#1954 ゼフィルスがまた計画する生産職大育成の足音
「ハンナ~、いるか~?」
「いるよ~?」
ああ、「いるか~」に対して「いるよ~」の返事、マリー先輩も良いがたまにはハンナバージョンもいいものだ。
ここは〈エデン〉のギルドハウス、その錬金工房。俺はそこへハンナを尋ねてやって来ていた。
「ついに生産7人衆全員がLV100に届いたな! 素材の準備は進んでいるか!?」
「うん! みんな張り切ってるよ~。今は素材これくらいかな?」
「これくらい、と言いつつ〈空間収納倉庫〉の特大サイズが7箱もある!?」
さすがはハンナ。一足先にLV100になった実績は伊達ではない。
他の生産7人衆がLV100に届いた時には、使用する素材を全て作り終えていたという大サービスだった。
「さっすがハンナだ! ハンナは凄い!」
「わわ、ゼフィルス君!?」
思わずハンナの手を取り、腰に手を回してクルクル回ってしまったくらいだ。
そうれクルクルクル~!
「はわわ!? ハンナ様とゼフィルスさんが回ってましゅ!」
「ゼフィルスさんの喜びのダンスですわね。その界隈では有名ですわ」
「これ有名なんですか!?」
「見てくださいシレイアさん、セイカさん。突然ダンスに誘われたハンナさん、戸惑っているように見えて結構嬉しそうですわ。頑張ったことが報われて、良かったですわね」
「「おお~」」
ふう。
あまりにハンナが素晴らしすぎて思わず回りすぎてしまったぜ。シエラストップが無いから止め時を見失い掛けてしまったよ。
「もうゼフィルス君は強引なんだから~」
そう言いつつまんざらでもない上目遣いで俺を見つめてくる赤い顔のハンナがたまりません!
もうちょっと延長したくなってきてしまう!
「はいはい。お楽しみのところ申し訳ありませんがゼフィルスさん、他に何かお話があってハンナさんを訪ねられたのではなくって?」
「おっとそうだった。ハンナがあまりにも素晴らしくてついクルクルしてしまったよ」
「べ、別にいいよ? ゼフィルス君がしたいならいつでもしていいからね?」
「ぐぅ!? そんなこと言われたら、今すぐにでも延長したくなってしまう!?」
ハンナが俺を甘やかしてきます。とっても甘えたい!
しかし、観客が多い。見ればここにはハンナの他にもアルストリアさん、シレイアさん、そして最近〈アークアルカディア〉に加入した【合成師】のセイカがいた。
俺はヒビが入りまくった鉄の心をなんとか修復してクルクルを我慢し、話を進める。
「こ、こほん。話というのは他でもない。このアイテムの話もそうだが、〈アークアルカディア〉への依頼がいくつかきている件についてだ」
「〈アークアルカディア〉への依頼。それは学園公式ギルドから、ですわね?」
「ああ。だが、俺たちも最強装備を揃えたいところ。その素材作りという重要な役目をこなしているハンナに負担を掛けすぎると思ってな。改善させるべく来た、というのが大きい」
「なるほど」
学園公式ギルド。
以前、ちょっと俺が手を貸してLV60までキャリーしたことがあるのだが、その皺寄せで公式ギルドは直属の生産職の生産品では物足りなくなってしまったんだ。故に、ハンナ製品じゃないと満足できない身体になっていたりする。
これはマズいと学園公式ギルドも生産職の育成に力を入れているが、先に進むためにはハンナのポーションがまだまだ必要不可欠というのが現状だ。ここにテコ入れしたいところ。
「というわけで、生産職メンバーの大幅なレベルアップを敢行したいと思う!」
「あ、ゼフィルス君がまた何か言いだしたよ!」
一番簡単なのは、育成された人材を増やすことだ。
そして、ここにはすでに腕の良い人材が揃っている。前に【錬金術師】たちをたくさん加入させたのはまさにこのためだからな。後はレベルアップだけなのだ。
「なぁに安心してくれ。一先ずハンナがこれだけの素材を作りあげてくれた。少しだが余裕ができた。そこで俺たちが最上級ダンジョンでゲットしてきた素材を大量にばらまき、急激なレベルアップをしてもらおうという心算だ!」
「あ! なるほど、そういうことですわね!」
「アルストリアさん、今の話、分かったんですか!?」
俺の話にどうも付いてこられていなさそうだったシレイアさんがアルストリアさんの言葉に目を丸くして振り向いていた。純粋系【合成師】のセイカも同じく振り向いている。同じく純粋系としてシレイアさんとセイカは馬が合うのかもしれない。
「一言では説明できかねますわ。順を追って説明しますと――まず今まで〈エデン〉が最上級ダンジョンで手に入れてきた素材の多くは、生産7人衆を初めとするごく一部の方々しか使っていませんでした。これは、なぜだか分かりますわね?」
「わ、私も使わせてもらいましたから。えっと、レベル上げのためですよね? あと、扱える人が少ないというのも理由です」
「その通りですわ。最上級ダンジョンの素材はその多くが非常に貴重で質の高いもの。その素材を使い、生産を成功させるためにはLV60が最低ラインでした。ですからごく一部の人にしか扱えなかった、というのが実情でしたわ。ですが、そのごく一部の方々のレベル上げが終わったのですわ。カンストに届くことで」
「「あ!」」
「加えて、ハンナさんが合成昇華させた〈神素材〉たち、カンストされた生産職のみなさんは、これからこの〈神素材〉を使い最高装備を作りあげて行くことになりますわ。そうなれば当然、〈エデン〉から供給されていた素材が浮くことになります」
「その素材を回して低レベルの子たちをレベル上げするってことですね! で、でもLV60以上の人なんてほとんどいないですよ?」
「失敗してしまいますぅ!」
「ええ。ですがゼフィルスさんは、それも織り込み済みのはずですわ。ゼフィルスさんは、敢えて失敗させる気ですわね? 成功よりも経験値は低いとはいえ、失敗でもかなりの経験値を得ることはできますもの」
「さすがアルストリアさんだ。大正解だぜ!」
「「「おお~!!」」」
俺の考え、それを端的に伝えただけでアルストリアさんはしっかりと読み取っていた。さすがは大手商会の娘! ハンナもシレイアさんもセイカも感心という顔をしていた。
「アルストリアさんが今言ったとおりだ。今までトップ生産職へ贈っていた最上級素材たちは、その大部分を使わなくなった。今までは主にレベル上げのために使われていたからな。レイドボスの素材とか、それらを他の生産職が使えば、ドカンと一気にレベルアップできることだろう?」
「えっと、でもゼフィルスさん! 失敗すると素材の一部が無くなってしまいます。それは大丈夫なのでしょうか??」
そう、普通は失敗すると素材が無くなる。故に貴重でお高いレイドボス素材を使い、尚且つ失敗前提にレベル上げするなんて、とんでもない赤字になってしまう。しかし、心配は要らない。
「実はな、〈万界ダン〉の2層ボス〈クマアリクイ(最終形態)〉を倒した時のドロップで、良い装備がドロップしたんだ。それが〈失敗挽回の錬金グローブ〉! これは『錬金』系スキル持ちの装備で失敗や大失敗した時、素材を消費しないという効果の装備なんだ」
「「「「!!」」」」
「つまりそれを装備してレイドボス素材を用いてレベリングしましても?」
「おう。素材の消費は一切なく、ただレベル上げだけができるという代物だ!」
「すごいですわ!!」
おお、お嬢様口調のアルストリアさんが思わず叫ぶほどの素晴らしさ。
この装備の凄さが分かってくれたようだ。
これ、〈挽回〉と名が付いているためか、〈万界ダン〉じゃないとドロップしない【錬金術師】系専用装備で、失敗しても素材が全て戻ってくるために、どんなに高レベルの錬金でも挑戦することができる超級装備だった。
今でこそハンナは理想のステ振りで最強に至っているが、〈ダン活〉初級者がそんな完璧なステ振りができるわけない。ということで、最上級素材を使うと、ステが足りずに失敗してしまうということが結構多かったのだ。
それを救った救世主的な装備だった。しかも、これを上手く使えば、今言ったようにレイドボスの素材を使い、低レベルの【錬金術師】たちを育成し直すことが可能になるのである! なにそれ素晴らしい!
まあ最上級ダンジョンのランク4ドロップなので、ゲームではその時期にはもうやり直ししている時間とか勿体なくて、「使われないけどこんな裏技あるよ!」みたいな立ち位置だったんだけどな。
【錬金術師】系がいないと最強装備が作れないために、ゲーム終盤で詰まないよう開発陣が用意した救済措置でもある。
だが、これがここでは最高に輝く。
さあやろうか。生産職の大育成の始まりだ!




