#1883 ラナとデートとワンハットとニャンハット!
「それじゃあねゼフィルス」
「おう。シエラもまた明日な」
そう言って解散だ。
俺もシエラの勧めでパジャマを買ってしまったぜ。
そろそろ室内着も衣替えの時期だったし、ちょうど良かったな。
そんなことを思いながら振り返ろうとした時だった。
――――『直感』さんが、激しい警報!
いったいなにが!? 後ろからだと!?
俺は『直感』さんの「今すぐ逃げろ! 後ろを振り向かずに逃げろ!」という警報になにごとだと思わず後ろを向いてしまう。
するとそこに居たのは、ラナだった。
思いっきり目がつり上がっている。
「もう! 見たわよゼフィルス! 今シエラと、シエラと2人でショッピングしてたでしょ!」
「見られてた!?」
「ゼフィルス殿、申し訳ありませんが、しばらくお時間を頂戴いたします」
「エステルに回り込まれた!?」
バカな、逃げられないのは勇者からだというのに、俺が逃げられないだと!?
振り返ればエステルがやや黒い感じでニッコリしていたんだ。いつの間に回り込まれたんだ!?
「もう! ゼフィルスはこっちに来なさい! 洗いざらい、全て話してもらうわ!」
あかん、このままでは連れて行かれる! お助け『直感』さん!
しかし『直感』さんは無反応。あれ? 『直感』さん!?
俺は連れて行かれてしまった。
「ではラナ様、ごゆるりとお楽しみください」
「ありがとねエステル!」
5分後、俺はとあるショップにいた。
ファンシーなショップだ。ここはあれだな、モチちゃんなんかを買ったところだ。
「いらっしゃいッス!」
あの2年前から表情が変わらない女店員さん、まだいるんだ。
なんだか懐かしい。
さて、なんで俺がここに居るのか? しかもラナと2人きりである。
エステル? なんか店の前で目を光らせてるよ。
「まったくシエラったら、いつの間に抜け駆けを。偶然私の勘が冴え渡らなかったら危なかったじゃないの」
「ラナの勘すげぇ……そんなことまで分かっちゃうんだ?」
どうやらシエラとパジャマ選びに出かけたことは、ラナの女の勘、いや大聖女の勘的なもので筒抜けだったらしい。いったいどういうこと??
「とにかくズルいわ! ゼフィルスはシエラだけじゃなくて、私とも2人きりで遊んでくれないとダメよ! 寂しいじゃない!」
「ラナ……」
こういう素直な気持ちを吐露してくるのが、ラナの可愛いところだ。
本当にシエラと2人でショッピングしたのが羨ましかっただけっぽい?
うむ、ラナを寂しがらせてはいけないな。
「悪かったよ。それじゃあラナ、楽しむか!」
「! その言葉が聞きたかったのよ! 今日はこのお店を巡りましょ!」
「おう」
ということで、シエラとのショッピングを終えたばかりですが、ラナともショッピングすることになりました。
「まずはぬいぐるみね! この店は、一定の周期で新しいぬいぐるみが、それも限定モデルが発売されるのよ!」
「もしかしてラナって常連さん??」
まず新しい限定ぬいぐるみが入荷されているか見に行くところが通なんだけど?
なお、入荷されるのはフラーラ先輩のぬいぐるみなので当然俺も知っている。
「べ、別にそこまで通い詰めてないわ。お、多くて週に2回くらい、よ?」
「結構な頻度じゃん」
多くて、とか言っているがラナのキョドリ具合から毎週2回来ていたとしても不思議ではない。
週に2回行くお店は、十分常連だと思うんだぜ。
「わあ! 見てゼフィルス! なんか凄いのがあるわよ!」
「ちょ、あれって〈リンリン先輩〉の〈暗黒竜騎士様〉じゃね!? 最新モデルだと!? というかでっか!」
そこにあったのはフラーラ先輩の新作。
2メートル弱もある、竜騎士風のぬいぐるみ。だが、俺はそれに見覚えがあった。
これ、〈SSランクギルドカップ〉で〈集え・テイマーサモナー〉のカリン先輩とエイリン先輩コンビ、通称〈リンリン先輩〉が使ってきた究極合体〈暗黒竜騎士様〉じゃん! 商品化されてんの!?
「あ! こっちはゼニスじゃないの!」
「ゼニスも商品化されてる!?」
ラナの言う方に振り向けば、そこにはアイギスの愛竜、勇ましい姿のゼニスのぬいぐるみが置かれていたのだった。
「でも竜は勇ましくかっこいいけど、可愛さに欠けるのよね。やっぱりバルフかしら? こっちはデフォルメされてて可愛いのよ~」
「〈バトルウルフ(最終形態)〉のデフォルメされたぬいぐるみ!? いったいどこで見て作ったんだ!?」
なんとバルフの〈最終形態〉まであった。え? これ最上級ダンジョンの最奥ボスなんだけど? どうやって見たの?
いや待て、そういえばフラーミナのウールーフートリオは現在〈バトルウルフ(最終形態)〉だ。おそらくそっちを見て作ったのだろう。製作者もフラーミナになってるしな。
…………?
「ってこれ製作者フラーミナだと! え? これフラーミナが作ったの!?」
とんでもない事実と実物を見つけてしまった。
これ、よく見たらフラーラ先輩の作品じゃないぞ!
「え? あ、本当だわ! フラーミナったらこんなの作ってたの!? よくできてるじゃないの! 買っていきましょうよ! ギルドに飾りましょ!」
「本人羞恥に悶えるかもしれないからやめてあげようぜ?」
いや、これだけの品だから結構自信あるとは思うが、俺たちは揃ってフラーミナがこんな製作をしていたなんて知らなかった。きっとギルドハウスに山となっているぬいぐるみを探してもフラーミナの作品は見つけられないだろう。
ぬいぐるみを作ったならギルドハウスのショーケースに入れれば良いのに、販売店に卸したところから見ても、ギルドハウスに飾ることを躊躇った心境がヒシヒシと伝わってくるようだ。飾ったらフラーミナが悶えること間違い無しと見たね。
…………やっぱり買っていこうかな?
ぬいぐるみに色々度肝を抜かれた気分だ。
まさかこの俺がぬいぐるみに度肝を抜かれるとは思わなかったぜ。
是非フラーミナの度肝も抜いてあげたい。
その後もぬいぐるみを見ながらラナと感想を言って回り、もふもふなどを楽しんだ。
この世界のぬいぐるみ凄いわ。
もふもふもあればモチモチもあるし、温かかったり冷たかったり、口の中に手を入れると甘噛みしてきたりと、色んな楽しいに溢れている。
「ねえゼフィルス見てみて! 帽子型のぬいぐるみだって!」
「おお~」
見ればラナの頭に脱力したポーズの猫が……! これは間違い無く可愛い。
「ラナが可愛い」
「……へ?」
「ん?」
「も、もう一度よゼフィルス! もうワンモア!」
「ラナが可愛い!」
「はう!」
さっきみたいに思わず口から出てしまった言葉ではなく、ちょっと力強くラナ可愛いを言ってみたら、ラナが真っ赤になった。いや、本当に可愛い。
「も、もうゼフィルスったら、もう! そ、それじゃあ今度は犬のぬいぐるみはどうかしら?」
「商品名〈ワンハット〉、だと? か、可愛いじゃないか……!」
「も、もうゼフィルスは正直なんだから!」
続いてラナが被ったのは、ポメラニアン的な犬のぬいぐるみが舌を出して目をつぶり、蕩けている顔の帽子だった。はい、可愛いです。
なんだろうこのコーナー? 〈ぬいハット〉コーナー? ぬいぐるみと帽子のコラボレーション? そんな新商品のコーナーがあったの?
ぬいぐるみを抱えてキャッキャするラナにも萌えたが、今の頭にぬいぐるみを載せたかのようなラナも可愛い。さすがだなこの店。感服したわ!
あとラナとの2人きりのウィンドウショッピングが楽しい。
微妙に照れながらも突き進み、どんどん萌える姿や可愛い姿を見せてくれるラナに頭が上がりません!
平伏して称える気分でラナを褒めまくった。
それからも2人でお店中の商品を確認しながらウィンドウショッピングを楽しんだのだった。
その途中で思い出す。そうだ、ご機嫌取りしないと!
俺は不機嫌っぽいラナに連れられてここに来たんだった。
「ラナ、なにか欲しいものはあったか? どうか俺にプレゼントさせてくれないか?」
「へ? え? え? な、何言ってるのよゼフィルス!? プレゼント?」
「おう。俺は、ラナにプレゼントを買ってあげたいんだ」
「なにゅれ!?」
なにゅれ? なんかラナから変な声が漏れた。
もちろん指摘はしない。ラナは「あー、えっと、えっと」と顔を赤くして視線を彷徨わせる。そして1つ頷いてから俺の方を見た。
「わ、分かったわ。それじゃあ一緒に探しましょ! 私だけが貰うのも悪いわ。私からもゼフィルスにプレゼントを贈りたいのよ……」
後半になるほど声が小さくなっていったが、なんとか全部聞き取れたと思う。
そうか、プレゼントの交換か。それは良いかもしれない。
高いものじゃなくていい、こういうのは気持ちが大事だからな。というか買おうと思ったら多分この店の品全部買えるし。ラナの気持ちがこもったものや、もしくは見る度にこの日を思い出すようなものがいいな。やっぱりぬいぐるみか?
「そ、それじゃあゼフィルスにはこれをプレゼントするわ!」
「これ、〈ワンハット〉か。そう来たか~。なら、俺も、ラナにはこの帽子をプレゼントしよう」
「〈ニャンハット〉ね! ありがとうゼフィルス! 大切にさせてもらうわ!」
「俺もだ。ありがとなラナ。いい思い出ができたよ」
俺たちが選んだのは、〈ぬいハット〉の犬と猫だった。
うん、可愛い。これも衝撃的だったからな。間違い無く思い出になる。
こうして俺とラナは十分ショッピングを楽しんだのち、帰還することにしたのだった。
その後、エステルがいつの間にか購入していた〈バトルウルフ(最終形態)〉がギルドハウスに飾られているのを製作者本人が見つけてしまい、羞恥に悶えたなんてことがあったとかなんとか。




