掃討作戦 11
僕はアルミナの下を離れて再び姫様の所に戻っていた。
アルミナには僕の部屋で大人しく待っているようにお願いしている。
「戻ったわね、レン。」
「はい、姫様。」
「アルミナって子、あなたの恋人なの?」
「えっ?え、・・・と・・・。」
思わずソフィアの方を見てしまってから、姫様の前で迂闊だったと後悔する。
「ふ~ん・・・あなたって、もしかして悪い男なのかしら?」
姫様にすごく白い目で見られる。傍から見れば・・・いや、事実そうなのかもしれない・・・。
「姫様っ、レンは悪い男などではありません!むしろ良い男ですっ。」
とソフィアがフォローしてくれる。
「ソフィア、あなた・・・本当に悪い男にも騙されるタイプかもしれないわね・・・。」
「おっ?レン~、女心を弄ぶ悪い遊びを覚えちまったのか?俺にもその手練手管を教えてくれよ~。」
「違いますっ。僕は誰も弄んだりしませんっ!」
なんだかんだと騒ぎながらも、刻々と時限が近づくにつれて皆の間には引き締まった空気が流れ出す。
「そろそろでしょうかね。」
クアットさんも真面目な顔だ。
「えぇ。作戦の遂行完了の知らせが届いてから、行軍の速度を考えると、もうすぐだと思うわ。宰相を呼んで、謁見の間で待っていましょう。」
謁見の間は国王との面会の間だ。かなりの広さがあり、立ち回るのに苦労はしない。
面会とは言っても今回、国王を呼ぶ事は出来ない。ロスアレスさんの立場を悪くしない為に動くのだから、当たり前だ。この辺りは姫様の根回しが済んでいる。
「レン。気ぃ引き締めろよ。」
「気を付けてね、レン。無理だと思ったら助けに行くからね?」
クアットさんとソフィア、双方から声を掛けられて、改めて覚悟を決める。
(ロスアレスさん・・・。)
謁見の間に着き、しばらくした頃に宰相が姿を現す。
「おやおや、みなさんお揃いで。」
その眼鏡の男の顔を見た途端、僕の内にどす黒い情動が溢れ出す。
実際に僕を処刑させたのが、この男なのだ。ロスアレスさんでは無く、僕がこの男を殺せば万事解決なのでは、と思う。
「レン。」
ソフィアが僕の手を取る。彼女と視線を合わす事で、なんとか冷静に戻った。
「ソフィア・・・ごめん、ありがとう。」
「気にしないで。私はあなたの味方だから。」
僕の弱さを受け入れてくれる彼女。ますます、彼女と一緒に居る、という約束を違えることが出来なくなっていく。
一度大きく息を吐き、余計な考えを頭から追いやった。今は、ロスアレスさんを止める事だけを考える。
もちろん広間には他の兵士もいるのだ、まず一太刀二太刀を止める事ができれば、あとはなんとかなるだろうと思う。
そこで伝令が親衛隊の到着を告げに謁見の間へ入ってきた。
「ただいま親衛隊が帰還致しました。しばらくすればロスアレス隊長以下数名がこちらへ向かう手筈となって・・・」
扉がまた開かれ、伝令の言葉は途中で途切れる。
後から入ってきたのはロスアレスさんだった。
場を改めるように、誰かを探すように、一度、端から端へ視線を動かした。
そして、狙いを定めて宰相を見る。
その手には抜き身の剣が握られている。宰相は顔を青くして言葉を発する。
「ロスアレスっ!この謁見の間にて、剣を抜いているとはどういうことだ!」
威勢のいい口調とは裏腹に、宰相は後ろに下がろうとする。ロスアレスさんの狙いが自分だという事を、理解しているのだろう。
「宰相、ギム・ハレット。・・・姫様に仇なす貴様を、殺す。」
多くは語らず、誰もが状況を飲み込めないままに彼は疾走する。
他の誰もが動かない、又は動けない中、ある程度覚悟をしていた僕はなんとか反応した。
一足飛びにロスアレスさんと宰相の間に飛び込もうとするも、親衛隊隊長の速さには追いつけない。
「ロスアレスさんっ!姫様がっ!」
彼の剣が縦に一閃される瞬間、姫様の名前を出す。一瞬気をやったロスアレスさん。同時に宰相がロスアレスさんの剣幕に腰を抜かして尻餅をついた。
ロスアレスさんの剣は空を切る。そして彼は僕の方を見て、その後姫様を確認した。
時間にして2秒もない動き、だが、間に入るには十分だった。
その行動に気付いた彼が、僕を睨んでいる。言葉はなく、その剣が横に薙がれる。
ソフィアから借りていた軍用の剣でなんとか防ぐも、僕の体が傾ぐ程の剣戟だ。歯を食いしばって耐えるが、彼は既に次の動作に入っていた。
「どけっ!レンっ!」
彼の蹴りが僕の腹に突き刺さり、内臓が圧迫されて口からは呻き声が漏れた。
そのまま宰相の横へと転がされる。ロスアレスさんは一歩詰め寄り、再び宰相目がけて剣を振り上げる。
下ろされた剣を横から防ぐ事が出来たのは僥倖だろう。だが、体勢が悪く肩で刃の腹を支えている状態だ。長くは保たない。
「・・・ぐぅっ・・・ソフィアっ!」
彼女が後ろから駆けてくるのが見えていた。そのままロスアレスさんを抑え込むつもりだろう、その後ろには他の兵士も三人、連いてきている。
「じゃまをっ・・・するなぁっ!」
ロスアレスさんが放つ裂ぱくの気合には魔力が込められていた。彼を中心に放射状に衝撃波が生まれ、近くに居たソフィア達は吹き飛ばされる。僕はロスアレスさんの剣の重さもあって何とか耐えることは出来た。
(そんな無茶苦茶なっ)
彼の顔は最早修羅と化している。僕を見ているようで、その実宰相を殺す事に全霊を注いでいるのだろう。
「レン・・・。悪いが、お前ごと、・・・斬る。」
遂には僕の持つ剣が悲鳴を上げる。その上魔力を纏ったロスアレスさんの剣が発光し始めていた。
(っ・・・斬られる・・!)
覚悟を決める。斬られる覚悟を決める。彼は容赦しないだろう。僕が死なないだろうことも踏まえ、それが無くとも、斬ろうとしている。
「なら・・・、やってみろぉっ!」
彼の剣は無情にも僕の剣を折り、そのまま袈裟掛けに僕は斬られた。
しかし・・・。
既に斬られる痛みには慣れている。いや、痛いものは痛い。だが、数秒だけ、自分を失う事がないように保つ事が出来た。
負けじと僕も声と共に気合を放つ。魔力は乗らないものの、予想外の行動に一瞬だけロスアレスさんの動きが止まった。
僕の傷を治そうと集まる魔力を無理やり右手に向かわせる。それを纏わせるイメージをし、果たしてそれは成功した。
僕の文字通り全身全霊を込めた一撃は、ロスアレスさんの頬に直撃した。




