#1907 カイエン視点。〈エデン〉のこと少し分かった
その日、なぜかカイエンは嫌な予感がした。
最近はようやく日々の業務にも慣れてきて、学園長が今までどれほど苦労に苦労を重ねていたのかを感じまくっていた。そんなある日のことだ。
なんか学園長がそわそわしていたのだ。
「学園長。どうかされたのでしょうか?(またお茶が必要かな? コレットさんを呼んだ方がいい案件だろうか?)」
「うむ、なんだか胸騒ぎが止まらなくての」
「胸騒ぎ? それは……(え? 学園長が胸騒ぎするって、すっごい嫌な予感するんだけど。確か、前にもあったよね。あれは、〈エデン〉が〈猫界ダン〉を攻略してきたときだったっけ? あの時は仕事に忙殺されかけたんだ)」
「〈エデン〉が〈聖界ダン〉に入ダンし始めてすでに10日。そろそろ攻略してきても良いはずじゃ」
「ふむ(やっぱり〈エデン〉関係じゃないか! え? やっぱり学園長って〈エデン〉に訓練されすぎてない? なんでそんなこと分かるの!?)」
「〈エデン〉はの、攻略の準備を調えてダンジョンに入ると、大体1週間から2週間程度で――攻略してしまうのじゃ」
「…………(いや、攻略してしまうのじゃ、じゃねぇって! そこ前人未踏の〈聖界ダン〉だからね! 入れるのなんか世界で〈エデン〉だけだからね! 〈救護委員会〉や〈攻略先生委員会〉ですらまだ上級上位ダンジョンを攻略中なんだよ!?)」
学園長の経験談を聞いて内心身震いするカイエン。
もちろんそんなことおくびにも前面には出さない。
そんなポーカーフェイスだからこそ逆に学園長から頼りにされていたりするのに、カイエンは未だに気付いていない。
「カイエン君、〈エデン〉を甘く見てはいかん。〈エデン〉は実行したら必ずやり遂げて帰ってくる。それがどんなに困難なのかと常識を説いても、そんなもの軽く踏み潰して進んでいってしまうのじゃ。たとえ前人未踏だろうとそれは変わらん。そして最後は最奥に到達し、ボスも一発で倒して帰ってくる。それが〈エデン〉じゃ」
とんでもない話を聞かされてカイエンは内心ドキドキだ。
自分は今何を聞かされているのだろう? もちろん国の秘密兵器とか隠密部隊とか、そんな類いではないのだ。学園の1ギルドの話、なのだ。
「どうやら自分は、まだまだ〈エデン〉の認識が足りないようです(あの、それ以上は知りたくないのですがダメですか?)」
「うむ。カイエン君は、もう少し〈エデン〉のことについて知っておくべきかもしれんの」
「と、いうと?(なんか嫌な予感がするんだが?)」
「実際に〈エデン〉を少し見てくるといい。もちろん、接触はしなくてもいいが。〈エデン〉がどういうノリでダンジョンに挑んでいるのか、その辺を一度見てくるとよいぞ。なにせ――そろそろじゃろうしな」
そう言う学園長の表情は、80のご老公とはとても思えない、戦場へ向かう戦士のような顔をしていたと、のちにカイエンは語ったという。
◇
翌日、その日は〈エデン〉のことをもっと知らなくてはならないと恐る恐る朝から最上級ダンジョンに視察に向かったカイエン。
このダンジョン週間中、〈エデン〉が最上級ダンジョンに連日入ダンし続けている情報は掴んでいるし、今日も挑む予定というのもケルばあチェックの予約で分かっている。予約時間も分かっているのでこっそりと近くから〈エデン〉を観察させてもらおうという寸法だ。
すると、〈エデン〉が集まっていた。野次馬もたっぷりだ。
その中心にいるのはゼフィルス。〈エデン〉のギルドマスターが、なぜか広場を結構な面積使って演説していたのである。
周りの野次馬に聞こえるように、ちょっと芝居がかった大声で味方を鼓舞していたのだ。
「これから行くのは〈聖界ダン〉、その90層だ! 今日は最奥のレイドボスに勝って〈聖界ダン〉を攻略してやるぞー!」
――――ざわざわわ!!!!
とんでもない話だ。
学園長の勘、大当たり。
実は本日はゼフィルスたちがレイドボスに挑む日だったのだ。
さすがは学園長、よく訓練されている。
しかし、これから〈聖界ダン〉攻略宣言とかやっぱりヤバい。
普通は勝てるかも分からないボスが相手なのだからこんな宣言はしないものだ。まず有言実行できないのが普通だからだ。
だが〈エデン〉の一発突破は有名。きっと夕方には攻略者の証を身に着けて帰って来てしまうことだろう。
〈エデン〉のゼフィルスは、5月に教科書に色々載って以来、こうして攻略宣言を行なっているらしい。
〈猫界ダン〉の時も攻略宣言が朝にあり、夕方に戻って来た時には攻略者の証を胸に着けていたのだ。どうやら歴史に名を刻むのに協力してくれている模様。
「おい! 〈エデン〉が今日攻略に挑むってよ!」
「とんでもないことになったぜ! すぐに拡散するぞ!」
「またパレードやるのかな? 準備しとく?」
「これでランク3も攻略か~」
「〈エデン〉ならランク5まで行ける気がするぞ! 俺、応援する!」
「きゃーーーーーー勇者君素敵ーーーーーーー!! 私も〈アークアルカディア〉に入れてーーーー!!」
「おいセルマがいるぞ!」
野次馬たちもざわめきが凄い。
あ、俺も学園長たちに今の話を報告しておかないと。
こうして〈エデン〉は〈聖界ダン〉に潜っていき、カイエンは仕事が増えた。
夕方。
〈エデン〉は無事に――というかとても元気良く帰って来た。
そして、最上級ダンジョン門の前には案の定、とんでもない数の野次馬が集まっていたのだ。カイエン大変だった。
―――――ワアアアアアアアアアアア!!
そこに〈エデン〉が登場すると大歓声。
さすがは世界トップギルドだ。果たして今回は攻略に成功したのだろうか?
カイエンも見守る中、代表でゼフィルスが前に出る。
「みんな、よく集まってくれた!」
お願い、勝手に集まらないで!
そう心の中で叫ぶカイエン。でもゼフィルスには届かない。野次馬にももちろん届かない。
「お? この胸に着いている攻略者の証が気になるか? ふっふっふ、お目が高い。そう、俺たち〈エデン〉は朝宣言したとおり、無事に〈聖界ダン〉を攻略して戻って来たぞーーーー!!」
――――ワアアアアアアアアアアア!!
そう、どこか芝居がかった動作をして胸から攻略者の証を取ったゼフィルスが、それを高らかに掲げた瞬間、広場は爆発的な歓声に包まれたのだった。
また、この世界で偉業は起こった。
歓迎の横断幕のようなものがそこら中ではためき、出店が所狭しと並ぶ。
パレードに使う移動ステージやらなんやらも運び込まれ、普通のダンジョン週間の1日であるはずの今日が、瞬く間にお祭り会場と様変わりしてしまった。
カイエンもポカンである。
現場に出ていないと分からないこともある。それをこの日ひしひしと痛感したカイエン。
どうしよう。え? この後始末とかどうするんだろう? あ、でも〈秩序風紀委員会〉が出てきて〈エデン〉を連れて行ってくれた。これで少しは安心できる?
もちろんなんの安心もできなかった。
〈エデン〉の偉業を祝ってどこもお祭り騒ぎ、とにかく騒げ状態である。
これぞ最上級ダンジョン攻略という偉業のあるべき姿。なのだが。
管理者側にとっては目眩を起こしそうなほど忙しくなった。
カイエンも無意識に手をお腹に当てるほどだ。学園長室へ急ぎ帰還し、このことを自分のトップへと報告する。
「あひん!?」
学園長が意識を飛ばす。
「ああ学園長~。しっかりしてください、今とっておきのお茶をお入れしますから~」
そんな嘆いているようなセリフを言いながらも嬉しそうに蘇生茶を用意するコレット。ビクンビクンしている学園長も、これで復活だ。
意識を手放して逃れようとしても巧みにメイドが連れ戻す。
この鉄壁の布陣の学園長室で、学園長とカイエンの仕事はしばらく続いたのだった。
「分かったかのカイエン君。これが〈エデン〉が起こす影響力じゃ」
「はい。このカイエン。よく分かりました(〈エデン〉の影響力、広がっていきすぎでしょ!?)」
カイエンは、〈エデン〉がどういうところなのか、ちょっと分かってしまった。




