#1884 リーナとアイギスの恋愛相談!!恋愛マスター強し
「ハンナさんが、それはそれはもうお強いですわ」
「分かります」
ある日、〈エデン〉の2人のメンバーが作戦会議をしていた。
誰が? もちろんリーナとアイギスである。
議題は――恋のライバルが強すぎる件、だ。
それは、ハンナだけの話ではない。
「シエラさんとラナ殿下は、すでに行動を起こしたと聞きましたわ」
「私たちも出遅れるわけにはいきません。ですが、良い案も思い浮かびません……」
正直、ハンナの戦闘力がとんでもなくてとんでもない。
さらにはギルド〈エデン〉のサブマスターであり、初期からゼフィルスを支えていて信頼が最も厚いとされるシエラ。
それに〈エデン〉で最もゼフィルスと性格面で気が合い、自身が国の王女でもあるラナ。
そこへ後から参入してゼフィルスの心を掴むのは、正直至難すぎる業だった。
だって初期の3人が強すぎるんだもん。
単身ではとても敵う案が思い浮かばないので、こうなったら2人で協力しよう、とリーナとアイギスは集まったのである。
とはいえ2人集まっても、できることは増えれど良い案は浮かばない。3人が強すぎるのと、2人が恋愛面にあまり強くないのが原因だ。
リーナは一度目を閉じ、再び顔を上げた。
「こうなったら、私たちの〈エデン〉における最高の恋愛マスターからご教授願うしかありませんわ!」
「!! 私たちにできるでしょうか?」
「やらなくて後悔するより、やって後悔する方がいいですわ」
「リーナさん……! そうですね、やってみましょう!」
リーナの力強い発案で相談相手が決まる。
恋愛相談だ。恋愛大好きなあの方ならば食いつくに違いない。
問題は、相談したからにはどんなに恥ずかしくてもやらなければならないところだ。
つまりはハンナ、シエラ、ラナよりも自分たちに惹きつける、魅力的なアピールをすることになる。いったいどんなことをしなくてはならないのか、今から震えがしそうな2人だった。
気合いを入れ直していざ立ち上がり、その者がいる場所へ向かう。
その者とは――〈エデン〉の恋愛マスター、オリヒメだ。
◇
貴族舎のとある一室、そこにリーナがノックをすると、少しして扉が開けられた。
「はーい、どちら様かしら?」
「オリヒメさん、その、相談よろしいでしょうか?」
「あら? リーナさんにアイギスさん?」
「リーナちゃんにアイギスちゃんもこんにちは~。2人してどうしたの?」
「あれ? シャロンさんもいらっしゃるのですか?」
扉を開けたのはオリヒメだったが、すぐ後ろに先客がいたのだ。〈エデン〉の姫城主、シャロンである。
シャロンを見てちょっと動揺するリーナとアイギス、それを見てキュピーンっと恋愛マスターの勘が冴え渡る。
「ああ、これは読めましたわ。きっとリーナさんとアイギスさんもシャロンさんと同じ相談でしょうね」
「あら? シャロンさんも、ですの?」
一方でリーナとアイギスは、意外、という目でシャロンを見た。
オリヒメとシャロンは結構仲が良い。それぞれレグラムとメルトを誘ったダブルデートは何回もしているし、テスト勉強なども一緒にしたりする仲だ。
リーナももちろんそれを知っているので、友達のところに遊びに来ていただけかと思ったら、自分たちと同じ用があったとのこと。
オリヒメは全て悟ったと言わんばかりに2人を自室に招き入れる。
「ここではいけませんね。是非中にお入りくださいな」
「お、お邪魔いたしますわ」
「お、お邪魔します」
なぜ是非と付いているのだろう?
本当にオリヒメに相談してしまって大丈夫なのか、そんなことを思いつつも、もうオリヒメに何かを伝授してもらわないと厳しいところまできているので、心をキュッと引き締めてお邪魔する。
「えーっと、私はどうすればいいかな?」
あと恋愛相談中なのに他の恋愛相談者を自室に迎え入れるオリヒメを見てシャロンがポカンとしていた。
「えっと、すみませんシャロンさん。シャロンさんはやはり、メルトさんとの相談で?」
「え!? ええ、っとまあ? うん。なんだかんだメルト君ってミサトちゃんと雰囲気良いし、どうしようかなって……。そういうリーナちゃんとアイギスちゃんはゼフィルス君でしょ?」
「…………はい」
「そうです……」
顔を真っ赤にして肯定する3人。
それを見てこの部屋の主がとてもニコニコしていた。
「それではリーナさん、アイギスさんから話を聞きましょう。あ、シャロンさんのことはお気になさらず」
「お気になさらず……? え、本当に?」
「では、話させていただきますわ」
「本当に話が進んじゃったよ!?」
シャロンが目を丸くしていたが、話は進行。結局シャロンも離れた席に座って傍観することにした。なんだかんだ言いつつも、シャロンも他のメンバーの恋愛ごとは気になるのだ。
リーナとアイギスはこれまでの経緯を説明する。
「というわけで、朝にゼフィルスさんとハンナさんが喫茶デートをしているところを目撃してしまったのが発端なんです」
「その後は説明したように、ハンナさんという強力な戦闘力になすすべ無く、ですわ」
「そう、シエラさんやラナ殿下はともかく、まずはハンナさんを超える魅力を見せないと厳しそうね」
シエラとラナも強力なライバルだが、やはり手強いのはハンナだ。
ゼフィルスの幼馴染みであり、ゼフィルスが一番信頼しているのは間違いない。
聞けば最初はハンナと2人でダンジョンに潜っていた仲だそうだ。なにそれ羨ましい。
しかし、そんなハンナよりも魅力的になる? 無理じゃない?
もうどんなことをしてゼフィルスの気を惹けば良いのか分からない。
そう思ったからアイギスとリーナはオリヒメに相談したのだ。
そしてオリヒメは、2人の話を咀嚼すると1つのアイディアを思いついたらしい。
「1つ案があります。これをすればゼフィルスさんの気を惹けると思います。ですが、そこから好意に発展するかどうかは、2人の努力しだいですわ」
「! さすがオリヒメさんです。その方法とは?」
2人で頭を捻ってもなにも案が出てこなかったのに、オリヒメには1つゼフィルスの歓心を買う方法を思いついたらしい。アイギスが急かすと、オリヒメは宣言した。
「ゼフィルスさんの関心は――〈幸猫様〉にあり!」
「「「!!」」」
それは誰もが知っていて、誰もが近寄れない、〈エデン〉の神域。
ゼフィルスの最大の関心事はなにか? そんなの〈幸猫様ファミリーズ〉に決まっている!
まずはインパクトで場を掴んだオリヒメが順序立てて説明する。
「ハンナさんはゼフィルスさんのとても大切な物を掴んでいるのですわ。これを上回るには、ゼフィルスさんの最も大切にしているものへの共感が重要になります」
ハンナが掴んでいるもの。それはもちろんゼフィルスの食。完全にゼフィルスの胃を掌握しているのだ! なぜかは分からないがゼフィルスはハンナのご飯が大好き、これは〈エデン〉メンバーの常識。
これに勝つには、そりゃ1つしかない。
「ゼフィルスさんのとても大切な物!」
「確かに、あまりにも当たり前すぎて、逆に盲点でした!」
4人の脳裏に最近お揃いになられたファミリーズ様の姿が過ぎる。
豪華な神棚、お供え物、ゼフィルスの胃を掴んでいるのがハンナならば、リーナたちは〈幸猫様〉を掴むべし。
「最近になり、ゼフィルスさんは新しい〈幸猫様ファミリーズ〉をお迎えになりました。それからは日に何度も神棚へ足を運んではニヨニヨしている姿が目撃されています」
「はい。私も見ました」
「わたくしもですわ」
これも〈エデン〉の常識。
故に誰もがゼフィルスの大切な物に触れられなかったが、共感を得るなら逆にここしかない。
「ですが、私が見るに今の神棚は、いささかゼフィルスさんの神を飾るには手狭になってきたと思います。猫様が増えたことでお供えできる面積が減り、ゼフィルスさんが苦慮している様子も見受けられました」
「! つまり、オリヒメさんは新しい神棚、それに伴う〈幸猫様ファミリーズ〉のより良い環境作りがゼフィルスさんの歓心を買う最大の行為である、そうおっしゃりたいんですわね?」
「ついでに買い物デートもできて一石数鳥です」
「「「おお!」」」
さすがはオリヒメ。恋愛マスターの名に偽りなし。
さらには〈幸猫様〉という共通の話題まであるのだからデートは安泰だ。
いったいどんな恥ずかしいことをするのかと身構えていたリーナとアイギスだったが、これならば問題ない。むしろやる気があふれ出る。とても的確なアドバイスだった。
「私から伝授できるのはここまでです。あとは2人の頑張り次第です」
オリヒメは誰の味方でもない。強いていえば恋愛の味方だ。
ハンナにもシエラにもラナにもがんばってほしいために、これ以上リーナとアイギスを贔屓するわけにはいかない。
故に、オリヒメは具体的なやり方についてはコメントせず、話をここまでとした。
善は急げ。
「オリヒメさん、貴重な話、ありがとうございます」
「わたくしたちもすぐに作戦を練り、行動に移させていただきますわ」
「2人とも、がんばってね」
「「はい!」」
こうしてリーナとアイギスは出発した。
…………そして。
「――では次にシャロンさんの恋愛相談、いきましょう」
「平然と私の恋愛相談に取りかかったよ!? オリヒメちゃん楽しみすぎでしょ!?」
「うふふ」
恋愛マスターオリヒメは強いのだ。




