#1885 リーナとアイギスの、ゼフィルス攻略作戦開始
同じ関心事で相手の注意を惹きつつ共感を得て、最終的に心を掴む。
恋愛マスターオリヒメのおかげでそこまでの道筋、プロセスがようやく見えてきたリーナとアイギスは、早速行動を起こすことにした。
「ゼフィルスさん、今よろしいでしょうか?」
「アイギス? それに、リーナもか?」
「はい。少しギルドハウスのことで相談をと思いまして。とても大切なことなのですわ」
「ギルドハウスのこと? そういう相談は珍しいな。もちろんいいぞ。どんな話だ?」
ギルドハウスについてはギルドメンバー全員の関心事だ。
だが、すでに〈エデン〉のギルドハウスの増改築はかなり極まっており、不満らしい不満と言えば、大きすぎて移動が大変、くらいのものである。
温泉もあれば工房もあり、各メンバーが遊べる遊技場や個室も完備。さらには世界トップクラスのお店まである。
ぶっちゃけこれ以上はゼフィルスも思いつかないため、さらに良くしようというリーナとアイギスの相談にすんなり応じた。
もしかしたらそろそろ最後の進化が近づいてきたゼニスのために、ゼニス専用の竜小屋を頼まれたりするのだろうか? そんなことを考えているゼフィルス。
しかし、そんな考えは次の言葉で吹っ飛ばされてどっか行った。
とあるギルドハウスの個室で、切り出したのはリーナだった。
「最近、新しい〈幸猫様ファミリーズ〉が入られ、お猫様がいらっしゃる神棚が狭くなってきたと思いまして」
「詳しく聞こう」
ゼフィルスのトーンががっつり変わる。端的に言えば一瞬でマジになっていた。
それまで「どうしよっかなぁ、でっかい小屋、いや大屋? でも作っちゃおうかなぁ」とのんきに考えていたゼフィルスも、〈幸猫様〉のことを出されては「なに? そいつは一字一句聞き逃せないな」と気を引き締めたのだ。
明らかな〈幸猫様〉>ゼニスの図である。ゼニスがここにいたら、きっと嘆いていたことだろう。
まずは第一ステップ成功。
ゼフィルスの関心を大きく惹いた。
対してアイギスも、ここでしくじるわけにはいかない。ここからさらにゼフィルスの興味を惹くのだ。
「見ていましたが、ゼフィルスさんも神棚へお供えするスペースが少なくなって苦慮している様子でした」
「見てたのか。実はその通りなんだ。なにせ〈幸猫様ファミリーズ〉が4体揃――いらっしゃったのだからお供え物もその分増やさなければいけない。しかしスペースが足らず、十分なお供え物ができない状態だ。むしろ〈神猫様〉がいらっしゃる前よりも少ない。由々しき事態だ」
ゼフィルスのコメントがマジ過ぎる。
だが、オリヒメの見立てはばっちりだった。
ゼフィルスの口数からしても最大の関心事に間違いない。
ここで第二のステップに移る。
「わたくしたちも苦慮していたのですわ」
「はい。〈幸猫様〉たちには、もっと過ごしやすい環境作りが必要です」
「そこでわたくしたちは思いました。もっと大きな神棚を作ろうと」
「〈エデン〉の柱ですもの、〈幸猫様〉たちには快適に過ごしてほしいです」
「リーナ、アイギス、そこまで〈幸猫様〉たちのことを……!」
リーナとアイギスの言葉にゼフィルスは感動する。
第二ステップ、共感。
ゼフィルスに親身になって、心に寄り添うのだ。
きっと今ゼフィルスの中では、リーナとアイギスへの好感度がうなぎ登りだろう。
〈幸猫様〉たちにもたっぷりサービスするので、今はダシにすること許してくださいと心の中で祈るリーナとアイギス。
グッと拳を握りしめ、思わずと言わんばかりに立ち上がるゼフィルス。
「リーナとアイギスの気持ち、すげぇ嬉しく思う! 2人の言う通りだ! 〈幸猫様ファミリーズ〉が4体いらっしゃったんだ! ならば、それなりの社が必要だった! 気付かせてくれて、ありがとうリーナ、アイギス!」
「そう言っていただけて、わたくしたちも嬉しいですわ!」
「私たちも全力で協力します。〈幸猫様〉たちに快適に過ごしていただきましょう!」
「おう!」
激しく心を揺さぶられている様子のゼフィルスにリーナもアイギスもドキドキだ。
上手くいっている気がする。でも不安もちょっとある。
ここまで〈幸猫様〉たちに一直線なゼフィルスを自分たちの好意に変換できるのか、と。
なにしろ、見つめたら前へ一直線のゼフィルスだ。振り向かせるのは至難の業。
リーナもアイギスも気を引き締め、ここからはもっともっとアピールして自分たちに関心を寄せてもらうのだ。改めて気合いを入れる2人。
「では早速行きましょう! 良い神棚は完全オーダーメイドですわ」
「私が良いところを知っています。ゼニスが〈竜〉だと判明した時、色々と社を建てさせてほしいと話が来ましたので。その伝手を辿りましょう」
「アイギスにそんな話が届いてたのか!? いや、でも心強い! 〈幸猫様〉たちに快適で素晴らしい社を作ろう!」
こうしてゼフィルス1人にリーナとアイギスという、やや変則的な買い物デートが発生した。
「ゼフィルスさん、その、案内いたしますわ。手を――」
「……ん!? あれ? リーナ、手を繋ぐ必要あったっけ?」
「ま、迷わないためですわ。これは必要なことです」
「そんな迷いやすいところにあるのか!?」
「リーナさんだけ……私も繋ぎます!」
「アイギスもか!?」
道中では右手をリーナが、左手をアイギスが握るという夢の展開が発生。
〈幸猫様〉たちのことで頭がいっぱいのゼフィルスの脳に乱れが起きる。
「お、おいあれ、もしかして勇者さんじゃないか?」
「女子2人を連れてデートだと!? ……いや、むしろ引っ張られてるのは勇者さんの方か?」
「う、羨ましい!」
「俺もああなりてぇ……」
「混沌!」
なんだか見られているような気がしたが、リーナたちにとっては些細なこと。
繋いでいた手はいつの間にか恋人繋ぎへ、さらには腕に身を寄せ、最後は抱きつかんばかりにギュッとしてゼフィルスの腕が幸せになった。もう〈幸猫様〉よりも腕の幸せの方に意識がいっている気さえする。リーナとアイギスの勇気を振り絞った作戦は大成功だった。
「リーナ? アイギス?」
「「…………」」
なお、2人の顔は真っ赤だ。どうやら2人で張り合ううちに、どんどんエスカレートしてしまっただけらしい。
ちなみに2人の胸部装甲は同じくらい、そしてとても豊かなので勝負はドローだ。
「あ、いつの間にか通り過ぎてしまいました!」
「手を繋いでいた意味とは!?」
アイギス痛恨のミス。
リーナとアイギスにとっての目的はゼフィルスの歓心を買い、果ては自分に好意を持ってもらうこと。〈幸猫様〉たちのことがうっかり少しの間どこかに行ってしまっても仕方ないのだ。寛大な〈幸猫様〉ならきっと許してくれるだろう。
「わ、私も初めて来ましたので、――――ここです」
「お、おう。ここかぁ…………」
アイギスが自分をフォローしつつもリカバリー。
幸いにもそんなにオーバーランしなかったのですぐに戻って到着だ。
「お、おおお!? 色んな神棚がある!」
「これは全てモデルですわ。この中から選ぶと職人さんが作ってくださるのですわ」
「す、すげぇ! なあリーナ、アイギス、どれがいいかな?」
「一緒に見て回りましょうゼフィルスさん」
「おう!」
ここからが勝負だ。
店内にはたくさんのミニチュア神棚があって男の子でも楽しめる。
それに神棚だけではなく、ここはいくつかアクセサリーなども置いているのだ。
買い物デートするにも悪くない。
「ここは【細工師】や【木工師】などのクラフター系職業持ちが運営する、学園都市には少ない企業店ですわ」
「アイテムや装備ではない、普通の日常雑貨を売るお店なので、学生も利用できます」
「あ、ほんとだ。色々置いてあるなぁ」
「せっかく来たのですから、神棚だけでなく、あとで他にも色々店内を回ってみませんこと?」
「それもいいな! 装備じゃない、アクセサリー類か!」
学園都市には結構珍しい雑貨店に目を輝かせるゼフィルス。
雑貨店の数が少ないからこそ売り物は豊富で、よく見ればなんだこりゃと言うものから神棚まで色々あって飽きない。
「やはりお供え物が大事だ。〈幸猫様〉たちはお供え物をすればするほど良いものをプレゼントしてくれる! なるべく大きくなくてはいけない! いっそ〈幸猫様ファミリーズ〉専用の建物を建てるか!?」
「ゼフィルスさん、それではもう神棚というか神殿の域ですわ!」
「新たな建物に移ったら〈幸猫様〉たちも寂しがると思います」
「確かに! 〈幸猫様〉たちには是非大部屋から俺たちのことを見守ってほしいな。ちょっとテンションが上がりすぎてしまったぜ」
「うふふ。ゼフィルスさんったら、そんなにはしゃいで。子どもみたいで可愛いですわ」
「な、なにおう!?」
「はい。〈幸猫様〉たちのことをここまで熱心に考えられるなんて、ゼフィルスさん以外にいません」
「そ、そうか? 分かってくれるかアイギス。俺たちに幸せを呼んでくれる〈幸猫様〉たちには、俺も幸せになってもらいたいんだよ」
「分かりますわゼフィルスさん」
話題はゼフィルスの関心事〈幸猫様〉なので会話が途切れることはなし。
ゼフィルスに自分の大好きなことをたくさんたくさん語ってもらい、それに共感してゼフィルスの心に入り込む。
いつの間にか神棚選びからアオハル的イチャイチャデートになっていた。
ちなみに今もゼフィルスの腕にはリーナとアイギスがくっついている。
「よし、決めた! これにしよう! 大きさ的にも申し分ない」
「良いですわね!」
「これほど豪華な神棚なら、〈幸猫様〉たちもきっと満足してくれるはずです」
「ああ。これもリーナとアイギスのおかげだ」
悩みに悩み抜いて新たな神棚の注文を済ませると――もちろんまだ終わらない。
次はアクセサリータイムだ。むしろここからが本番。
〈幸猫様〉のターンは終わった。ここからはリーナとアイギスのターンだ!
「ゼ、ゼフィルスさんこういうのどうでしょうか?」
「で、でっかいバラの髪飾り!? 装備っぽいのにこれも普通の髪飾りなのか。いや、リーナにすごく似合うな! 庭で優雅にお茶を楽しむ花のように美しいご令嬢を幻視したぜ」
「そ、そんな美しいなんて、あ、ありがとうございます! 嬉し恥ずかしですわ」
「ゼフィルスさん、このブローチはどうでしょう?」
「可愛いなそのブローチ!? ほほう、アイギスとは一見合わなそうに見えて、なかなかどうして結構似合う! アイギスがどんどん可愛く見えてきたぞ!」
「あ、はわ! 嬉しいです」
美しいご令嬢を思わせるリーナや、ギャップが可愛いアイギスが攻める攻める。
最終ステップ。
歓心と共感を変換し、ゼフィルスから好意を寄せられろ!
ここだ! とリーナとアイギスは全力で挑んだ。
「お、おおお! 〈幸猫様〉たちの神棚が、立派になられたぞーーー!! 豪華絢爛じゃないかーー!!」
そして造ってもらった神棚がギルドハウスに納品された。
その神棚は以前よりも豪華絢爛。まさに偉大な神様を祭っていると言われても納得する仕上がりだった。ゼフィルスの要望通りお供えできるスペースを大きく取りつつも〈幸猫様ファミリーズ〉が寂しくないように固まって配置できるように配慮を忘れない。完璧なプロの仕事。
一瞬でゼフィルスの魂は〈幸猫様〉たちに持っていかれたが、ここで成果が現れる。
「リーナ! アイギス! 改めてこんな素晴らしい神棚を購入できたのも2人のおかげだ! リーナもアイギスも本当にありがとう! 〈幸猫様〉たちのことをこんなにも真剣に考えてくれて、俺はすっごく嬉しい!」
そう、がっつりゼフィルスの心を掴むことに成功したのだ。
リーナとアイギスの試みは、大成功だった。
グッとゼフィルスと距離が縮まった2人。
だが、まだ始まったばかり。ハンナとは同じステージに立ったくらいに過ぎない。
まだまだこれからだ。
継続は力なり。アピールし続けないとすぐにハンナの方へ傾いてしまうだろう。
リーナもアイギスも、更なる気合いを入れたのだった。
あとがき失礼いたします。
祝・Web版〈ダン活〉5周年!!
5年連続更新にお付き合いいただき、誠にありがとうございます!
あれ? でもおかしいな。
〈ダン活〉を書くとき、〈ダン活〉は4年で終わらせる! を目標に書き始めたはずが、すでに通り過ぎてるぞ?
でもまだ1年以上続きそうな予感!
まだまだ〈ダン活〉は終わらなさそうです! これからも〈ダン活〉を楽しんでいってくださいね!
ニシキギ・カエデ




