第三章 起承転結の転。主人公とヒロインの間にサブキャラがからむの図。・その6
「これは出版社Fで聞いた話だ。『うちに応募してくる人にも勘違いしてる人がいっぱいいて、変な奴だせばいいんだろうって思ってるみたいなんですけど、小説の基本はストーリーです』。ライトノベルの編集部でも、こういうことを言ってるんだ。小説の基本はストーリーだって考えて間違いない」
「――じゃ、なんでライトノベルはキャラクター小説なんじゃんよ?」
「読者が目当てにしてるのはストーリーじゃなくてキャラクターだからだよ。たとえ話で言うけど、デコレーションケーキってあるよな? あれで一番大事なのはなんだ?」
「ローソクに火を点けて吹いて消すことに決まってるじゃん」
「そりゃデコレーションケーキじゃなくてバースデーケーキだ。ま、ショートケーキでもなんでもいいんだけど。とにかくケーキがあって、一番食べたいのは?」
俺の質問に、三人がちょっと考えた。
「えーと、あたしは、イチゴかな」
「あたしもお姉と同じでイチゴ。あとクリーム」
「私は、チョコレートかもです」
「そうそう、それでいい。その、ケーキのイチゴやクリームやチョコレートが、ライトノベルで言うところのキャラクターにあたるんだ。つまり、消費者が一番欲しているものだな。ただ、ケーキはクリームやイチゴやチョコレートだけでできているわけじゃない。土台にスポンジケーキってのが存在する。デコレーションケーキを食べるときに、スポンジケーキを楽しみにしている人って、あんまりいないと思うけど。これがライトノベルで言うところのストーリーだ。さて、ここで質問。ケーキの形を支えているのはなんだろうな?」
「――あ、そういうことか」
「なるほどです。わかりました」
「というわけで、ストーリーを土台のスポンジケーキに見立てて、魅力的なキャラクターをクリームやイチゴやチョコレートに見立てて、デコレーションケーキをつくるイメージで話を書いていけば、ライトノベルとして成立するはずだ」
「ですね。じゃ、キチンとしたストーリーを考えないと」
静流がうなずいて、あらためて俺を見つめた。
「あの、私が考えているサーバナイトのあらすじなんですけど。あらすじって言うか、本筋って言うのかな。それは、ラスボスと戦って、主人公が勝つ予定なんです。でも、それだけじゃ、内容が薄いって思っちゃって。だから、何かサブストーリーもからめたいって思ったんですけど」
「それがヒロインたちとの恋愛だったんじゃね?」
「それもそうなんですけど、それ以外に。ほら、サーバナイトの設定で、主人公の佐竹鋼哲朗はドラゴンスレイヤーですけど、その前のドラゴンスレイヤーがいるってことになってるじゃないですか。だから、ドラゴンと人間の、両方の血をひくドラゴニアンがいるんだし」
「そうだったな」
「ちょ、ちょっと待ってください。サーバナイトってなんですか?」
春奈が質問してきた。これはもっともな話である。静流が苦笑した。
「あのね春奈ちゃん。サーバナイトって言うのは、私が書こうと思っているライトノベルの設定なのよ。で、そのあらすじを、いま考えてるの」
「ふゥん。それでみんな、夏休みなのに学校に集まってたんだ」
春奈が納得した顔をした。
「で、どういう話なんですか?」
「えーとね。これ見ればわかるから」
静流が春奈にサーバナイトの設定ノートを渡した。春奈が受けとる。
「へェ。これって中二ノート?」
おもしろそうに春奈がページをめくりだした。パラパラっと見て、急に顔をあげる。
「こういうのって、普通、他人に見られるの、恥ずかしいんじゃないんですか? 夜中のアニメでも、こういうの読まれて『やめてくれー』って、のたうち回る奴を見たことあるんですけど」
「あ、その設定、私が書いたんじゃないのよ。静香ちゃんってって言う、べつの人でね。私、その静香ちゃんの考えた設定でライトノベルを書こうと思ってて」
「その、静香ちゃんていう人は?」
「実は、もういなくって」
「そうなんだ」
あくまでも静香ちゃんが書いた中二ノートってことで押し通すらしい。ま、そういうことにしておけば、いくら朗読されても恥ずかしくないからな。
「それで、サブストーリーなんですけど」
中二ノートをパラパラやってる春奈から視線をそらし、静流がこっちをむいた。
「サーバナイトの設定で、前のドラゴンスレイヤーの子孫がいるってことにしたいんです。で、ドラゴンスレイヤーズソードって言う、選ばれた剣があって、それを守ってるんですけど。そのキャラが『ちょっと待ってくれ。ドラゴンスレイヤーを受け継ぐのは自分なんだ。そんな、べつの世界からきた人間なんか、認めるわけにはいかない』て言って、主人公の佐竹鋼哲朗に突っかかっていくんです。こういうの、どうでしょうか?」
「いいんじゃん?」
俺じゃなくて由紀乃が返事をした。
「ドラゴンスレイヤーズソードって、なんか、聖剣エクスカリバーみたいで格好いいし。ほら、そういうの握って、光り輝いたら、剣がそいつを主と認めたとか、そういうエピソードあるじゃん」
「あ、そういう設定あります。ドラゴンスレイヤーズソードは、選ばれた人間しか使うことができないってことになってますから」
「そういうのは俺もいいと思う。お約束だけど、いい展開だ」
由紀乃にうなずいて、俺は静流を見た。
「で、そのキャラクターの特徴は? もう決まってるか?」
「やっぱり、女の子にしようかなって思ってます。ほら、主人公以外は女子にするのが基本だって佐田師匠も言ってたし。あと、ドラゴニアンのマリアと同じ、サーバナイトの学園で、すごく高い地位にいるお嬢様って感じにしたいです。ほら、英雄ドラゴンスレイヤーの子孫だから」
「なるほど。悪くないと思う」
サーバナイトの設定から考えて、ドラゴンスレイヤーの跡継ぎ争いってのはいけそうである。俺は虎の巻を開いた。




