#1946 ウォータースライダーヤバし、マジでヤバし!
それからヴァンの第二拠点の城は、それはそれはもう大活躍した。
「なによこれ、面白すぎるわ! 次は3番を滑るわよ!」
「お供しますラナ様」
見ろ、王女様のお墨付きまで貰ったぞ。
ちなみに3番とは3つ目の谷のウォータースライダーのことだ。浮き輪に2人乗りできるためラナとエステルが2つの穴が空いた長く大きな浮き輪に前後で入り、滑っていく。
「「きゃー!」」
すごく楽しそうだ!
「まだまだこんなもんやないで兄さん!」
「あなたは、マリー先輩!!」
ラナとエステルが谷を行ったり来たりしながら海へ流れていく光景に目を輝かせていると、いつの間にか側にはマリー先輩が居たんだ。
その風格。まるで師範の如く。
遙か高みから俺たちを見下ろしているかのようだ。
い、いったい何が待っているというんだ!
「浮き輪は1人乗り、2人乗りだけやない。3人乗りに6人乗りなど、まだまだ種類があるんや! 兄さんにはこの向かい合わせで乗る3人乗りとかおすすめやで!!」
「向かい合わせで乗るタイプ!?」
それは大きな大きな浮き輪――いやむしろボートじゃねえかこれ! 座る場所が固定された、3人用のボートだったんだ。こ、こんな面白そうな浮き輪、乗るしかないじゃないか! 俺はひょいっとマリー先輩を小脇に抱えた。
「な、何するんや兄さん!?」
「マリー先輩、一緒に滑ろうぜ! ほら、そこで立ったまま寝ているメイリー先輩もカモン!!」
「ふえ?」
どうやらサトルは解放されたらしい。
マリー先輩とメイリー先輩の手を引いて3人用のボート、もとい浮き輪に乗り込む。
丸い円形のボートで縁を背にして3人が座るんだ。伸ばした足が中央で絡む。
「なんだか、ドキドキするぜ」
「作っといてなんやけど、これむしろ作っちゃいけんかったかもしれへん。――メイリーはどう思う?」
「まさか私たちが最初に、しかもゼフィルスと乗るとは思わなかった。女子の視線が凄い。緊迫感でドキドキする」
俺は屋上を背にしていたから分からなかったが、なぜかマリー先輩やメイリー先輩が俺の背後を見て冷や汗をかいていたんだ。どうしたんだろう? でも『直感』さんが「振り向かなくていい。いいんだ」と囁くので俺は目の前に集中したんだ。
準備は完了だ! マリー先輩とメイリー先輩の2人と足を絡ませあったまま、ウォータースライダーゴー!
「うおおお!」
「わーーー!?」
「回る~~~」
筒状のウォータースライダーから出ると一気に急降下!
しかも回転が加わって丸い浮き輪がクルクル回る。素晴らしい。
マリー先輩が楽しそうな悲鳴を上げていて2倍良黄。
そのまま谷を登ったり下ったりしながら最後は海へと流されたんだ。
「いや~、これ面白い! 3人用とか1人で乗るよりも面白さ2倍増しじゃん!」
「はぁ~。兄さんマジ心臓に悪いわ~」
「でも面白かった。私たちの腕に狂いはない。――マリー、今度は2人乗りやろう?」
「ええで」
「あれ!? 俺は!?」
「これ以上兄さんと乗ったらうちらの身が危険や! この3人用を持ってさっさと上へ戻るんや!」
ちなみに浮き輪は城の下に回収用の〈空間収納倉庫〉があるのでそこに収納する。そして屋上の〈空間収納倉庫〉内の浮き輪が空になったら交換するという仕組みだ。
また、この浮き輪はマリー先輩たち、メイリー先輩やソフィ先輩の合作らしい。ありがてぇ、ありがてぇよ。
そんなことを考えながら砂浜に上陸すると、そこで腕を組んだラナと頬に手を添えたエステルが待ち構えていたんだ。
「見てたわよゼフィルス!」
「見られていたのか!?」
見てただけじゃない。待ち構えてもいたとは。これはまさかの予感!
「もう! 最初にマリー先輩たちと滑るだなんて……ちょっと羨ましいと思っちゃったじゃないの! 次は私たちとよ!」
「もちろんだ! 一緒に滑ろうぜラナ! エステル!」
やっぱりなんのことはない。一緒に滑ろうのお誘いだった。俺はもちろん承諾する。マリー先輩たちと別れ、また城の上へと昇ったんだ。
「ゼフィルス、今度はラナ殿下たちと滑るのね」
「シ、シエラ?」
屋上でばったりシエラと出会った。その目はとてもジト目だった。
「ふ、ふふん! 待ち構えていたかいはあったわ! 私が先にゼフィルスをいただくわね!」
ラナが勝ち誇ったように言う。なぜかちょっぴり足が震えているように見えたのは、気のせいかもしれない。
「ゼフィルス、さっきの約束、覚えているわね? 次は私とよ?」
「も、もちろんだ!」
妙な迫力に即了承。さっきシエラとは2人で遊ぼうと約束したもんな。
2人、2人かぁ。シエラと2人乗り……。
「ラナ様、ゼフィルス殿が……」
「分かってるわ。もうゼフィルスったら! 私が目の前に居るのにシエラに気を逸らすなんて大変なことよ!」
はっ! なんだか振り向いたらラナがとてもむむむ顔をしていた。これはいけない。俺の『直感』さんも「ご機嫌を取れ!」と囁いている気がする!
「さあラナ、3人用に乗ろうぜ! 俺、ラナと一緒にこれに乗りたいってずっと思ってたんだ。きっとラナと一緒に滑ればとっても素晴らしい光景と思い出が目に焼き付くに違いない! 楽しい思い出と一緒にな!」
「! も、もう仕方ないわね。そんなに私と滑りたかったのね? いいわ、一緒に滑ってあげるわよ!」
「ラナ様、ゼフィルス殿、準備ができております。どうぞお座りください」
俺の言葉に一瞬で機嫌が良くなるチョロラナ。可愛い。
機嫌が直ったのでアトラクションで楽しむぜ!
「きゃ、ゼフィルス、足が」
「これがこの浮き輪の醍醐味らしいぞ。ほらこうして俺の足に重ねるんだ」
「こ、こう?」
「「「…………」」」
浮き輪に乗って滑る準備。
しかしその最中、俺はまたも屋上を背にしていたので見えなかったんだが、なぜか順番待ちしている方から圧が感じられた気がしたんだよ。でも『直感』さんが「気のせいだ」と囁くのできっと気のせいなのだろう。
さあ、準備ができたのでゴータイムだ!
「うひゃわ~!」
「きゃ~!」
「はーっははー!」
急降下にはしゃぐラナと黄色い声のエステルが楽しそうだった。良黄良黄!
絡まった足がなんとも素晴らしい。この日のために作った水着がとっても映え、ラナとエステルの美しさを醸し出す。さらに海という背景とクルクル回る非日常のスパイスも合わさって、忘れがたい思い出が刻まれたような気がしたんだぜ。
「「きゃー」」
最後は海に流れ着いて終了だ。出口が浜辺方向に向いているので、そのまま波に乗って浅瀬までのんびり流れに身を任せる。
「楽しかったわ~」
「はい。2回目ですが、やみつきになりそうです」
「だな。またあとでやるか?」
「賛成よ!」
全くアルルたちは罪深いものを作ってくれて、こんなのやり始めたら抜け出せなくなってしまうよ!
そして戻れば、今度はずっと待っていたんだろう。2人乗りの浮き輪を持つシエラがスラッとした佇まいで待っていたんだ。俺はしばらくシエラに見とれた。
「シエラ……」
「ゼフィルス、ようやく来たのね。……どうしたの?」
「いや、シエラに見とれてた」
「! そう、それなら仕方ないわね……」
ずっと待っていてくれたシエラに悪いと言おうと思ってたのになんか全部吹っ飛ぶインパクト。シエラの立ち姿が大変絵になってたんだ。こんなの芸術だよ! アートだよ! タイトルは「渚の女神」かな? 持ってるのはアトラクションの道具だけど。
あと、思わず呟いてしまった褒め言葉に照れた様子のシエラがたまりません。
「私が前でいい?」
「もちろんだ。俺が後ろに座ろう」
2人乗りの浮き輪は前に軽い人、後ろに想い人を乗せるのが鉄則と聞いたことがある。え? 重い人の間違いじゃないかって? そんなの女性同士が2人乗りする時に言って見ろ、血の雨が降るぞ? 故に後ろは想い人なのだ。間違えちゃいけない。いいね?
看板にはちゃんと2人乗りの方法も描いてあって、前の人の脇の下に後ろの人が足を入れて固定するようにとのこと。
脇の下?
「ゼフィルス、いいわよ」
「お、おう?」
スッとシエラが開けた脇の下に足を滑り込ませると、シエラが脇でぎゅっと挟んで固定してくれる。
あの、足が大変なんですけど? ウォータースライダーってこんなアトラクションだったっけ? 2人乗りヤバし! マジでヤバし!
「行くわ」
「おーいえー!」
なんだか別方向からテンションが上がっているような気がしながら――滑る。
「きゃー!」
「おおおお!?」
シエラの「きゃー」いただきましたーー!!
これ作った人に表彰状と感謝状を贈りたい!
あとでアルルとマリー先輩とメイリー先輩、それにソフィ先輩をいっぱい褒めようと決める!
「はぁ、楽しいわねこれ」
「もう一回やるか?」
「魅力的だわ。……またあとで、一緒に滑りましょう。もちろん、その時も2人よ」
「もちろんだ!」
こうしてシエラとも次の約束を取り付けた俺は城へと戻る。
そこには、俺と滑りたいと立候補する子が、たくさんいたんだ。
3番目のウォータースライダーは、大盛況になった。




