
『今なら変なことしてもバレないんじゃね?』
(なんだと!?)
俺の中の悪魔がそんなことを言ってきた。
確かにバレないかも知れない。だがそれでいいのか一人の人間として。
『大丈夫。エンナは熟睡している。問題はない』
(しかしだな……)
そんなことしたら俺は一生罪悪感に押しつぶされるかもしれない。
だが、俺が悪魔の言葉には屈しないと決めても俺の悪魔はまだ諦めない。
『お前は一人の人間である前に、一人の男では無かったのか? 男なら罪は背負っていくもんだ。お前に今必要なものは、難しい考えではなく罪を恐れぬ勇気だ』
(っは!?)
おお……何か凄くカッコいいこと言ってるな俺の悪魔。
そんな言葉を聞いたら罪くらい幾らで背負ってやるさという気持ちになってしまうじゃないか。自分の意思の弱さが憎い。
「よし……」
やろうと決めたら実行するのは早い。
俺はエンナの胸に手を置くと八の字を描く。たとえ無くても胸は胸だ。俺は無くても全然問題ない。ちなみにロリコンでは無い……と思う。
そして俺はエンナの顔に視線を移す。
エンナの茶髪は手触りがいい。そしてエンナ柔らかそうな唇に整った鼻。エンナの澄んだ目はパチリと開いており…………ん? 開いている?
「ばかーーーー!」
「ぶぐぅ!」
俺の悪魔……やっぱ駄目だったよ。今度からお前の言うことは参考にしないわ。
「まったく、何やってるのよモトキは」
「はい……すみませんでした」
俺はエンナに平謝りをしていた。それにしてもパンチ痛かったな。もう二度としないと俺は心に誓う。
「さて、気を取り直してこれからどうするか考えよう」
「どの口がそんなこと言えんのよ」
「う……まぁ話を戻す。シールドはあと少しで切れる。そのため俺達はモンスターとの戦闘を強いられるだろう。で、これからの活動方針についてだが、ここにずっといるか、それとも探索して出口を探すか、エンナはどっちがいい?」
「ここにずっといてもシールドは無いからモンスターは必ず襲ってくるのよね?」
「ああ。しかも、あの穴は近づかないと見えない位置にあるから現役冒険者気づいてくれる可能性も低い」
「なら出口を探すしかないわね」
こうして俺達の活動方針は決まった。一応ここには置手紙を残しておく。 俺達はライル姉さんが用意してくれたバッグの非常食を食って洞穴を後にした。




