#1886 デートがハンナにバレた。
今日も朝が来た。
ハンナボイスで起きる清々しい朝だ。
「ゼフィルス君~」
ああ、和む。
いっそハンナの子守歌を聴きながら更なる眠りを目指してみたい。
そう、理性と本能がせめぎ合い、本能が勝利しかけたところで、
―――事態は一変する。
「ゼフィルス君、ねえ、起きて? ちょっと聞きたいことがあるんだよ」
「ふわい?」
ビクンと身体が震えた。
ハンナが脇腹を指でつついて来たんだ。おかげで俺は一気に覚醒してしまう。
なんだなんだ? シエラ流・脇腹ツンの術でも教えてもらったのか?
最近のシエラは脇腹に俺のブレーキがあると勘違いしているみたいなんだよ。
それは寝ている相手にやってはダメだぞ? あとそこにはブレーキなんてないからな?(小声)
「ゼフィルス君、起きた?」
「ど、どうしたんだハンナ? そんな怖い顔して」
「怖い顔なんてしてないよ?」
そして起きたら、なんか背後にゴゴゴゴゴと効果音でも出してそうなハンナが笑顔で起きるのを待っていたんだ。
え? 俺、なにかやったっけ? 『直感』さん?
しかし『直感』さんは「なるようにしかならん」とのこと。いったいなにが!?
いや、俺になんらやましいことはない。ないよな?
「ねえ、そのパジャマはどうしたの?」
「あ」
やましいこと、あったわ。
俺、今シエラと2人で買い物に行ったときのおろしたてのパジャマ姿だった。
「シエラさんがね、新しいパジャマを新調したんだって。誰と行ったとか、具体的なことはなぜかはぐらかされちゃったんだけどね。なんではぐらかしていたのか、分かったんだよ」
ハンナがいつの間にか名探偵に!
「いや、このパジャマはな、うん。シエラと買いに行きました!」
「やっぱりそうなんだね」
どうしよう。今日のハンナは迫力がある! とてもドキドキするんだけど!
「それと、枕元にあるその〈ぬいハット〉は誰に貰ったのかな? それもシエラさん?」
「いや、これはラナと買い物に行ったときに――あ」
「……ラナ殿下とも行ったんだ。もしかして2人で?」
「一応エステルも居ました。はい。買い物中は外で待ってたけど」
次々と白状させられてしまう俺。
俺の胃を完全完璧に掴んでいるハンナに逆らうことなんてできないんだ。
「ゼフィルス君、シエラさんともラナ殿下ともデートしたんだ? リーナさんとアイギスさんと仲良さそうに腕組んでたとも聞いたよ?」
あ、あかん!
ハンナの笑顔がちょっと怖い! ニコニコしているはずなのに背後が凄いことになってる! 『直感』さんヘルプ!
しかし『直感』さんからの反応は「無理」だった。『直感』さん!?
「…………わかったよ」
「わ、分かってくれたのか?」
なにが分かったのかは分からなかったが、ふとハンナからの圧が消えた。
助かったのか? 寝起きにハンナの圧とか相当厳しいんだが。
「ゼフィルス君。今日は私とだよ!」
「え?」
「み、みんなには、負けられないんだよ!」
そんなやりとりもあり、今日はハンナとデートすることになった。
「まさかこんなことになるとは……」
俺は今、この日のためにコーディネートした装備に身を包んで、とあるモニュメントの前に立っていた。
もちろんハンナとデートするためだ。待ち合わせである。
あのハンナの圧。ちょっとやそっとな埋め合わせ(?)ではきっと満足しないだろうということで、急遽マリー先輩の店に飛び込んで購入したのだ。
くっ! マリー先輩に盛大にからかわれてしまったぜ。今度度肝を抜いてあげないと!
そう心に誓って待っていると、待ち人来たる。
「ゼ、ゼフィルス君、待ったかな?」
「ハンナ……」
ハンナの姿もまた、制服姿でも錬金用の装備でもなかった。
初夏を思わせる涼しい見た目コーデ。上が白、スカートが黄緑を基調としていて明るい印象を抱く。胸の位置には白いふわふわな玉のようなリボンがありチャームポイントになっていた。ショルダー鞄を斜めに提げ、腕にはリストバンドのようなおしゃれアクセも装備。非常に可愛い〈ふわふわ初夏衣装シリーズ装備〉だった。
ゲーム時代、俺も可愛いキャラに着せて観賞したものだ。あれをハンナが着ている? パナイんだけど?
「ど、どうかな?」
「すっごい可愛い。ハンナがすっごい可愛い……!」(重要なので2回)
「も、もうゼフィルス君ったら~。そ、それにゼフィルス君だってかっこいい、よ?」
「そうか?」
そう言ってもらえるとマリー先輩のニヤニヤ視線に耐えて購入した甲斐があるぜ。
ハンナがとっても照れていて大変良きです。
照れながら褒めてきてくれるとか最高かよ!
どうやら圧は完全に消えてくれたらしい。よし、このままハンナをたっぷり楽しませないとな!
「ハンナこっちだ行こうぜ」
「う、うん。――あ、あのねゼフィルス君、せっかくだし……」
「ん?」
そう言ってちょっと勇気を振り絞りました、と言わんばかりにちょこんと差し出されたハンナの手を見る。
そうか、そうだった。これはデートだったな。
俺はハンナの手を掴む。
「ふわ」
「それじゃあハンナ、行こうか」
「うん!」
お互い服をコーデして、手を繋いで歩く、もう完全にデートだな。
知り合いにはとても見せられない。見せたら第二第三の圧ハンナが生まれてしまうかもしれない。想像してちょっと震えてくる。
いや、そんなことは一旦忘れ、今はハンナとのデートを楽しむのだ。
「まずは服屋さんだね。私もゼフィルス君用のかっこいい服を選んであげないと!」
対抗意識マックスなハンナがとても可愛い。
シエラと行った高級な服屋さんとは別路線な、一般の人が利用するお店に入る。
おそらく〈エデン〉メンバーの中で一番稼いでいるのに、感覚がまだまだ庶民なハンナだ。そこがいい。
「うーん、こっちの方がゼフィルス君に合うかな? うん、やっぱりこっちだね」
「マジか、確かにこれ、着こなしてる感凄いあるんだけど」
「えへへ、生産職の目は凄いんだから」
一瞬で俺にどんな部屋着が似合うか見抜くハンナがパナイ。これはパジャマというより、部屋でのんびり過ごす用のラフな格好の部屋着だな。シエラのパジャマとは棲み分けできそうでちょっと安心。
でも感心はするけれど、それはデート的にありなんだろうか? 一瞬で決まったぞ?
そんなことを考えながらも早速試着してみる。
「どうだハンナ?」
「う、うん! やっぱり見立て通りだったんだよ! その、すごくゼフィルス君かっこいい……」
「ハンナ……」
なんだろうこの雰囲気、すごく照れくさいんだけど?
ちなみにハンナが選んでくれた服は、マジで俺と出会うために生まれてきたんじゃないかというような、着た瞬間「あ、多分これ以上のものはないわ」と分かるような相性抜群の薄水色の上下の部屋着だった。こんな風に思うことってあるんだなって結構衝撃だったよ。鏡を見ると凄い着こなしているのが分かるんだ。
「そ、それじゃあ次はハンナだな。ハンナが選ぶと一瞬で終わっちゃうから、俺に選ばせてくれ」
「ゼフィルス君が選んでくれるの! そ、それじゃあ、お願いしようかな?」
いじらしくも期待するような目でお願いしてくるハンナがたまりません。
上目遣い、この上目遣いが良い! 大変良い!
俺はハンナとしばし時間を忘れて見つめ合ったあと、気合いを入れて探した。
多分、俺史上最長の時間と集中力を掛けて服選びをしたと思う。
「ハンナ、すっごくよく似合ってる。ハンナが可愛い! やっぱりこれだ。ハンナは桃色もよく似合う!」
「え、えへへ~」
最終的にハンナに贈るのは桃色のパジャマになった。
俺が全力を尽くしたからか、ハンナも不満はなかったようでマジ良かったよ。
というか俺、何気にハンナのパジャマ姿って初めて見た。似合っていると同時にグッとくる可愛さ、俺は喜びを噛みしめてハンナの試着を見させてもらったんだ。
当然選んだこれは俺がプレゼントしてあげることにして、ハンナとはプレゼントを交換しあった。
「ありがとうゼフィルス君。大切にするね!」
「俺の方こそありがとうハンナ。今度一緒に着てみようか?」
「え? い、一緒に? ゼフィルス君の部屋で?」
「おう」
「それはとてもいいかも……」
もちろん男女が同じ部屋でお泊まりは校則で禁止されている。
でも部屋着やパジャマ姿で過ごすのは禁止ではない。
なんとなくで言ってみたが、意外にもハンナがかなり乗り気っぽく受け入れてくれたんだ。俺グッジョブ!
こうしてウキウキ気分で服屋から出た。しかし、ハンナのやる気は止まらない。
「次はファンシーショップだよね。でもあそこは人気店過ぎて危険だから、もうちょっと別のところを……」
今度はラナに対抗し、ファンシーショップに行こうとするハンナ。
しかし、ファンシーショップは結構知り合いとバッティングすることが多いらしく、ハンナはムムム顔だ。あそこ、〈エデン〉の女子のほとんどが常連なんだって。マジか。
そんなところで私服姿と見紛う装備姿の俺とハンナが見つかったら、タダじゃ済まない気がする。『直感』さんも「そこはダメだ。止めとけ。死にたいのか?」と言ってるしな。というか死ぬの? 突然の|デッド・オア・アライブ《生きるか死ぬか?》に俺ドキドキなんだけど?
結局ファンシーショップには行かず、公園に行ってのほほんと散歩することになった。
手を繋いでの散歩だ。これもまた至福の時。
「なんだか、こういうのもいいなぁ。ハンナはどうだ? ただの散歩、つまんなくないか?」
「大丈夫、楽しんでるよ。なんだかね、普段はみんなダンジョンに行っちゃうから私だけ留守番でしょ? だからゼフィルス君と一緒にこうやって歩くのは通学の時しかなくって少し寂しいなぁって、ちょっと思ってたの」
「そうだったのか?」
「うん。だからね、ゼフィルス君とこうして一緒に歩いて、手も繋いじゃったりしてね。今すっごい幸せなんだぁ」
なんと、ハンナは寂しかったのか。
そりゃいつもダンジョン行くとき留守番だったしな。
そんな話を聞いてしまったら解消しないわけにはいかない。
「ハンナ。ハンナにはいつも助けられているんだ。何か欲しいものがあったら、遠慮無くいってくれ。散歩するくらいの時間はいつだって見つけるから」
「ゼフィルス君……。嬉しい。ありがとね」
「おう。いつでも言いな」
「うん」
そう約束し、ハンナも十分満足したようなので夕食を食べて解散したのだった。
そして貴族舎に入ったところでシエラとばったり出会った。
「ゼフィルス? その服装でなにしてたの?」
あれ? これ無限ループに突入したりしてない?




