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祈りの灯台  作者: ぬりえ
第一章
2/105

二、

 電車がだんだんゆっくりになってくる。

 そして、止まる。

 クラリスはふう、と大きく息をついて、立っていた扉のわきから外へ視線を動かす。

 ――と、その途中で真ん丸の二つの目と目が合った。


 扉が開く。


(え? あれ何? 見たことあるような・・・・・・)

 考えつつも視線と足は扉の外へと動く。駅のホームに一歩踏み出した瞬間、はっと思い出した。

「カ・・・・・・ルシファー?!」

 ばっと振り返る。

 ここで降車したのはクラリスだけだった。

 しゅう、と扉が閉まる。と。


 べちん!

 扉になにかがぶつかる音がした。ほんの少し、すきまに青いちらちらしたものがはさまっている。

「呼んだ?!」

(へ?)

 むぎゅむぎゅっ

(扉のすきまを無理やり通り抜けてる・・・・・・)

 にゅる

(あ、だいたい出てきた)

 しゅっ

(お?)

 ぽん!

(出た!)


 ぷしゅう、と気の抜けた音がして、電車はまたゆっくりと、がたんかたんと王都へ向かっていった。ホームに残ったのは、クラリスと、ぽんと出てきたそれの、一人とひとつ。

「呼んだ? おいらのこと、ルシファーって、呼んだ?」

 しゃべった。しゃべったぞ。


 目の前で興奮気味にしゃべるのは青い火。浮いている。ずいっとクラリスの顔の前に迫ってくる。でも、熱くない。火じゃないの? あなた。

 とりあえず、答えないと。

「う・・・・・・ん? 呼んだというか、違うけど、そう」

 青く光る火のようなそれは、あの物語に出てくる火の悪魔のイメージそっくりだったのだ。イメージの中ではオレンジ色のような赤なのだけど、それをそのまま青にしたかんじ。驚いて言葉が引っかかってしまったのだ。


 クラリスのどちらとも言えない返事を聞いて、青い火は真ん丸の目をさらに大きくして、輝かせた。

「やった! おいら、ルシファー! 名前、もらった!」

 嬉しそうにぶんぶん飛び回るそれ。

 クラリスのほうはなにがなんだかわからず、ぽかんとしてしまう。名前をもらったって、どういうこと?

「ありがとう! おいら、あんたといれば存在できる!」

「ど・・・・・・どういうこと?」

「あんた、おいらに名前くれた! おいら、契約しないと消えちゃうところだったんだ!」

「私、あなたと契約なんてしてないよ?」


 あの物語のように、心臓と取り換えに、なんて問題ありすぎる。そもそも契約って何?

「名前だよ! あんた、おいらにルシファーって名前、くれた! それ、契約!」

 名前をあげたわけじゃないんだけど・・・・・・。頭に浮かんだ名前が口からすべりおちてしまっただけだ。

「おいら、あんたに名前もらえた! 契約した! だから生きていける!」

 やっほ―――――――い!

 くるくるまわる青い火。


 どういうことか考える。クラリスが電車を降りる直前に目が合い、つい口にしてしまった名前が契約となった、ということで合ってるのかな。そしてその契約は、この青い火――ルシファーの存在を可としている。

(ううん、名前をあげただけで、命と引き換えでないなら・・・・・・まあいっか)

 今もくるくるぴゅんぴゅん歓びの舞を続けるルシファーを見ながら、心臓を抜き取られなかったことにひと安心する。

(ん? ちょっと待てよ、契約ってことは)

「私はルシファーの主ってこと?」

「うん! そんなもんかな。おいら、あんたがいるから存在できるんだ」

 踊りを止めてルシファーが答える。

「命令とかならなるべく聞くよ」

「なるべく?」

 どうやら主従関係とかで縛られているわけではないらしい。それなら。

「それなら、友だちになって」

「ともだち?」

「もう自由にしていていいんでしょ? どこに行ってもいいよ。ただ、お友だちになりたいの」


 きっとこの出会いもなんらかのご縁があるのだろう。悪いこじゃなさそうだし、これから自由に生きてもらっていい。ただ、目的地に着いて最初の友だちになってほしいと、純粋に思った。友だちがいる、そう思うだけで、強くなれる気がするから。

「ともだち! おいらの友だち! なる! なるよ! おいら、ルシファー! よろしくぅ!」

「私はクラリス。よろしくね」

 そしてクラリスはここに来た事情を簡単に説明した。


「というわけだから、私、行くね。またね」

 長く駅に留まるわけにはいかない。早く修行の場を見つけなければならないのだ。クラリスはルシファーに別れを告げる。

「待って!」

 ルシファーが叫んだ。火のような体が大きくゆらめいている。

「おいら、クラリスと一緒に行きたい! 自由にしていいんでしょ? 一緒にいたいよぉ。・・・・・・だめ?」

「・・・・・・」

 だめじゃない。クラリスは考えるふりをして、ルシファーを見る。答えは決まっている。ルシファーはこちらの様子をうかがってくる。

「仕方ないなぁ。行こう」

 手を差し出すと、ルシファーが嬉しそうに飛び乗ってきた。熱くない火だけど、あたたかさを感じる。独りでは心細かった。

 連れができて、強くなれる、がんばれる気がした。

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