終わりで、始まり
世界に色が付いていく。周りの風景が元に戻っていた。僕の前には、半分に割れた、小さな石。
やがてそこから光が溢れ、登っていく。石は僕の胸へ吸い込まれていった。
「アルメリア・・・。」
登った光を胸に抱き、アルメリアが降りてくる。
真っ白な髪が広がり、体がほんのりと光っている。今までで一番神秘的な彼女。
「・・・ありがとう。レン。」
「ううん。僕の方こそ・・・。君が、僕を生んでくれたんだよね・・・?」
「連太郎の記憶から、連太郎が変わってしまう前のものを読み取って、その石に。」
「もともと一つだった核を、二つに、割った。」
「そう。一つはこの迷宮に落ち、もう一つは、ペールの迷宮に。迷宮が、魔力を分け与え、それぞれの肉体を形作った。」
「僕らが死なないのは、何故?」
漂流者と言えど、不死身ではない筈だ。
「片方が傷ついても、もう片方が残っていれば、そこから修復される。二人が互いの存在を感じ合っていたのも、それだ。」
「じゃあ、もう・・・。」
「あぁ。そうだ。おぬしはもう、不死身ではない。」
「そもそも、僕は・・・生きてられるの?」
造られた存在であるのなら、人の生き死にとは違う運命を辿る事になる。
「それは問題ない。ただ、人より長く生きるかもしれん。もしかしたら、随分と。」
「そっか・・・。その方がありがたいね。」
もっとたくさんの人を幸せに出来る。
「もし、生きるのに疲れたのなら、わしの所へ来れば良い。」
「・・・そうだね、いつか、お世話になるかもしれない。だけど・・・しばらく先になるかな。」
「そうか・・・。レン・・・。本当に、すまなかった・・・。おぬしの運命を、・・・弄んだ。」
「そうかもしれないね。・・・だけど、僕は感謝しているよ。だって、生まれてくる事が出来なくちゃあ、幸せになろうとも出来ないんだから。」
「・・・おぬしは・・・、本当に・・・。」
「ありがとう。アルメリア。」
「・・・こちらこそ、ありがとう、・・・レン。」
互いに見つめ合う。僕を生んでくれた、女神さま。
最後に彼女は、飛び切りの笑顔を見せてくれた。
いつも悲しい顔をしていた彼女の、本当の、本当の、笑顔。
「そろそろ、わしは行く。連太郎の魂を、元の世界へ。」
「そっか。・・・うん。じゃあ、またね。」
「あぁ・・・また。」
そう言って、少し眩しい光に包まれた後。彼女達は消えて行った。
「僕も・・・。」
頑張らないと。
「レン君っ」「レンっ」
二人の声が聞こえる。僕の大切な人達。
振り向いたその先には、僕を見つめる二人の顔が。
「大丈夫?さっきの人誰だったの?なんかすごい存在感あったけど・・・。」
アルミナが訊いてくるので、ありのままを答える。
「えっと・・・、僕の、女神さま、かな。」
「は?」
ソフィアが呆けたようにこちらを見る。しまった、かなり際どい言葉だった・・・。
「えぇ・・・。」
アルミナも僕の言い方に、少し引いている。
「あっ、いや、えっと・・・。そういう意味じゃなくて・・・。」
「何?またあなたの大切な人なの?」
「え?ねぇソフィア、「また」って何?レン君の大切な人?」
「あー、えっとね・・・。レン、言っていい?」
「ちょっ、待った待ったっ!」
「どうしてよ、いいじゃない、もう。別に悪い事じゃないんだから・・・。」
「レン君の大切な人ってっ?ソフィアじゃなくてっ?」
「いや、そうじゃなくてさ・・・。」
僕は二人を見つめる。
僕の手を握ってくれた子。僕の居場所を作ってくれて、優しさを、教えてくれた子。
僕の手を引いてくれた子。僕は僕であると言ってくれて、強さを、教えてくれた子。
彼は、何某かを口にし、二人の少女は顔を赤らめる。
それから彼らは、共に歩き出した。
これは、彼の成長の、物語。
自分が何者か悩み、強さとは何なのか、優しさとはなんなのか、迷い、苦しむ。
そんな少年が、人と出会い、運命と闘い、大きく成長する物語。
そして全てが終わり、これから始まるのは、彼自身の、物語。
人々を幸せにするために、かつていた犯罪者の名を名乗り、それでも、人々から感謝される。
そんな英雄の、物語。
それは、迷宮から生まれた、英雄の物語。
完




