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第三章 起承転結の転。主人公とヒロインの間にサブキャラがからむの図。・その5

「スポーツだってそうだろう? どうすればうまくなりますか? 練習すればうまくなります。どういう練習をすればいいんですか? 上手な人の動きを見て技術を盗みましょう。それと同じだ。プロ作家の本を丸写しする、写経って練習方法もあるらしいし」


「――私、プロ作家って、もっとすごい秘密の技術を持っているんだと思ってました」


「俺も最初はそう思っていたよ。ネットで知り合ったプロ作家は何もないって言ってたけどな」


 案外、実はすごい技術を使っているのに、無意識でやっているから自覚がないだけなのかもしれないが、そんなものは出版された本を読んで吸収するしかなかった。


「ついでだから、このへんのアドバイスも言っておこうか」


 なんか静流が悩んでるみたいなので、追加で俺は虎の巻を開いた。


「これはバクマン。からの引用だ。『連載を勝ちとるには、努力、うぬぼれ、運。連載を勝ち獲ってからは、体力、精神力、最後は根性』。だから、とにかくがんばるのが一番だと思う」


「はァ。努力、うぬぼれ、運ですか」


 神妙にうなずく静流と対照的に、由紀乃が不服そうな顔をした。


「努力とうぬぼれはいいとしても、運はどうにもならないんじゃね?」


「それがどうにかなるらしい。これは極真会館大山倍達総裁の言葉なんだけどな。『ただし、運とは、日々の努力がもたらすものではありますが』。つまり、努力していれば運も巡ってくるってことだ」


「ラノベのアドバイスになんで極真会館がからんでくるんだよ?」


「いいんじゃないか? 文章の上達もスポーツの上達もやり方同じなんだから、応用は効くと思う。えーとそれからだな」


 俺は虎の巻をめくった。


「さっきの、文章の上達に関するアドバイスの補足だ。これはGっていう文庫の、二〇一四年七月九日のツイッターからの引用みたいだな。『文章が書き手の伝えたいことを読み手に伝えるための手段である以上、そこには必ず“伝えたいこと”という目的があるはず。逆に言うと、その目的が曖昧なままでは、書かれた文章が正しいかどうかの判断がつきません。んで作品を書く場合、事実を正確に伝えることはファーストステップに過ぎず、伝えた事実によってさらに伝えたい何かがある、それが伝わって初めて作品の文章として成立する、ということを大切にして欲しいのです。別に名文である必要はありません。きちんと伝えるべきことが伝わればいいんです。その伝えるべきことが何か、を少しだけ考えてみてください。1次を突破できない作品というのは、だいたいその“伝えるべきことが伝えられていない”ことが大変多いのです。考えぬかれた設定も、凝った構成も、すべての要素が、最終的には文章を通じて受け手に伝えられます。明快でわかりやすい文章を書いているのに1次が突破できない、2次止まり、という方は、事実を明快に伝えるその先に文章の目的がある、ということを意識してくださいませ』」


「――長いよそれ。何を言ってるのかわからないし。要するに、どういう意味なんじゃんよ?」


「つまり、状況を描写するのではなく、伝えたいものを表現する。『ただパンツを見せるだけではダメだ。パンツを見られて恥ずかしがってる女の子を書くまでがセットなのだ!』てことだな」


「またスケベ関係かよ」


「べつにスケベじゃなくてもいいけどな。要するにそういうことだ」


 俺は虎の巻を閉じた。


「とりあえず、アドバイスはしたから。あとは家で自主練習。本人の努力次第だな」


「わかりました。がんばります」


 静流が真剣な顔でうなずいた。ライトノベルも、いざ書いてみると意外に難しいと悟ったらしい。


「あの、ちょっといいですか?」


 ここで春奈が質問してきた。


「さっきから見てると、佐田さんって、その虎の巻を見て、それで講義してますよね? で、静流さん、それを聞いて、ノートに書きこんで勉強してるみたいですけど」


「「そうだけど?」」


 たまたま俺と静流の返事がハモった。


「見てて思ったんですけど、だったら、佐田さんの虎の巻を、そのまま静流さんに渡せば、それでいいんじゃないんですか?」


「――あ。そうじゃん。それ読んだらいいんだから、何も佐田が教える必要ないんだよ」


 由紀乃も気がついたみたいな顔で同意した。というか、ぶっちゃけいままで俺も気がつかなかった。そうだよ。これ渡せばよかったんだ。


「佐田、その虎の巻、静流にあげなよ。それで全部解決するから」


「そうだな。じゃ、そういうことで」


 俺は虎の巻を閉じた。で、そのまま由紀乃に渡そうと思って視線を変えて、驚いた。静流が無茶苦茶焦った顔をしていたのである。


「あ、あの、なんていうか、その。それじゃ困るんです」


「なんで?」


「だって、私がここにくる理由がなくなっちゃうって言うか、その」


 静流が妙なことを言ってうつむいてしまった。


「あ、そうだ。それだと、私、ちゃんとライトノベルを書く勉強ができないんです。ほら、学校の授業だって、先生がいるから勉強するんじゃないですか。先生がいなくて自習って言うと、みんなサボっちゃうし」


 あわてたみたいな顔で静流が説明をはじめた。


「それと同じで、私、佐田師匠に教えてもらって、見てもらってないと、だらけちゃうから。その虎の巻は佐田師匠に持っていてほしいんです。それで私のことを見ててくれたら、私、真面目にライトノベルの勉強ができますし」


「――なるほど。そういえば、逃げだそうとする漫画家を担当さんが追いかけまわすってシーンを見たことがあるな。ビシッと見ている人間は必要か」


 俺が感心してうなずいたら、静流も嬉しそうな顔をした。


「でしょう? それに、さっきも言っていたじゃないですか。文章を書いたら、読んでもらって感想を聞いて、いいところと欠点に気づくって。私、佐田師匠に、私の書いた文章を読んでもらわなくちゃいけないし」


「あたしは?」


「あ、もちろん由紀乃先輩にもです」


 あわてて付け足す静流の横顔を見ながら、俺は虎の巻をひっこめた。


「静流がそう言うなら、そういうことで行く。教えられることは、これからも俺が教えるから」


「はい、佐田師匠」


「じゃ、文章を書くためのトレーニング方法とコツは、これで終了。ひきつづき、本題に行こうか」


「はい。サーバナイトのストーリーですね」


 静流の眼が輝いた。


「なんか生き生きしてるな。ま、それもしょうがないか。ストーリーはライトノベルで一番大事な基本だし」


「は?」


 つづいて静流の話を聞こうと思ったら、由紀乃が妙な声をあげた。


「ちょっと待ってよ。それ、おかしくね? 佐田、前に言ってたじゃん。ライトノベルはキャラクター小説だって。それに、キャラクターが一番とかなんとか。だから、ストーリーは二番なんじゃね?」


「あ、そうですね」


 静流もうなずいて俺を見た。なるほど、そういう誤解か。


「ちょっと説明が悪かったか。えーとだな」


 もう一度、俺は虎の巻を開いた。

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