第一話:選ばれし獣(?)
「……いいか、アレン。召喚士は一生に一度、己の魂を触媒に『運命の伴侶』を喚び出す。それが竜なら覇道を、妖精なら知恵を、スライムなら……まあ、それなりの人生を歩むことになる」
聖なる召喚神殿。師匠の厳粛な言葉が、アレンの胃をキリキリと締め付ける。
周囲の候補生たちは、すでに「勝ち組」の顔で自慢の召喚獣を従えていた。
「見ろよアレン、俺のフレイムウルフを! モフモフで強そうだろ?」
「ふん、私のはクリスタル・ピクシーよ。美しくて魔力も最強なんだから」
(いいなぁ、かっこいいなぁ……。僕もせめて、人に見せびらかせるくらいの魔獣がいいな……!)
アレンは震える手で、黄金に輝く魔法陣の前に立った。
「全神経を集中しろ。お前の深層心理が、最強と認める存在を形にするんだ!」
師匠の激が飛ぶ。
(最強……最強……! どんな困難も跳ね除け、何者にも屈しない、圧倒的な力……!)
「来たれ、我が運命を切り拓く最強の使役獣ッ!!」
魔法陣から、かつてないほどの黄金の光が噴き出した。
神殿の柱がミシミシと鳴り、あまりの魔圧に候補生たちがひれ伏す。
「こ、このプレッシャー……まさか、伝説の武神か!? それとも黄金竜か!?」
光が収まり、土煙の中からゆっくりと立ち上がったのは——。
「…………サイド・チェストッ!!」
サイドチェストの構えで、左右の大胸筋をピクピクと脈動させる、テッカテカの巨漢だった。
衣装は、はち切れんばかりの極小タンクトップと、短パン。
その肌は不自然なほど褐色に焼き上げられ、ポーズを決めるたびに「メキメキッ!」と周囲の空気が物理的に悲鳴を上げている。
「………………はい?」
アレンの口から、魂の3分の2くらいが漏れ出た。
「お、おいアレン……なんだその、**『オイルを塗りたくった動く山』**は」
師匠が、杖を落としてガタガタ震えている。
「あ、あの……すみません、これ、何かの間違いですよね? モンスター召喚ですよね? なんで人間……というか、**『人間を超越した何か』**が出てきてるんですか?」
すると、巨漢がゆっくりとポーズを解き、地響きを立ててアレンに歩み寄ってきた。その瞳は、厳しい師のようでもあり、慈愛に満ちた聖母のようでもあった。
「……少年よ。聞こえるぞ、君の軟弱な僧帽筋が助けを求める悲鳴が」
「えっ、しゃべった!? しかも僧帽筋の通訳してる!?」
「私は『筋域』より召喚された指導者、剛田。君が私を呼んだのだ……『何者にも屈しない力が欲しい』と」
「いや、そう言いましたけど! それは魔法とか、鋭い牙とか、そういう意味で!」
剛田は無言でアレンの細い腕を指先でつまんだ。
「……枝かな?」
「腕だよ!!」
「君、さてはプロテインを飲まずに白米ばかり食べているな? カロリーを筋肉に変える努力を怠った罪は重い。今日から私が君の専属トレーナーだ」
「召喚獣って、主人の言うこと聞くもんじゃないの!? なんで初対面で生活指導受けてるの!?」
剛田は満足げに頷くと、神殿の天井を見上げて仁王立ちになった。
「案ずるな少年。この世のあらゆる問題——魔王の復活、国家の危機、そして恋の悩み……それらは全て、バルクアップによって解決可能だ」
「絶対に無理だと思うんですけど!!」
アレンの絶叫をよそに、剛田は懐から(どこに持っていたのか)新品のダンベルを取り出し、アレンの手に握らせた。
「さあ、冒険の第一歩だ! 記念すべき最初の契約を祝し、この言葉を贈ろう……」
「アレン君。覚えておきたまえ。魔法は唱えなければ発動しないが、筋肉はそこに存在するだけで正義なのだ」
(……一生に一度の召喚、やり直したい。切実に。)
【剛田の今節の名言】
「魔法の詠唱に30秒かけるなら、その時間でスクワットが15回できる。世界を救うのは呪文ではない、大腿四頭筋だ」




