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ようやく

「ここは?」

 ローレンスに連れてこられたのは図書室だった。

「こっちだよ。おいで」

 そう言うとローレンスは私の腕を掴んでいた手を離し、代わりに私の手を握った。そしてそのまま図書館の奥へと向かった。


 この学園の図書館は3階建てになっている。

 手を繋いだまま階段を昇り3階へ。そして更に置くまで進むと、突き当り手前の左側、書棚と書棚の間に腰の高さくらいまでの細い扉があった。知らなければここに扉があるなど気付かないだろう。


 その扉を屈んで通り抜けるとそこは小部屋だった。

 8畳ほどの部屋に大小3つの書棚、テーブルに椅子が2つ。

 大きな窓があり、真っ青な空が視界に飛び込んでくる。

 窓からは果てしなく続く緑の大地とその向こうの向こう遥か遠くに海が見える。

 間違いなく夢で見た景色だ。ここから見た景色だったのだ。


 ローレンスが私の後ろに身体を重ねるようにして立った。私達は暫く黙ったまま広がる景色を眺めた。


「ここは…」

「僕と君の、僕と君だけの場所だ。僕たちはよくここで勉強をしたり本を読んだり、他愛ない話をして2人の時間を過ごしていたんだよ」


「…………あの海の向こうには」

「え?」

「あの海の向こうにはなにがあるの?」

「………いつか君を…連れて行ってあげるよ」

「ほんと?約束よ」

 涙が溢れて景色が揺れた。

「その代わり…僕の……そばに…」

 ローレンスの声が詰まる。彼の両腕が私を包み込んだ。

「覚えてるの?」

「夢で見たの。怪我をして、目覚める寸前に夢を」

「クレア…クレア…会いたかった。どれほど俺は……君をこうして抱きしめたかった」


 私はゆっくりローレンスの方へ向き直り、彼の目を見た。そこにも涙が溢れていた。

「ローレンス、続き、続きを言って。もう一度聞きたい」

 彼は泣きながら微笑み、私の頬に伝う涙を拭い言った。

「その代わり…僕のそばに一生いると誓って。そうしたら僕は君が行きたいというならどこにでも連れて行くし、欲しいものはなんでもあげる」

「欲しいものはないわ……あなたが……んっ」

 彼の唇が私の口を塞いだ。

(ああ、そうだ、このキスを私は知ってる)

 あたたかい彼の腕の中で目を閉じる。



「ここは、ここだけが誰にも邪魔されず2人の時間を過ごせる場所なんだ」

 その言葉に、ここに来るまでに感じた思いが蘇る。

 一挙手一投足が注目される彼が…私達が、『誰にも邪魔されずに』

「2人の時間を過ごせる場所」

「うん」 

「だからどうしてもここに君を連れてきたかった。君はここから見る景色が好きだったからね」

「うん、ローレンス、ありがとう。ローレンス、大好きよ」


 ローレンスが目を見張って驚く。

「どうしたの?」

「君が回復してから、初めて言われた、好きって」

「あ…そういえば、なんだか勝手に言葉が…ふふ、でも本当に好きよ、ローレンス。ずっと待っていてくれてありがとう」

「はあああーーもうーー!」

「なに!?なに!?」

「一時は君を永遠に失うかと絶望して、でも君が回復して喜んだら、今度は俺の思い人がどーのこーの言われて」

「ごめんなさい」

「あれはなんだったの?」

「あれ?…は…その…女の勘…的な」

「女の勘……ブッ!ハハハ!全然当たってないじゃないか!アハハハ!」

「ごめんなさいって!って、あ!あれ!?授業!!えっ、午後の授業!」

「クレア、時には授業より大事なことがあるよ。これは俺達の人生、未来、愛、俺達にとって何よりも大切な時間だよ」

 優しく額にキスをされた。

「ふふ、ウェルがしてくれるキスとはやっぱり違うものね」


「………ちょっと待て、ウェルが?君に?何を?」

「キスよ、あっ、おでこによ」

「は?いつ?」

「毎日、毎朝、毎晩、会うたび、馬車の中、出かける前、帰ってき…」

「ちょっとちょっと待て、はぁあああ???くっそ、アイツ!兄貴の立場を利用して!」

「ふふふふ」

「ふふふ、じゃないぞ、クレア」

 私達は顔を見合わせ吹き出した。私を抱きしめている腕に力を込めて彼が言った。

「ようやくまた君を抱きしめることができた」

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