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92 拝金主義者 傭兵は襲撃にも動じない。

 旅にアクシデントはつきものです。

 平原を抜け、街道をしばし進んだ場所にある野営地。その日はそこで野営をすることにした。

「火を見ているとなぜか、落ち着くのってなんででしょうねー。」

「見るところが定まってるからじゃないか。」

 ほうぼうに点在する野営向けの平原。そこに魔導車を止め、焚火をつけて夜に備える。いつもなら魔導車に引きこもるのだが、今日に限ってはほかの先客がいたので一般的な旅の傭兵を装うためにこうして野営を装っている。

「向こうさんはもう休まれるみたいだなー。」

「ですねー。」

 平原の対局に位置するのは商人と思われるキャラバンだった。こちらと同じように焚火を囲んで見張りらしき傭兵だ二人ほどこちらをぼんやりとみている。

 快適な旅路において、通りすがる相手とは基本的に距離をおくものだ。雪山など過酷な場所ならば物資や情報を交換したり、協力して火を維持したりすることがある。だが大陸の東側のように比較的安全な場所では他人はむしろ、不穏分子でしかない。旅人のフリをした山賊や詐欺師もいれば、ちょっとした出来心で盗みや強盗を働くやつもいる。

 だからこそ挨拶は最低限、野営の場所をお互いに距離を置くのがマナーというわけだ。信頼して寝込みを襲われるなんてことが珍しくないのだ。

「むしろ、こちらさんが怖がってますよ。」

 まあ、こっちのほうが物騒だしな。

 ちなみに見張りは俺とグレイスだけだ。キアリーさんとエーフィは一応護衛対象なので、見張りには参加せず車で休んでもらっている。けして見張りとして信用できないとかじゃないよ。やりすぎそうで怖いというのもあるけど。

「というわけで先に休んでいいぞ。」

「ははは、付き合いますよ。たまには僕も身体を動かした方がいいですし。」

「おいおい、まるで何かトラブルが起こるみたいな言い方をするなよ。」

「そうですね、そんなことあるわけないですよねー、雪山じゃないんだから。」

 はははと笑いあう。だめだ、我ながら大根が過ぎる。

 ひゅん。

 腹部を狙って飛来する鋭い矢の一撃を、受けて俺は仰向けにゆっくりと倒れる。

「動くな。」

「はは、野営とはいえ、鎧を脱ぐのはどうなんだ。。素人め。」

 飛来する矢ともに、ニヤニヤと笑う傭兵が5人ほど暗闇から現れる。

「逃げ場はないぞ、仲間が周囲を囲んでいるからな。」

「頼りの近接職はお陀仏だ。観念しな。」

 口々に挑発する山賊たち、その言葉を証明するようように周囲に4か所明かりがともる。そこに狙撃手がいるということだろうか。

「はあ、しかたないですねー。」

 億劫そうに立ち上がるグレイス。緊張感がない姿は、観念したともいえるが、よく見れば術が待機状態になっているが、山賊たちが気づいた様子はない。

「しかしまた、なぜこちらを狙ったのですか?あちらの方が実入りは多そうですけど。」

 遠目に見えるのは商人たちのキャラバンだ。こちらの様子に気づいていないのか、見て見ぬふりをしているのか、要警戒だ。

「お前ら、自分たちがどれだけ目立っているかわかってないだろ。」

「はあ。」

「港町からこっち、各地を転々としていたようだが、その目立つ魔導車に兜野郎の人相、知恵のある悪党はみんなお前らを追ってるぜ。」

 なるほど、わざわざ追ってきたというわけか。各地を転々としていたというのは謎情報だが、

「まあ、最近は目立ちまくってますからね。ゼムドさん。」

 おい、それは失礼というものじゃないか。

「まあ、傭兵さんとしては活躍してたみたいだけど、裏稼業の人間の相手はこの通りよ。」

「バカみたいに通り道を作ってくれたんだ、追うのは簡単だったぜ。」

 そうだな、うかつだったかもしれん。

「お前らがな。」

「はっ?」

 驚きすぎ、倒れた相手の注意を怠るなよ。

 すばやく起き上がって、両手に持っていた連射式ボーガンを四方に乱射して、こちらをのんきに狙っている狙撃手を狙い打つ。

「矢の一本が当たった程度で、倒したと油断するな。狙撃手が手元に明かりをつけるな。」

 10連式のボーガン、引き合がねを引くと10発の矢が射出される大型のものだ。

「いやさあ、普通は対策するよね。」

 こんなみえみえな釣りにあっさりとひっかるなんて、君たち素人だね。

「グレイス。」

「はいはい、パラライズグラスっと。」

 同時に待機させていたグレイスの付与術が発動し、平原一体に雷光が広がる。

「ぎがや。」

「があ。」

 そして聞こえる苦し気な苦悶の声。見事な技だ。

「平原一体に付与とか、お前も大概だよなー。」

「そうなんですか、僕、付与関係の知り合いいないんですよ。」

「そうか。」

 パラライズグラス、サポートや支援ばかりの付与術の中で唯一の攻撃系デバフだ。範囲もしくは対象を指定して相手に痺れのデバフを付与する。殺傷力そのものがないこと、付与術師の攻撃力が絶望的なこともあり、ソロでは使い道が皆無だが、仲間がいる状況や複数を相手にするときは非常に有効な魔法だ。

「おいおい、マジで明かりのところに狙撃手がいたぞ。ばかなのかこいつら。」

 発動済みの暗視で念のために確認してみると、明かりの近くにいる弓を構えた狙撃手と近づいてきた5人以外の敵影はない。

「ああ、やっぱり商人さんたちも巻き込んでしまったみたいですけど、いいんですかねー。」

「どうせグルだろ。」

 この状況に至って、助けどころか、逃げるそぶりもない。仮にグルじゃなくても、過剰防衛の巻き添え事故なので、悪いのは山賊たちだ。

「まあ、とりあえず。」

 びくびくと痙攣している山賊に近寄る。

「色々と教えてもらおうかな。」

 我ながら、実にいい笑顔だ。兜越しでも伝わる俺のフレンドリーさで、山賊たちは素直に教えてくれたよ。

ゼムド「山賊対峙は倒してからが本番です。」

グレイス「久しぶりに出番があってうれしい。」

キアリー「すやー。」

 きな臭い雰囲気からの、次回は懐かしのあの人達が。

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