21・プールですよ!
青い空!白い雲!
夏本番にはまだ早いけど、プール開きには絶好の気候です。
そろそろプールの季節だなぁと思っていたら、りおちゃん一家に誘われました。
家族で少し遠くのレジャー施設まで遊びに行くんだとか。
一緒にどうですかと誘われたわたしは、もちろん頷きましたとも!
残念ながら母は仕事のため不参加。
母イチオシの水着をリュックに詰め、いざ出発!
「みあちゃんー!!」
玄関を開けた途端、りおちゃんが突撃してきた。
予想していたのでガッチリと受け止める。
いつものわたしと思うなよ!
ぐりぐりとお腹にすり寄るりおちゃんの頭をなでなでする。猫っ毛がふわふわで気持ちいい。
「あらあら理央、ミアちゃん困ってるわよ」
「理央ちゃんママ、今日はよろしくお願いしますね」
「いいえー。ミアちゃんが一緒だと理央が大喜びなんですよ」
頭の上で母同士の世間話が始まるけど、いつものことです。
今日は、りおちゃんパパと初対面です。
車で待っていたパパさんは、爽やかなお兄さんでした。
若ーい! 聞いたら、御年28とのこと。五歳サバを読んで言われても納得してしまいそう。
子供組はファミリーカーの後部座席でおやつを交換。
自分では選ばないお菓子もあって、うきうきしていたり。
何だか最近、もやもやすることが多かったので、りおちゃんの全開の笑顔を見ているだけで気分が明るくなります。
やっぱり幼児は可愛いなぁ。りおちゃんは特別美人さんだけどね!
おやつを食べていると、すぐににプールに着きました。
温泉も併設されているという施設は大きくて、わくわくします。
ママも一緒に来られたら良かったのにね。
りおちゃんママと一緒に着替えて、いざプールへ!
どーんとそびえるスライダーに、テンションが上がります。
いやー、こんな大きなプールに来たのっていつ振りだろう。
りおちゃんパパの号令の下、準備体操を済ませたわたしとりおちゃんは、プールに突撃ですよ!
飛び込んだ水は程よい冷たさ。快適な温度が保てるのは、屋内プールの最大のメリットですよね!
はしゃいでいると、りおちゃんに「みあちゃん」と腕を引かれた。
振り返るや、顔にパシャンと冷たい衝撃。水飛沫の向こうでりおちゃんが笑っている。
「やったなー!」
「きゃー!」
しばらくお子様向けの浅いプールで水を飛ばしあって遊び、プールサイドでひと休憩。
りおちゃんパパが買ってきてくれたおやつセットは、子供が喜ぶおまけ付きでした。
『ゴー! アニマルダー!』のおもちゃを見て、りおちゃんが顔を輝かせている。しかし問題はおもちゃがひとつしかないところでしょう。
りおちゃんパパは、りおちゃんママにこっそり怒られていました。
『ゴー! アニマルダー!』はわたしも結構好きだ。
かなた君との繋がりはともかく、こっそり結城英を応援しているわたしとしては心が揺らぎます。
だって実物に会ったら、カッコ良かったんだよ!
笑顔が爽やかだったんだよ!
今年のクリスマスはグッズが欲しいと言おうかな―と思っていました。
……まあここは、大人になるとしましょう。
わたしの方が精神的に年長者ですし。
りおちゃんの、この期待でキラッキラの笑顔を見たら、煩悩が浄化されていくようだよ!
「りおちゃん、どうぞ」
おもちゃを差し出すと、りおちゃんの表情が輝きます。
しかしフッと首を傾げた彼女は両親を見上げた。
「みあちゃんのは?」
りおちゃんパパが、うッと怯んでいます。だから言ったでしょう、と困り顔のりおちゃんママ。
両親の顔色を正しく読んだりおちゃんは「ないの?」と迫ります。
うるうるした瞳に罪悪感を苛まれている模様。
りおちゃんが手元に目を落とした。
きゅっと眉を寄せた後、りおちゃんは握った手を差し出してきました。
「あげる!」
「えっ」
わたしは差し出されたおもちゃとりおちゃんの顔を見比べた。
りおちゃん、アニマルダー大好きだよね?
差し出す手がプルプルしてますけど! 目もうるうるしてますけど!
「みあちゃんだからいいの!」
「……ッ」
りおちゃん一人っ子だから、普段おもちゃを誰かに譲ることなんてないと思う。
それがこうして譲ってくれるなんて。
渡されたおもちゃが、じんわりと温かく感じた。
「ありがとう」
「うん!」
ミアも一人っ子だから、実はおもちゃを譲って貰うのは初めてかもしれない。
あー、何だか鼻の奥がつんとする。嬉しいような、こそばゆいような。
こうやってみんな大人になっていくんですね。
スライダーや温泉も満喫しての帰路、気がついたら車の中で寝ていた。何だか重いなと思って見ると、わたしの膝の上で腰に抱きついたままりおちゃんが寝ていた。
健やかな寝息をたてている頭をぽんぽん撫でると、猫みたいにぐるると唸ってすり寄ってくる。
楽しかったな。また来れるといいな。
そう思いながら、あくびをひとつ。眠くなっちゃいました。
もう少し寝ようかな。
うとうと眠りの中に引き込まれていったわたしは、前の席のりおちゃんの両親が頻りにカメラのシャッターをきっていたことは知りませんでした。
それを知るのは、もっとずっと後の話。




