第5話:筋肉vs妖刀
「べ、別にあなたの筋肉……じゃなくて、召喚獣が心配で来たわけじゃないんだからね! たまたま、このダンジョンの攻略に人手が足りなかっただけよ!」
先日、剛田の広背筋を見て「押し潰してぇぇ!」と叫んでいたエレナは、どこから持ってきたのか鉄の意志で正気を取り戻し(たフリをして)、アレンの前に現れた。
「えーと、エレナさん……鼻血、拭いたほうがいいですよ?」
「なっ、これはただの血管のパンプアップよ! さあ、行くわよ!」
こうして、一行は難攻不落の「死の迷宮」へと足を踏み入れた。
ダンジョン内は罠のオンパレードだった。
「アレン、危ない! 床のスイッチを踏んだわ、矢が飛んでく——」
「フンッ!」
飛来する無数の毒矢。それを剛田は、飛んでいる蚊を叩き落とすかのように、全て素手でキャッチした。
「少年、いい動体視力のトレーニングだ。君もやってみるか?」
「死んじゃうから。その矢、一発で象が倒れるくらいの毒が塗ってあるんだけど」
さらに、天井から巨大な吊り天井が落ちてきても、剛田は片手でそれを受け止め、**「ショルダープレス」**の負荷として利用し始めた。
「……エレナさん、あれ、トラップですよね?」
「…………いいえ、あれはただの『可動式トレーニング器具』よ。そう思い込まないと私の理性が爆散するわ」
「ククク……よくここまで来たな、死に損ないども」
暗がりに座していたのは、この辺り一帯を牛耳る盗賊団の頭、**「断絶のジャック」**だった。
彼は触れるもの全てを両断するという「妖刀・血吸い」を抜き放ち、冷酷に笑う。
「俺はこの刀で、あらゆる召喚獣を、その主ごと切り刻んできた。……ん? おい、そこのデカブツ。人の話を聞け」
剛田は、ジャックの話など微塵も聞かず、ダンジョンの湿気を利用して広背筋の広がりを確認していた。
「フンッ! ……少年、見てみろ。ここの湿度は大円筋のカットを強調するのに最適だ」
「話を聞けよ!!」
ジャックがブチギレて地を蹴った。神速の一閃。妖刀の刃が、剛田のオイルでテカテカに光る無防備な腹部に吸い込まれる。
カキィィィィィィンッッ!!
「……は?」
ジャックの動きが止まる。そこにあったのは、剛田の**「割れた腹筋」に挟まって、ピクリとも動かなくなった妖刀**だった。
「な、なんだこれ……。斬撃が吸い込まれた!? 刃が、こいつの腹の溝にジャストフィットして抜けねえ……だと!?」
「いい吸着力だ。だがジャック君、腹直筋への刺激が足りないな。もっと腰を入れて振り抜かなければ、私の体脂肪は燃焼させられんぞ」
「筋肉を燃やすために斬りかかったんじゃねえよ! なんだよその腹! 煉瓦か!? 彫刻か!? 普通、腹を斬られたら血が出るだろ!」
ジャックは必死に刀を引き抜こうとするが、剛田がさらに「ヌンッ!」と腹を波打たせると、パキィィィン! と妖刀の刃が砕け散った。
「俺の妖刀がああああ!? 『なんでも斬れる刀』だぞ!? なんで腹筋の溝に負けてんだよ! 物理法則仕事しろよ!」
「ジャック君。刃こぼれを気にする前に、己の精神のこぼれ(甘え)を気にするがいい」
剛田は崩れ落ちるジャックの頭をガシッと掴み、そのまま**「パイルドライバー」**で床に埋めた。
「ちょっと! 剛田さん! あの人、最後の方はただの正論を言うツッコミ役になってたから! 命だけは助けてあげて!」
アレンの叫びがダンジョンに虚しく響く中、エレナは再び
「……いい。あの吸い込むような腹斜筋……最高だわ……」
と、目がハート型になっていた。
剛田は、粉々になった妖刀の破片を拾い上げ、寂しそうにダンジョンの出口を見つめた。
「少年。鋭利な刃物も、強固な鋼も、形あるものはいつか壊れる」
「少年。覚えておきたまえ。ジャック君が求めていたのは『最強の刀』ではない。その刀を受け止められる『最強の肉体』だったのだ。……多分」
(……最後、適当にまとめたでしょ、剛田さん!!)
【剛田の今節の名言】
「『なんでも斬れる刀』と『何にも斬られない筋肉』。矛盾の答えは常に一つ……筋肉が勝つ、ということだ」




