順調すぎて怖い。
昨日のことで顔がにやけてヤバい。
気を抜くと口角が上がって目尻が下がりそうだ。そんな顔は麗香でするわけにはいかない。
一人笑ってはいけない選手権だ。
本当は誤魔化すために机に突っ伏したいところだが、麗香ではそんなことできない。背筋をピンと伸ばしてすました顔で座っていなければ。
意識をしてポーカーフェイスを作る。
普段なら何も考えずともできるのだけど、今日は無理だ。
「おはよう麗香」
「おはようございます」
隆臣がいつものように髪をさらっとはらいながら挨拶してくる。
キザったらしい動きだ。
でも今日は許せる。心が広くなっているようだ。
そのせいかいつものように軽く微笑んだつもりだったが、どうやらちょっと違ったようだ。隆臣が不思議そうな顔をする。
「ん?麗香。何か良いことでもあったか?」
「いいえ?特には」
あったけど麗香としては特に何もないからなぁ。
しばらく隆臣が観察するようにじっと私を見る。
なんか最近やたらじっくり見られることがあるようなないような。
「何か?」
「いや、なんでもない」
隆臣はなんでもないというように普通に自分の席に座り、群がってきた女の子達の相手をしている。
ちなみにこれについて私は何も言わないのだが、それは本妻の余裕だと受け取られているらしい。少なくとも取り巻きたちはそういって勝手に納得していた。
余裕も何も興味ないだけなんだけど。
それにしても気を引き締めなければ。
隆臣に指摘されるようではダメだ。
昼休みになる頃には落ち着いて、いつもの麗香になれた。
落ち着いたことでやっと気づけたのだが、隆臣がちらちらと百合の方を見ている?ことに気づいた。
これは意識しているということでいいのだろうか?
会話の内容までは知らないが、私のいないところで百合と隆臣が会っているのは知っている。というか本人たちが教えてくれる。
百合は友美に報告という感覚なんだと思う。
隆臣のお金持ちとしてのぶっ飛んだ思考がわからなくてそれの相談とかだったりもする。
隆臣は無駄に金に物を言わせようとするときがあるから百合からしたらびっくりするだろう。私だって驚くからね。両親もわりと金に物を言わせようとするけど、隆臣のはその比じゃないからね。経済力の差なのかまがりなりにも両親は大人だからか。
どちらにせよ買い占めと貸し切りは無闇にするものではない。
そんなわけで百合から報告があるのはわかるんだけど隆臣はなにがしたいの?私に百合と会った話をしてどうする。しかも最初の頃は百合のことを貶していたのに最近は褒めている。
何がどうなってそう変化してるのかは少ない情報とゲームの知識でなんとなく察することはできるけれど。
婚約者の前で他の女の子褒めちぎるってどうよ?
私じゃなかったら怒られてるぞお前。
いや、もしかしたら怒らせたいんだろうか?普通に考えたら怒るような内容なのだから。
親の決めた相手だしお互いになんの感情もないから適度に会ったり話したりするくらいで、私としては恋愛に興味ないのもあって、嫌われないならあとはどうでもいいと思っていた。
隆臣もそうなんだと思ってたんだけど。
私に興味はないけれど、婚約者として置いておく分には特に文句はない、もう自分の所有物のようだし放っておいてもいいんだけど親の手前、適度に会っておこう。とかそんな感じだと思ってた。
以外と隆臣は私のことを気にしているんだろうか?
百合のことを話すとき、こちらの反応を伺っているような気もする。
はっ!もしかして隆臣は私に婚約破棄させたいのか?
自分が悪役にはなりたくないから私の方からさせようというのかね?
私が隆臣の浮気を主張しても信じてはもらえないだろうことを見越した上での犯行だったとしたら。
ま、それはないか。
そこまで隆臣はずるいやつじゃないだろう。
言動は鼻につくが、あれは犯罪とか悪巧みができないタイプだ。
「麗香はいつも落ち着いていて動じないな」
隆臣がいつもの軽い感じではなく、真剣な調子で言ってくる。
急にどうした。
「そんなことありませんわ。わたくしも慌てることだってありますし、表にでないだけで結構いろいろ考えてますのよ?」
「ふーん」
隆臣は何か言いたげだったが、結局何も言わずに終わった。
麗香がネコかぶりじゃなかったら、隆臣に友美の状態をさらして本音で訴えれば、こんなまわりくどい方法じゃなくても婚約破棄できたのだろうか?隆臣次第すぎてリスクが高いけれど。
今さら迷っても仕方ない。
麗香のネコははがせないし、友美を隆臣にさらすことはできない。
どうあっても私が本当はお嬢様らしくないことを両親にだけは知られるわけにはいかない。勘当してくれた方がいっそのことましだと思えるほどの、がんじがらめにされかねない。
なんでそう思うのかって前例があるからだ。
子供の頃反発してやんちゃしてやったら偉い目にあったわ。
トラウマものだからあれ。
まるで囚人のようだった。
当たり前のように外にはだして貰えない、ちょっとした軟禁状態で見張りつき。見張りも数人体制で、寝てるあいだすらも見張られるのだ。
夜中に脱走しようとしても無理だった。
どうあがいても誰かに見られてしまう。
大人しく従うしかなかった。みっちりとマナーレッスンやらお嬢様らしい立ち居振舞いや、上質な物の見分け方。
たしかに大事なのかもしれない。お嬢様として生きていくならば。
でも私はそうやって生きていくのはゴメンだ。
窮屈で息苦しい。




