#1960 引き抜きへゴー!今度は〈氷の城塞〉だよー!
「こんにちは~、引き抜きに来たよ~」
「ぎゃー!? 私の城が調略によって落とされるー!?」
おお、良いリアクション!
やってきたのは〈氷の城塞〉。ここに俺が求めるタンクの候補が居るとのことなのだ。
お邪魔したところギルドマスターのレイテルが早速良いリアクションで出迎えてくれたんだよ。
「歓迎ありがとうございます!」
「歓迎全っ然してないよ!? どんな勘違いしたの!?」
さすがは〈氷の城塞〉のギルドマスター。ツッコミのキレが半端ではない。
もうこの子を引き抜きたいくらいだ。
「あ、もしよかったら〈エースシャングリラ〉に来ない? レイテルなら大歓迎だ。【雪氷園の姫君】になりたければ俺がサポートするぜ?」
「なに平然と私を引き抜こうとしてるの!? それダメなやつだから! 成功しちゃアカンやつだからね!? でもちょっと魅力的!」
大丈夫だ。俺にはすでにモニカやラウといった実績がある。ギルドマスターの引き抜きはお手のものさ。
「あ~ゼフィルス君、レイテルはダメだよ。一度〈新学年〉経験してるからもう〈転職制度〉は使えないし」
「なぬ?」
ちょっとその気になりかけていたらミサトから待ったが掛かった。
3年生でも次の〈転職制度〉を使えば問題ないと思ってたが、〈転職制度〉は1度しか使えないルール。レイテルはもうやり直しはできないのだ。無念。
レイテルが装備姿だったものだから分からなかったぜ。
「残念だ」
「うっ、本気で残念がられると揺れるじゃん……。っていやいやいや! 私には〈氷の城塞〉がある! 欠片も気持ちは揺れないよ! た、たとえ〈エデン〉に入った方が成長できるとしてもね!」
やっぱりギルドマスターの引き抜きも本気でやればいけそうな気がした。
「しかし、それじゃあミサト、対象はどこなんだ?」
「たはは~、それじゃあとか、いきなりギルドマスターを引き抜こうとするゼフィルス君には脱帽だよ~」
「ほんとよ! もし私が〈転職制度〉を利用できていたら、危うく引き抜かれていたわ!」
やっぱりレイテルって引き抜かれる気満々に見えるんだぜ。
「ちょーっと待ってね、今呼び出し中だから、ってあ! キタキタ、あの子だよ!」
「ハロー、お待たせしました。ミサト先輩とゼフィルス先輩ですよね?」
そこに居たのは青系の長い髪を纏った女子。第一声が「ハロー」という明るい挨拶のとおり、表情も明るい元気の良い子という印象。ちょっとシャロンに近いかな? 制服姿で胸のところに伯爵の子を示す〈白の羽根飾り〉を着けていた。
「って、引き抜きする子ってテルニアなの!?」
「あ、ハローお姉ちゃん。黙っててごめん?」
「疑問系!? テルニアちょっと待ちなさい、〈エデン〉に行く気なの?」
「うん!」
「いやいやいや!?」
「お姉ちゃん? ――ミサト、解説を」
「うん。ゼフィルス君、今回話があったテルニアちゃんはね、レイテルの妹さんなんだよ~」
「そうなのか!」
なんと。そういえば雰囲気が似ている。髪の色も一緒だし。
レイテルに妹が居たのか……!
「テルニアが〈氷の城塞〉を抜けたら私の後は誰が継ぐのよ!?」
「いっぱい候補が居るじゃないのさ。私じゃなくてもいいでしょ? というよりギルドマスターの妹ってだけで次のギルドマスター候補になって、私、結構肩身狭いんだけど! 私、レベルも低いし!」
「ちょ、それが理由!? 分かった、改めるから。だから脱退はちょっと待って頂戴!」
「もう決めたから断る!」
「せめて相談くらいしなさいよ!」
「したよ!? 私相談したよ!? でも変わらなかったから行動に移したんだよ!?」
うむ。どうやら姉妹故に遠慮無しの言い合いに発展しそうな雰囲気だな。
だが、ヒートアップしそうなそこへストップが掛かる。もちろん掛けたのはミサトだ。
「はいはいストップ! レイテルもテルニアちゃんも落ち着きなよ~。ゼフィルス君が見てるんだよ?」
「あ、これはお目汚しを」
「えっと、見なかったことでどうかひとつ」
「それは無理かなぁ」
どうやら妹のテルニアも良い性格をしているようだ。さっきまでの丁寧な言葉使いが剥がれちゃってるし。
「ふむ。察するにテルニアには〈氷の城塞〉に対して不満があったんだろ?」
「そ、そうなの! お姉ちゃんったら私のことになると過保護で、コネでAランクギルドに加入させただけに留まらず、次期ギルドマスターにするみたいなことまで言って個人レッスンとかしてきてね。ありがたいんだけど周りの視線が重いっていうか」
「そ、それは」
「はいはい、今はテルニアちゃんが喋ってるからレイテルは黙ってようね~」
「むぐぅ!?」
ミサトがレイテルの後ろに回り込んで物理的に喋れないようにしていた。ナイスミサト。今のうちにテルニアの言い分を存分に聞かせてあげよう。それが、引き抜きに良い影響を与えそうだと『直感』さんが囁いているしな。
そんなこんなでテルニアに喋らせていたら。話はとんでもない方向へと転がっていった。
「あと、私やっぱり【城主】系って向いてないと思うの! 今の私【氷城主】だけどお姉ちゃんみたいにカチリと何か嵌まってないっていうか。むしろ盾ひとつで前線に出る方が性に合ってるの!」
「ほう?」
「むむむ~!!」
「私のあこがれはシエラ先輩。同じ「伯爵」の令嬢なのに城ではなく、前へ出てみんなを守るあの姿。あれこそ守りの伯爵の姿だと思うの!」
「ほほほう?」
守りの伯爵は【盾姫】や【城主】など、守りに特化した「伯爵」カテゴリーに付いた異名だ。俺としてはどちらに転がっても悪く無いと思っていたのだが。
「シエラのようになりたいと?」
「はい! 是非シエラ先輩と同じく【盾姫】系に〈転職〉したいの!」
「なんと! ちなみに今のレベルは?」
「お姉ちゃんと同じ道を辿ったからちょっと低くて、今は【氷城主】のLV29!」
「素晴らしい! ――ミサト、これは逸材だぞ!」
【盾姫】希望!
居るようで今までなかなか居なかった、【盾姫】系統に就きたいと希望する女子。
これを逃していいのか? いいや良いわけがない。
これは是非〈エースシャングリラ〉に迎え入れなければ!
「ゼフィルス君が気に入ったみたいで良かったよ~」
「全っ然良くない! 全然良くないわ! 〈氷の城塞〉の次期ギルドマスターはどうするの!?」
「いや、それは1回白紙に戻しちゃった方が良いと思うし。お姉ちゃんだって分かってるでしょ」
「むむむ~」
吐き出したいこと、言いだしにくいことを全部言ったおかげか、テルニアの表情は晴れやかだった。そして、言われたレイテルも強く言い返せなくなっているな。
「お姉ちゃん!」
「む。分かったわよ。確かに、ちょっと過保護すぎるってギルメンから注意されたこともあったし」
「でしょ? もうこれ、一度〈氷の城塞〉から抜けて別のギルドに行った方がいいって」
「はぁ。分かったわ。イヤだけど。テルニアの脱退を認めるわよ」
「やったー!」
「テルニア、素が出てるわよ?」
「あ! そういえば! 失礼しました。少しはしゃいでしまったようです」
「今更畏まった感じで喋られてもなぁ。別に俺は気にしないからそのままでいいぞ?」
「そう、なの?」
「おう」
「! ありがと!」
「はぁ。ゼフィルス、ミサト、まだまだ甘くて世間知らずな妹だけど。よろしく頼めるかしら?」
「任せてくれ! 俺がテルニアを立派に! それはそれは立派にしてみせる!」
「あ、なんか今お姉ちゃんの立場がグラついた気がしたよ!? これ妹に抜かされるやつじゃ!?」
おそらくうちの面接も通るだろうし。〈エデン〉も〈エースシャングリラ〉も大歓迎だ!
なんだかレイテルが「やっぱお手柔らかに!」とか言っているが安心してほしい。
うちはいつもお手柔らかさ!
テルニアの引き抜きに伴い〈氷の城塞〉にも最上級装備を融通することを約束しておいたんだぜ。これで円満解決だ!
「これで要望のメンバーは全員だね!」
「ああ。さすがはミサトだ! さすがは〈エデン〉のスーパースカウトウーマンだ!」
ミサトに任せて大正解。まさか【盾姫】希望者まで引き抜くとか、すげぇよ。予想外の大成果だよ。
やっぱり引き留めたそうなレイテルに別れを告げてテルニアを連れ、俺たちはそのままギルドハウスへと戻った。
すると、もう手続きを済ませたのか、セレスタンが居たので対面。
問題無くテルニアも合格をもらったのだった。
よし、ならば次は〈転職〉だな!




