黒曜石(オブシディアン)1
ルミナスプェラ
建国されて、まだ十年にも満たない、この世界では最も新しい国。
それでも、有能な指導者の下、どの国よりも洗練された設備と、強力な軍を持っていた。
ルミナスプェラの軍事力と言えば、大陸最強と名高い。全第六大隊の内、其々の大隊長は一騎当千の働きをし、また有能であった。
その中でも、最も有名で、且つ、敵国に恐れられているのが
『白銀』
『個人戦力最強』
『毛色の違う大隊長』
こと
第四大隊を率いる長
クロウ=シキジマ第四大隊長
なの、だが・・・
(なんだってこんなにも人手が足りないわけ・・・?)
ルミナスプェラ軍で最も強い戦闘力を誇ると称される彼は目の前の書類の山に、辟易した表情を浮かべながら必死にと机上仕事をこなしていた。
いくら軍とて、戦争ばっかりやっている、わけだはない。その大多数は国内の治安維持や国境警備が主となる。そして、それらには膨大な書類仕事もついてくるのだ。
やってもやっても減らない紙の山に、クロウは、書類を書き上げる手を止めないまま、イライラと舌打ちをする。
彼は今、部下の訪れを待っていた。
切っ掛けは、突如降って湧いた様な任務。
足りない人手を更に割かなくてはならなったのは、人一人満足に相手に出来ないルミナスプェラの治安維持部隊共の尻拭いであった。
治安維持部隊は、元々軍の管轄ではない。
彼等は、ルミナスプェラの国家元首がある地方貴族に依頼をして、この首都直下の街の警備を任せる為に集められた者達だった。
色々問題のある部隊ではあるが、それなりには剣の腕が立つ者たちが集められている、筈だった。
だった、のだが・・・。
不本意な結果に終わったその、事件が彼等の手に負えないと判断されて、国家元首の一存により、その事件の担当がクロウの元へと舞い込んだ。
コッチは死ぬ程忙しい、と。
突っぱねたい気持ちはあれど、この国トップ直属の命令には、到底逆らう力はなく。
イライラ募る状況下で、不幸中の幸いだったのは、偶然にも知り得た『今利用したいモノ』にピッタリと当てはまる相手の情報。
本当にいるのか、そんな相手は、なんて、疑いつつも、情報提供者からの確かだという話に、とりあえず一つ使いを出すことに決め、部下を呼んだ。
一つ、二つ。
扉を叩く音。
返事を返さなくても問答無用で開く。クロウが呼び出した部下はそんな相手だ。
時間外労働に面倒臭そうな顔を向けるけど、それでも書類の山に埋もれたクロウと、その目の下の隈の厚さに、ため息一つ、仕事を引き受けてくれる。
(ホント、できた副官持って幸せだわ。)
振られた仕事の話は既に聞き及んでいるだろう、と一瞥すれば、残念ながら、と頷く。
ならば話は早いと、クロウは書類に再び眼を落としながら、用件を伝え始めた。
「探してくるのは『東方種』、まぁ、黒髪黒目の美人サン、ね?」
「はいよ。」
頷きながら、例の捜査に関する情報を、副官──ハルオミ=シエラ=アルトシアン、は、頭の中で整理する。
「スタイル必須。所謂、むしゃぶりつきたくなるようなヤツ。なんせエサだから。ソコ、しっかり見極めといて、野郎だとしても。」
「ボス、表現表現。」
「まぁ、性格は──・・・、この際いいわ、気にしない。コッチとの約束守ってくれれば。」
「それなら誰でも──・・・」
「世の中には『脳筋』通り越した『脳無し』ってのがいるから。治安部隊《アイツ等》とか治安部隊とか治安部隊とか・・・ッ!」
「・・・あぁ。」
「まぁ、あと・・・、多少なりとも腕がたてば生きて帰れる可能性あがるけど、いんのかな、そんなヤツ。まぁ、いたらしいんだよね。話に聞くと。」
「それでも、・・・『賊』からは中々厳しいでしょうよ。」
「だからこその、『囮』だよ?捨て駒。」
「・・・・・。」
一度書類から顔を上げて、何でもない事の様にクロウが言い切る。相変わらず容赦ない、と、ハルオミは苦笑した。今更だった。
「・・・あー、あと、さ?」
不意に、クロウがはぁっとため息を吐く。
「どうせなら組み敷いた時に、据膳モノの色気が欲しい。」
「そりゃアンタの好みでしょう。」
すかさずハルオミが突っ込めば、不意にクロウが
「・・・東方種の美人か。いいな、それ。」
「・・・アンタ。」
「別に巨乳なんて言わない、それよりも体のラインが綺麗な方がいい。尻とか、こう、ツンと上がってて・・・。」
「えー?巨乳のがよくないですか?」
「おまえ、それリリに言うぞ?」
「それは黙っておいてくださいよ!」
「こう、片手で収まる程度で、さ?ちょっと勝ち気で負けず嫌いな、こう、おっぱいのさきっぽくりくり弄くると、声我慢するんだけど、つい、漏れ出ちゃう、とか・・・。」
「ボスボス、まだ昼間です。」
「コッチは昼も夜もねぇよ。目の前にいんのは面白くもねぇ紙っペラばっかだわチクショウ。」
悶々と猥談に浸る上司に苦笑いを浮かべれば、悪態交じりにクロウが机へと突っ伏す。
そんな彼に呆れた溜息一つこぼしては、
「てか、探してんのは『囮役』?アンタの結婚相手?」
「あー、確かに・・・。めちゃくちゃ該当するわ。」
指摘すれば、クロウは、その特徴的な目を細めて、喉で笑う。
本当に徹夜なら、連続勤務時間はそろそろ二十四時間を超えるだろう。唯でさえ忌避されるその外見に、凶悪さが増していた。
「ホント、嫁さん欲しい。オレの下で、可愛いくねだって、腰振りながらヨガってくれる『オンナノコ』。」
「・・・今回オトコノコですからねぇ。」
「ホントだよ。オンナノコで実在すんなら、即ベッドに連れ込んで朝までコースだわ。」
鼻息荒く、クロウがぐっとペンを握る手に力を込めれば、
「そんな風に言ってる限りは、誰も嫁に来てくれないでしょうね!」
「・・・・・。」
相も変わらず、鋭いツッコミセンスを持つ部下に。
クロウ=シキジマ第四大隊長は、さも面白くなさそうに、唇を尖らせた。




