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22.撤退…?

「おーおー、鬼のルーカスが戻ったか。…お前、何件仕上げるつもりだよ」

「……知らん。あるだけだろ」

「……はぁ。まぁお前らしくていいんだけどな。この国で悪い事すると鬼が来るぞっと」

「…………。」


 仕事は楽だ。作戦の立案、遂行、後処理。途中で躓けば修正。どうにもならなければ撤退し、再度作戦の立案。最後に求める結果がわかりきっているから、自分の現在位置が手に取る様にわかる。

 翻って、彼女との関係は今どこなのか。

 修正が必要な時期なのか、それとも……。


「ほれ、飲め」

「…酒?仕事中だぞ。」

 ザックが突き出してくるグラスに顔を顰める。

「あのなぁ、ほぼ3週間飲まず食わずに近い生活してる人間から仕事を取り上げろっつー上司からの命令だよ!」

「…ほっといてくれ」

 飲まず食わずなわけないだろうが。

「お前が働き過ぎると、俺の相対評価が下がる。迷惑だ」

「……ちっ」

「いい性格してんなぁ?」

 だいたい飲まず食わずでいるだろう人間に酒なんか出すか?頭おかしいだろ。

 などと思いはしても口には出さない。喋る事も面倒くさい。


「……帰る」

「おーおー帰れ帰れ。寄り道せずに早く帰らないと彼女が帰っちゃうよ?」

「…は?」

「何か官舎の入り口で別嬪さんが誰かを待ってんだって。何だったかなー?榛色の瞳と髪でー、20歳くらいのー?」

「はっ!?」

「かれこれ2時間」

 は…?夜の11時半だぞ…?

「なぜ…」

 などと言っている場合では無い。

 いや、なぜはなぜだが、とりあえず後回しだ。


 もはや頭も体も思い通りに動かず、どうやってこの場までやって来たのか分からないほどの早さでたどり着いた官舎。

 その無機質な建物の前には…


「クレア嬢…?」

 こちらの姿を認めて駆け寄って来る人物は間違いなく…

「エドワーズ様!お仕事…今、お戻りですか?」

「いや、なぜ、こんな時間まで外で何を…」

「…お待ちしておりました」

「待つって…なぜ…」

 伏し目がちだった彼女の瞳と目が合う。

「申し上げたい事がございまして……」

 こんな時間に外で待ってまで言いたい事…。

 ああ、これは撤退の合図か…。

「…エドワーズ様?エドワーズ様!」

 わかっている。最初から間違えていたんだ。

 言うべき事があったのに、何も伝えなかった私が招いた事。わかっている。だからそんな顔を…



 

 なぜか都合のいい夢を見ていた。

 夢の中で私は彼女に告げる。

 君の零した一粒の涙が忘れられないと。

 言い訳のように告げる。

 もっと早く会いに来たかったと。

 そして何度も何度も繰り返す。

 シガールームには何があっても絶対に入ってはいけないと。

 君は何度も困ったように微笑んで、『絶対に入りません』と言う。

 …そんな、都合のいい夢を。



「…夢?…っツ…頭が…」

 目覚めてみれば、何のことはない、いつもの無機質な自分の部屋。

 昨夜のことは…どこまでが…夢…

 はっきりとしない頭を抱えて体を起こす。そしていつもの習慣で時計を見る。

 10時……10時!?はっ?仕事は…?

 まさか寝過ごした?こんな事今までに…いや、現実逃避している場合では無い。

 やけに重たい体を引きずり、ベッドから降りようとしたところで聞き慣れた声が降って来た。


「あ!いけません!まだ寝てなくては!」

「…は?」

 現実感の無い台詞に、おそるおそる声の主の方を見る。

「エドワーズ様、熱がかなり高いのですよ?さ、もう一度横になってください」

「…………は?」

「は?ではありません。39度もあったのですよ!寝てください!」

「…………は?」

「……なるほど、朦朧とされているのですね。ほら、私の肩に掴まって…」

 急速に現実に戻る自分の意識の中に、彼女の姿がどうしても合致しない。

「クレア嬢…?本物の?」

「偽物にお会いになった事が?ぜひ紹介して下さいな。大学で代返頼みますわ」

 

 夢はまだ…続いているのだろうか。


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