第二話:スライム、それは最高の
「よし、今日が冒険者としての初仕事だ……! 落ち着けアレン、相手はスライムだ。初心者向けの、プルプルした、あの弱い魔物だぞ」
村の近くにある「はじまりの森」。
アレンは自分に言い聞かせるように呟く。周囲では、同期の召喚士たちが華麗に初陣を飾っていた。
「行け、フレイムウルフ! 『火炎放射』だ!」
「クリスタル・ピクシー、魔法の矢で射抜いて!」
炎に焼かれ、光の矢に貫かれ、次々と消滅していくスライムたち。これぞ異世界、これぞ召喚士の戦いだ。
「よし……。剛田さん、あそこにいるスライムを倒してください! 頼みますよ、今日こそは召喚士っぽいところを見せて——」
アレンが振り返ると、そこには**全力で準備運動**をしながら、周囲の木々を威圧する剛田の姿があった。
「フッ、ハッ、フッ……! 少年、安心しろ。あのプルプルとした物体……私にはわかる。あれは**『高純度の天然ポージングオイル』**だ」
「えっ、何言ってるの? 敵だよ? 魔物だよ?」
剛田はアレンの制止を無視し、目の前のスライムに向かって、地響きを立てて歩き出した。
「グチャァッ!」
剛田は攻撃を仕掛けてきたスライムを、あろうことか素手でキャッチした。
「なっ、素手!? スライムの酸で手が溶けちゃうよ!」
「ふんぬっ! 私の筋肉の密度が酸の浸透を許さないッ!」
剛田が両手に力を込めると、スライムは悲鳴を上げる間もなく、巨大な万力のような握力で**「搾り取られて」**いく。
「ちょっ……剛田さん!? 倒し方がエグいよ! 握りつぶして中身出ちゃってるから!」
「少年、よく見ておくがいい。これこそが、自然の恵みを最大限に活かす『パンプアップ』の極意だ」
剛田は搾り取ったスライムの粘液を、自分の逞しい大胸筋にベチャアッ! と塗りたくった。
そして、そのまま全身にマッサージするように広げていく。
「ああ……いい。この粘性と光沢……。市販のオイルよりも遥かに、筋肉のカット(筋)を美しく際立たせてくれる……!」
「やめてえええ!! 他の召喚士たちがドン引きしてるから! 爽やかな冒険の風景が、一気に深夜のボディビル大会のバックステージみたいになってるから!」
剛田の体は、スライムオイルによってこれまでにないほどテカテカと輝きを増していく。もはや太陽の光を反射して、物理的に眩しい。
「……仕上げだ。サイドチェストォォ!!」
剛田がオイルの乗った体で渾身のポーズを決めると、その筋肉から放たれる輝き(反射光)が、近くにいたスライムたちを直撃した。
ピカァッ! という爆光と共に、スライムたちは「美しすぎる……」と言わんばかりに光の中に消えていった。
「………………倒した」
アレンは膝をついた。スライムを「オイル」にして倒す召喚獣なんて、古今東西どこを探しても彼だけだろう。
剛田は輝く体でアレンに歩み寄り、オイルでヌルヌルの親指を立てた。
「アレン君。覚えておきたまえ。スライムの酸に負けるような皮下脂肪は、冒険者には不要だ。筋肉を磨けば、世界は鏡のように君を映し出すだろう」
(……お願いだから、次はせめて、普通に殴って倒してほしい……。)
【剛田の今節の名言】
「魔物は倒せば素材だが、筋肉は鍛えれば芸術だ。ちなみにスライムオイルは保湿効果も高いぞ」




