#1882 シエラと服(意味深)選び?ドキドキの猫耳も
それは俺が今年度、学園最後の年のスケジュールを綿密に練っている時のことだった。
少し休憩しようとギルドハウスの個室から出たところでばったりシエラに出会ったんだ。
「ゼフィルス?」
「おうシエラ。奇遇だな」
「ええ。……ねぇ、今いいかしら? 少し行きたいところがあるのよ。その、ゼフィルスさえよければ付き合ってはもらえないかしら?」
「シエラがそんなことを言うなんて珍しいな。もちろんシエラが行きたいところならどこへだって付き合うぜ!」
「そう」
え? 今年のスケジュールは、って?
そんなものシエラとのお出かけの方が優先に決まってる! 後回しだ!
俺がシエラを優先すると言ったとき、なんだか満足そうな雰囲気なのに悟られないようすまし顔を作っているシエラに萌えた。
素早く出かける準備を終えてシエラに合流する俺。
「それで、どこに行くんだ?」
「その、夏もこれから本格的でしょ? 服に少し涼しい機能を着けたいと思っているの。もしくは涼しい服が欲しいのだけど、その、ゼフィルスの意見も聞きたいのよ」
「え? 服か?」
今は6月に入ったばかりだが、もう衣替えは始まっている。
非常にシエラの半袖制服姿が眩しい。いや本当に眩しい。夏に感謝。6月に感謝だ。
だが、ここで驚きのことが告げられる。
どうやらシエラの用とは、涼しい機能のようだ。
ここで言っておくと、俺たちが年間を通して同じ装備でいられるのは、この機能が大きい。『耐寒』『耐暑』スキルを持たなくても、ある程度装備には暑さや寒さを和らげる能力が付与されているのだ。
え? なら学園の制服は? なんで衣替えなんかあるの? と思うだろ?
そこが俺も不思議なところなんだ。でもシエラの夏服が眩しいので細かいことは気にしなくても良いと思うんだよ。
話が少し脱線したが、シエラが提案してきたのがちょっとした問題だった。
装備でもなく、学生服でもない、シエラは「服」と言ったんだ。
ここ学園都市では、装備と学生服以外を着用して出歩くことは校則で禁止されている。まあ寮内くらいなら問題は無いが普通の服では外は出歩いてはいけないのだ。
ならなんでシエラは「服」にそんな能力を付与しようというのか? いや、そもそも「服」とはなんぞやというところがポイント。
寮から出てはいけないのだから、「服」とはつまり部屋着、要は「パジャマ」などの意味で使われる言葉だ。
シエラは、俺にパジャマ選びを手伝ってほしいと言っているに等しい。
マジで? シエラのパジャマ選び!?
シエラの横顔をマジマジと見てしまった俺は悪く無いと思う。
「そんなマジマジと見ないでよ」
「おお、悪い? でもそう言うのって普通女子と――いやなんでもない。もちろん服選びだって手伝うさ! 俺にできることなら協力するぜ!」
照れた顔のシエラがマジプライスレス。
え? なぜパジャマ選びで俺が選ばれたの? 思わずそう聞きそうになって慌てて口を噤む。もしシエラが考え直してしまったら大変だ。俺は色んな疑問を蹴り飛ばしてゴミ箱に放り込み、全てを受け入れた。俺はシエラのパジャマ選びに協力するんだ!
「……まさかこんなに乗り気なんて。早まったかしら? でもこれくらいしないと」
「シエラ? なにか言ったか?」
「いいえ。なんでもないわ。……えっと、こっちよ」
「お、おう」
なんだか、緊張してきた。
シエラに連れられてきたのは、まさかのマリー先輩無き〈ワッペンシールステッカー〉ギルドだった。(高級店)
ここはマリー先輩の後輩が継ぎ、Aランクギルドとして継続している。
「い、いらっしゃいませ! ゼフィルス様、シエラ様!」
「「「「「いらっしゃいませ!」」」」」
早速お出迎えを受ける。突然の訪問なのに、俺たちを見た瞬間スタッフが数名駆けてきて出迎えてくれたんだ。VIP待遇は昨年度と変わらないらしいぜ。
「この服を夏用にしたいのと、あと新しい服を見たいの。私やゼフィルスに合うものを」
「「「「畏まりました!」」」」
「「「「お預かりいたします!」」」」
「え? 俺も?」
「ええ。一緒に楽しみましょ」
「おお~、なんだかこういう服選びとかってこれまでにあまり無かったかもしれない」
シエラはどうやら俺にもパジャマ選びをさせたいらしかった。なぜかは分からないが、そう言えばこういう服選びは女子とは余りしたことが無かったと思い至る。
装備選びは結構あるのだが、部屋着的なものはもしかしたら初めてかもしれないな。
シエラが用件を言うとすぐに案内されてパジャマコーナーを見る。
そう言えばシエラって服選びとかにやっぱり時間掛かるのだろうか?
あまり印象がない、即断即決のイメージなのだが。
「これは私に似合いそうね。――ゼフィルス、こういうのはどうかしら?」
そう言って1着のパジャマを自分に重ねるように合わせ、俺に見せてくるシエラ。薄い紫色で少し余裕のあるヒラヒラの半袖半ズボンパジャマだった。
「すごく良いと思う」
「そう。ならこっちはどうかしら?」
続いてシエラが見せてきたのは薄水色で、白の水玉模様が入った半袖半ズボンのパジャマだった。
「すごく良いと思う」
「…………」
「はっ!?」
素直な感想を告げたらシエラがジト目になってた。
しまった。同じ事しか言ってなかった気がする。
「……これはこれで成功しているということでいいのかしら?」
「え? シエラ何か言ったか?」
「いいえ、この2着、ゼフィルスは気に入ったのよね?」
「それはもちろんだ。シエラがこんなに可愛い服を着ている姿、是非拝み――じゃなくて、拝見したくなったぜ」
「……いいわ。少し待っていて」
「……え?」
シエラの疑問に答えたら、シエラが試着室に入っていったんだ。顔をほんのり赤くして。
これは、まさか――まさか、なのか?
「いいわよ。ゼフィルス、近くには誰も居ないかしら?」
「お、おう。女子の店員さんが8人くらい並んでこっち見てるけど、他にはいないぞ?」
「…………わかったわ」
試着室からカーテンを開き、出てきたのは――先ほどの薄紫のパジャマを来たシエラだったんだ。
「ゼフィルスが見てみたいと言ったから着てみたのよ。その、どうかしら?」
「こ、言葉にできないくらい素晴らしいです……」
どうしよう。試着室から女神が出てきた。いやシエラなんだけど。
とても涼しそうな夏のパジャマ。ただその下は思っていたよりもだいぶ短いショートパンツだったようで、大変目に毒だった。シエラの足って美しすぎるんだよ。
思わず素直すぎるセリフがとびだしてしまった。
「あ、ありがとうゼフィルス」
そう返すシエラも顔がとても赤い気がするのは、気のせいだろうか? いや、気のせいじゃない気がする!
「…………」
「…………」
なんとなくお互い照れて無言の空気が流れる。
もっとたくさん褒めた方が良いのだろうか? いや、これ以上口を開けばお礼的なことを口走りそうでマズい。多分この空気で「ありがとうございます!」なんて言った日には、シエラからお説教を貰ってしまうだろう。どうしよう?
と頭を捻っていたらここで救世主。
「あの、シエラ様、お楽しみ中に申し訳ございません。受け取っていた服の調整が終わりました」
店員さんだ。そう言えばさっきシエラがパジャマを預けていたっけ。
たとえ夏用でなくても、涼しい機能を付けてもらえれば夏でも使用できるのが〈ダン活〉の凄いところなのだ。
「! あ、ありがとう。一度着てみてもいいかしら?」
「もちろんです」
突然の店員さんにシエラもかなりびっくりしていた。見た目ほとんど変わりなかったが、付き合いの長い俺には分かる。内心結構動揺していると見た。
だがすまし顔のシエラが服を受け取ってそのまま試着室へ、一度着てみるらしい。
あれ? でもその服って、シエラが元々持っていたものじゃなかったっけ?
俺の『直感』さんが「ここを動くな。絶対に動いちゃダメだ!」と反応している気がする!? いったい何を持ってきたんだ?
そして先ほどの声を掛けることもなくシャーっとカーテンが開く。
俺はそれを見逃さなかったんだ。
「ネコ、ミミ?」
「え?」
きっとシエラは、とても動揺していたのだろう。
俺の存在を一時でも忘れてしまうくらいに。
シエラが持って来たパジャマは、なんと猫耳フード付きのパジャマだったのだ。
パーカー系の猫耳フードパジャマ。
まさかシエラが普段からこんなパジャマを愛用していたなんて……!
そう言えばシエラって、隠れ可愛い好きだった!
「…………!」
俺をしっかり認識したシエラは一瞬で顔を真っ赤にしてカーテンをシャっと閉めた。
きっとネコミミシエラを見せる予定は無かったのだろう。動揺してうっかり見せてしまった様子だ。
な、なんて素晴らしいんだ! 『直感』さん、ありがとうございます!
ネコミミシエラ、大変可愛かったです! 俺は脳内にネコミミシエラが焼き付いた。
そして数分してまたカーテンが開く。
その時には、シエラはいつもの夏の制服姿に戻っていたんだ。
「ゼフィルス」
「お、おう。その、なんだ。非常にとっても素晴らしかったです!」
「…………!」
俺の素直な言葉に顔を赤くするシエラ。しかし、何も言わない。ドキドキ。
どうしよう。こんなにドキドキするのはいつ以来だろうか?
「み、見られたのがゼフィルスだけで良かったわ」
「……ん?」
それはいったいどういう?
「シエラ?」
「なんでもないわ。――店員さん。とても良い仕事だったわ。あれなら夏でも快眠できそうよ」
「お、お気に召されたようでなにより、です」
店員さんの言動も少しおかしい。カクカクしてらっしゃる。
「ふう。少し、落ち着いてきたわ」
「お、おう」
「次はゼフィルスの番よ」
「おう。……おう?」
今度は俺がたくさんのパジャマ姿をシエラに見られることになった。
シエラは、ちょっと楽しそうにしていたよ。
たまにはこういうのもいいね。




