混じりて・交差
僕とクロエ。
二人以外に何も存在せず。真っ白な世界で、対峙している。
ナイフ以外には何も持たない。ただ、剣戟のみが続いている。
そんな二人を、僕らは見ていた。
クロエ・・・、君は、どうしてそんなに怒っているんだ?
・・・気にくわねぇからだ。
・・・何が?
何もかもが。・・・いや、違う。本当に気に食わないのは、・・・俺自身。
どうして?
俺が、弱いからだ。悲しい出来事があって、心を保てなくて。
・・・。
何もかもを投げ出して、逃げ出した。
・・・。
逃げ出した先で待っていたのは・・・、何も無い、空っぽの世界だった。
・・・。
ただ、時間だけを浪費して、何も為さずに・・・。全てを、諦めていた。・・・人の想いも、願いも、全部無視して、塞ぎ込んで。
・・・それで?
・・・それで、いつの間にか、ここに居た。
・・・アルメリアに連れて来られた?
知らねぇ。多分、そうだ。
彼女は、君を見ていたんだ。ずっと・・・。だから・・・。
・・・。けど、結局、・・・何も変わらなかった。強くなれなかった。そして・・・。
たくさん、罪を犯した。
記憶を失っていた、なんて、理由にもならねぇ。きっと、記憶があっても、それは変わらなかったと、思う。・・・ただ、自分の弱さを隠す為に、人を傷つけた、悲しませた、命を・・・奪った。
それは、いけない事だ。間違った事だ。
・・・そうだ。俺は、間違えた。取り返しの付かないことを、した。
・・・後悔を、している?
している。・・・今更悔やむ事さえ許されない程の事を、・・・俺は、やった。
だから、僕に殺されたかった。
お前なら、俺を殺せると、思った。アルメリアも、それを望んだはずだ・・・。
それは、違う。
違わないさ・・・。お前は、俺なんだろう?しかも、きっと、お前は、強い。強く、なれた。
僕は、君じゃない。きっと、君の記憶から作られた、ただの人形だ。
でも、強くなった。人を助けられるように、なった。・・・だから、俺の代わりにと・・・。
違う!そうじゃないっ。
・・・なにが、ちがうんだ・・・。
君の代わりなんて居ない。君は君で、僕は僕だ。誰かの代わりなんて、誰も、なれない。
・・・でも、俺は、もう・・・。
・・・。もう、嫌?
俺は、間違えた・・・。だから、もう、戻れない・・・。
でも、戻りたくないわけじゃない。
・・・けど、もう、どうしようも無い。
後悔、しているんだよね?
している。・・・後悔、し・・・てるっ。
眼下での闘いは、いつの間にか止んでいる。片方はこちらを見上げていて、片方は顔を塞いで泣いていた。
後悔、して・・・る、んだっ・・・。俺の、大切な、人は、・・・こんな、俺を、望んでは、いな・・・かったっ。
君の大切な人が、望んだ君は・・・?
ひと、を・・・幸せに、で、きる・・・って・・・。そし、て・・・これからも、幸せで、居てね、って!
・・・。
だから・・・、「頑張って」、て、言って、くれたんだ・・・。
もう、頑張りたく、ない・・・?
まだ、頑張って・・・ないっ・・・。頑張ってすら・・・いなかったんだっ・・・。
クロエは、うずくまって、泣いていた。
そんな彼を見下ろして、僕は、言う。
「なら、・・・頑張ろうよ。」
クロエが顔を伏せたまま、悲痛に叫ぶ。
「もうっ、出来ないっ、俺はっ、たくさんの人を、不幸にしたんだ!」
犯罪者として、いや、それ以前にも、人を傷つけていたのかもしれない。それは、いけない事だと思う。だけど・・・。
間違えたからと言って、そこで諦めて、何もしないのは、もっといけない事だ。
「なら、もっとたくさんの人を、幸せにすればいい。」
クロエが顔を上げる。涙と洟でぐちゃぐちゃな顔を、上げる。
人を傷つけた事が、無かったことになる訳ではない。だけど・・・。
「ここで何もしないで、ただ、消えていくなんて事、僕が、許さないっ。」
消えて、楽になるなんて、ダメだ。
「苦しめた人の分だけ、きっと、苦しむだろうけど。だけどっ。」
前を向けるようになるまで、這いつくばってでも。
「それ以上の人をっ、たくさんの人をっ、幸せに、するんだっ!」
進んで行くんだ。
「・・・でも、そんなの・・・。」
「出来る。僕なら出来る。君なら出来る。」
「・・・。」
「僕は、君から生まれたんだ。・・・その僕が、出来ると思うのだから、絶対に、出来る。」
「出来る・・・のかな?」
「出来るよ。きっと。いや、絶対に。」
「やっていいの、かな?」
「ダメな訳が無い。後悔してるって言った、君なら・・・、やっていい。」
クロエの表情は、変わらず泣き顔だ。だが、その眼は、前を見ている、見ようとしている。
「この世界で、君のやったことは、僕が、」
償う。購う。不幸にした人よりも、もっと、ずっと、多くの人を、幸せにしてみせる。
「君の世界で、君が大切に想う人の世界で、君は、君のやる事を、やるんだっ!連太郎っ!」
君が居なければ、僕だって存在していなかった。だから、君の罪は、僕が、清算する。君が生まれてきて、良かった、と、皆が思えるくらいに。
僕が、
「・・・やってやる・・・、やってやるさ・・・。きっと。いや、絶対に。」
連太郎が立ち上がる。僕を見る。
「俺は、間違えた。悪い事をした。人を悲しませた。・・・だから。」
僕のナイフを持つ手をとって、連太郎は自身に向ける。
「絶対に、もう、後ろは見ない、下は向かない。」
覚悟を決めた顔をして。
「・・・ありがとう。・・・ごめん。」
「うん。大丈夫。・・・僕の方こそ、ありがとう。」
連太郎の胸に、ナイフを、突き立てた。
きっと、彼は、連太郎は、もう迷わないだろう、間違えないだろう。
だから、きっと、僕も。
再び世界は光に包まれる。だが、その光は、とても、とても、暖かいものだった。




