●act04: 「偽らざる姿」
ニッキーとロッコは宿舎の賓客用の部屋に泊まっていた。
広く、美術品のような調度品が置かれた豪華な部屋。
ロッコはその広間のソファーに脚を組んで座り寛いでいた。
シャワールームからニッキーの鼻歌が聞こえてくる。
厄介事も解決したようだ。
今夜はゆっくり寝て、明日にはここを出られる。
早くこの臭いから抜け出したい。
ロッコはそんなことを思っていた。
シャワールームの扉が開きニッキーが出てきた。
バスローブを纏い、頭にはタオルを巻いている。
澄んだ白い肌が艶っぽく淡いピンクに染まっていた。
「はぁいぃ、お次どぅぞぉ」
ロッコはそのままニッキーを押し倒したい衝動に駆られる。
「オレはこのままでいいさ。
ここで君のストリップショーをみたいな」
「バカ言ってないでシャワー浴びなさい。
貴方が良くてもわたしはイヤよ」
蔑むような眼つきで自分を睨んでくる。
この顔もソソる。
このままニッキーをベッドに投げ飛ばして貪りたいが、そんなことをすれば当分口も聞いてくれないだろう。
それは困る。
「はいはい」
ロッコは立ち上がり、シャワールームに向かった。
するとニッキーが、
「あと、念のため言っておくけど、今夜は満月よ。
外出ちゃダメよ」
「はいはい」
そう、今夜は満月。
だからかもしれない。
獣の心が求めているのだろうか。
己の中にある忌まわしい獣の意識。
ロッコは嫌悪した。
まあ、やりたいようにやるさ。
シャワールームに向かうロッコ。
ゆっくり歩きながら、服を床に脱ぎ捨てていく。
「もう散らかさないで」
「オレのストリップショーはお気に召さないかい?」
「バカ!!」
ロッコは最後のトランクスを脱ぎ、素っ裸になるとシャワールームに入った。
シャワーを浴びる音。ロッコの鼻歌が聞こえる。
そして、ソファーからシャワールームの扉まで点々と似ぎ捨てられたロッコの服。
ニッキーは思う。
・・・なんであの男はこんなバカげたことをするのだろう。
ニッキーはロッコの服を拾い上げ、腹いせとばかりにゴミ箱に突っ込んだ。
鏡台の前に座り髪を乾かしヘアブラシで整えるニッキー。
今日一日の行動・言動に問題がなかったか思い返していた。
ハート家の一族として、次期当主として。
己はハート財団の次期当主として強い権力を持つ。
だが、この権力は自分のためにあるのではない。
己の欲望ではなく皆の幸福のためにある。
権力者は奉仕者でなければならない。
権力者は皆の前に膝まづかなければならない。
亡き父がそうであったように、、、
ふとロッコのことが頭によぎった。
なんであの男のことを思うのだろう。
あの男は父とまるで違う。
自分勝手で、いい加減で、そもそも良識というものが欠如している。
確かにあの男は自分の初めてを許した相手だ。
でも、あの男は自分を己の持ち物か愛玩動物のように扱う。
いつもからかってくる、、、
イライラする、腹立たしい、、、
、、、でも、愛しく想う。
何故だろう、、、
就寝前に体をキレイにして髪を整えている。
ただ寝るだけなのに、、、
いや、それだけではない、ロッコと抱き合う為にしている、、、
ロッコにキレイな自分に触れてほしい。
悦びをあたえてほしい。
ロッコの温もりを感じたい、、、
わたし、女なんだ、、、
理性ではない、感情だ。
わたしの想いを、願いを叶えてくれる。
ときおりみせてくれる気遣いが嬉しい。
彼の笑顔が好きだ、、、
ニッキーはため息をついた。
「あーっ、モー、、、」
自分自身で御せない感情。
「こんなのが愛情なの?」
ニッキーが物思いにふけっていると一発の銃声が聞こえた。
「なに?」
部屋の入口の方からドタドタと駆ける音が聞こえてくる。
乱暴なノックの音。
「どうしたの?」
ドアの向こうから声がする。
「横領事件の犯人が脱走しました。
ハートお嬢様はお部屋から出ないようにお願いします!」
「何ですって?!」
シャワールームの扉が開き、泡だらけのロッコが顔を出す。
「ニッキーどうしたんだ?」
ニッキーは寝間着の上に上着を羽織り、ライフルを持ち出し部屋を出ていく。
「おい、ニッキー!待てよ!!
ああ!もう!かんべんしてくれ!!」
ロッコは大急ぎで身体の泡を洗い流し、ズブ濡れのままタオルを持って裸でシャワールームから出てきた。
「おい!オレの服どうした?!」
喧騒が聞こえる。
「そっちに逃げたぞーっ!」
ニッキーが宿舎を出ると、多くの男たちが周りを駆け回っていた。
皆、銃を持っている。
『横領事件の犯人』となるとフレディ マーチンになる。
しかし、脱走・逃亡までする理由がわからない。
容疑は横領。
そこまでしなければならない罪にはならないはず、、、
いつも集会を行う広場に行くと、そこに工場長がいた。
部下たちに指示しているようだ。
工場長はニッキーに気付き駆け寄ってくる。
「ニッキー様、部屋にお戻りください。危険です」
「どうしたの?」
「マーチンが、兵を殴り倒して脱走しました。銃を持っています」
「なぜそんなことを、、、」
「彼は特別会計の横領だけではなく、備品や石油の横流しもやっていたようです。
今回の件で共謀した彼の部下が自首してきました。
帳簿を押さえられ、隠しきれないと観念したのでしょう。
マーチンに任せっぱなしにしていた私の責任です」
ニッキーは異様な臭いに気付く。
「なにこの臭い?」
元々石油の臭いがする場所だが、それはもう慣れて感じないほどになっていた。
だがこの臭いは別のかなりキツイ臭い。
身の危険を感じるほどの強い異臭。
工場長は青ざめる。
「これは、、、ガス漏れだ!
みんな、火を消すんだ。銃は撃つな!」
ケリーを乗せたデレクが工場の近くまで戻ってきた。
喧噪が聞こえる。
そしていままでとは違う異臭。
ケリーが呟く。
「なんか臭いがすごいな」
するとデレクは歩みを止めた。
デレクはジッと動かなくなる。
「デレク?」
デレクは危険を感じたのであろう。
ケリーを危ない場所に連れていくことはできない。
ケリーもそれを察した。
「お願いだ、様子を見に行きたい。
ニッキーとロッコが心配だ。
、、、デレクお願いだ。」
しばらくしてデレクは歩み始める。
目の前のガルフの工場に向かって。
「ありがとう、デレク」
男たちの怒号が飛び交う。
「火を消せーっ!」
「機械を止めろ!」
「発電機もボイラーも止めるんだ!」
工場内の電灯も次々に消えていく。
だが今夜は満月。
暗闇にはならない。
満天の月明りが大地を照らす。
「かなり臭うわね」
異臭は増々強くなっていく。
「まさか、ガスの原液のバルブを開けたのか?
フレディのやつ!
ニッキー様、部屋にお戻りください。
ここは危険です」
いま自分がここにいても何もできない。
工場長の足手まといになるだけだ。
工場の工員たちに任せるしかない。
「わかりました。よろしくお願いします」
「承知しました」
工場長は周りの工員たちに叫ぶ。
「開いているバルブを探せ!」
ニッキーは急ぎ足で宿舎に向かった。
するとケリー、デレクと出会う。
ちょうど戻ってきたところなのだろう。
ケリーはデレクから降りて、デレクはそのケリーについていた。
「ニッキー、どうしたんだ?
この臭いはなんだ?」
「ケリー!よかったわ、部屋に戻りましょう」
すると突然建物の影から男が飛び出し、ニッキーは体当たりされ倒れた。
「キャッ!」
うつ伏せに倒され、男はニッキーに馬乗りに伸し掛かり腕を後ろ手に絞め上げる。
「動くな!
こいつを撃つぞ!!」
その男はフレディ マーチンだった。
自分が持っているライフルの銃口をニッキーの頭に押し立てる。
「はははは、捜す手間が省けたぜ。
お前には礼をしなきゃなぁ」
皆、遠巻きにフレディ マーチンを囲んだ。
むやみに近づけばニッキーが撃たれてしまう。
ケリーが光の呪文を詠唱し始めケリーのペンダントが赤く光り始める。
だがデレクが止める。
ケリーは光の力を使うことを止められていることを思い出す。
「くそ!」
風の力でマーチンを吹き飛ばすことはできるが、ニッキーも巻き込んでしまう。
そうなるとニッキーも無事では済まないだろう。
目の前に居ながら手立てがない。
工場長も駆けつけてきた。
「やめろフレディ!お嬢様を放せ。
いま撃ったらガスに誘爆してお前も無事じゃ済まんぞ」
「ああ、どうせ俺の人生は終わりだ。
せっかく一生懸命働いていたのによう。
ちょっとくらいご褒美もらったっていいじゃないか。
それがだいなしだ。
この女のせいでな!
お前が来なければ、俺は金と自由が手に入ったんだ!
もうトンずらする準備もできていたのによぉ。
こんな何もない荒野の真ん中で臭い油掘りばかりさせやがって!!」
横領と資産の横流し。
そして逃亡まで企んでいたようだ。
軽い罰では済まないだろう。
己の欲望のため不正を働く。
仕事に不満、不平があったとしても許されるものではない。
ニッキーは反論する。
「ずいぶん勝手な言い分ね」
「うるせえ!!」
マーチンはニッキーの腕を捻りさらに絞め上げた。
「痛い!!」
悲鳴をあげるニッキー。
「ハート財団の次期総帥が道連れなら、俺の最期を飾るにはちょうどいいだろ。
みんな道連れにしてやる」
ガスの臭いは増々強くなっている。
少しの火花でも誘爆するかもしれない。
もし誘爆すれば工場全体に広がり、多くの犠牲者が出てしまう。
ニッキーは苦痛に耐えながら声を絞り出す。
「やめなさい、、、」
工場長も叫ぶ。
「やめるんだフレディ!!」
だがフレディ マーチンは常軌を逸っした瞳をしていた。
凶人が叫ぶ。
「みんな死ねーッ!!」
ライフルの引き金にかけた指に力が入る。
すると頭の上から声がした。
「おい」
雲のない夜空に満月が輝き月明りが大地を照らしている。
明かりを遮るものはない。
だがそこに突然、影ができた。
「え?」
マーチンは夜空を見上げた。
頭上の満月。
その月明かりを背に狼人が飛び降りてきた。
狼人が持つ刀がマーチンの身体を真っ二つに切り裂く。
悲鳴も上げられずその場に倒れるマーチンの身体。
その下に抑えられていたニッキーは大量の返り血を浴びた。
立ち上がる狼人。
「オレの女に手を出した酬いだ」
周りの男たちが騒めく。
狼人は二つになったマーチンの身体をどかし、ニッキーに手を差しのべる。
よろめき立つニッキー。
利き腕を捻られ痛みでその腕を動かすことが出来ない。
寝間着も上着もそのウェーブのかかった美しい金髪さえも血まみれとなっていた。
その頬にも血が飛び散っている。
ニッキーは腕の痛みを堪えながら、
「所長、お願い、みんなを下がらせて。
彼は敵ではないわ」
工場長は男たちに叫んだ。
「みんな!
開ているバルブを探せ!
バルブを閉じるんだ。
絶対火を起こすな!
小さい火花でも引火するぞ。
ほらほらほら!早くしろ!!」
男たちは戸惑いながらも現場に向かった。
残ったのは、ニッキー、狼人、ケリー、デレク、工場長、そして二つの死体となったフレディ マーチン。
ニッキーは動かせる方の手でおもいっきり狼人をビンタした。
利き腕ではないため力の加減ができない。
「なぜ殺したの?!」
狼人はニッキーを睨み、
「そうしなければ、ニッキーが殺されていた。
オレは君の用心棒だ。
君を殺そうとするヤツをオレは許さない」
睨み合うニッキーと狼人。
ケリーが尋ねる。
「ニッキー、その狼人はなんだ?」
狼人が振り向きケリーを睨んだ。
狼人が持つその刀からは異様な妖気が放たれていた。
そしてその狼人から感じる気配。
普通の魔獣のものではない。
この感覚には覚えがある。
その感覚はいつも身近に感じていたもの、、、
そして妖気を放つ刀。
背に携える刀の鞘。
答えが導き出される、、、
「まさか?
お前、ロッコか?!」
to be Continue
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■次回予告
ケリー:
「魔獣の呪いのことは聞いたことはある。
でも、見たことはなかった」
ニッキー:
「そうね、わたしもあの人に会うまでは知らなかったわ。
満月の夜、
満天の月明かりの中、
煌々と瞳を輝かせ、
牙を剥いてわたしを睨みつけていたの」
次回
アフロディアックスウェスト
「狼人の呪い」
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