掃討作戦 6
僕は外に出る。澄み切った空。
街灯石の光も消えて、僕を照らすのは満点の星と丸い月のみだ。それでも先は良く見えている。
「覚悟が決まった、という顔をしておる。いつかとは大違いだが、何かあったのか?」
「別に、これと言って劇的な出来事があった訳じゃあないよ。・・・ただ、自分が守りたいものと自分を支えてくれてるもの。この二つをはっきりと感じられるようになったんだ。」
迷いが無いと言えば嘘になる。だけど、覚悟をすると決めた。僕の事を大切に想ってくれる人の為に闘うと決めた。なら、悩んでてもいいから、前に進まなくちゃいけない。
「それだけだよ。」
「そうか・・・。クロエを、殺すか?」
「それを僕に言った君がそんな事を訊くなんて。」
「・・・いや、忘れてくれ。迷う事を言ってすまない。」
「別にいいよ。僕はいつも迷っている。悩んでいない時の方が少ないからね。」
「すまない・・・。」
「謝らないでよ。僕は大丈夫だから。」
彼女は何度も何度も僕に謝っている。まるで僕に降りかかる不幸が全て自分の責任であるかのように言うのだ。
「ただ・・・。君は、本当にクロエを殺してほしいの?」
「っ・・・それは・・・。」
彼女はクロエを殺せと言った。だけど、彼女がそういう時、決まって悲しそうな顔をしている。
「僕は・・・クロエを殺したくない。」
きっと、人を殺さなければいけない時だってあるかもしれない。だけれど、それが本当に正しいのかなんて、誰にもわからないのだ。
王城の敷地から抜け、近くの公園に出る。
揺れる木々の葉が擦れる音に乗せて、彼の声が聞こえる。
「俺を殺す、だって?生意気な事言うじゃねーか。」
二度目の邂逅。僕と同じ顔をした、別の人間。同じ存在。
「違うよ。殺したくない、って言ったんだ。」
「へっ、それじゃあ俺の事は簡単に殺せるって風に聞こえるなあ。」
「どうかな。数日だけだけど、結構真面目に鍛えたんだよ。」
「あの時ロスアレスが居なきゃ殺されてた雑魚が、良く言うぜ。」
やってみるか?と彼は背負った剣に手を掛ける。
「こんな所で騒ぎを起こしたら、まずいんじゃないのか?」
「やる事は終わったからな。あとはトンズラするだけだ。お前を一斬りしてから鼻歌歌いながら帰ってやるぜ。」
「残念だけど、僕は斬られたくらいじゃ死なないよ。君と一緒で。」
「ちっ。お前、一体なんなんだ?そこの餓鬼もだ。俺になんの関係がある?」
変わらず沈黙を貫くアルメリア。
「相変わらず都合の悪い事はだんまりかよ。胸糞わりい。」
「君は、悪い事をして、楽しいのか?」
「なんだ?しょうもねえ説教をしようってんのか?同じ顔だからって俺に自分でも重ねてんのかよ気持ちわりい。」
彼は心底嫌そうな顔をして、尚も続ける。
「別に俺は、悪い事がしたいわけじゃねぇ、ただ、やりたいことが悪い事だって言われてるだけだ。」
「やりたいことって?」
「そりゃ決まってる。人を困らせる、人を傷つける、人を泣かせる、だ。最後には殺すのも良いなぁ。」
酷く残虐な顔をして、そう言う。
「なんでそんな事をしたいんだ?」
「楽しいからに決まってんだろ?」
「違うっ!」
声を上げたのはアルメリアだ。彼女は僕が今まで見た中で一番悲しそうな顔をしている。
「おぬしはっ・・・おぬしは、そんな事をする人間では無いっ!そんな事が楽しい人間ではっ、無いっ!」
「お前に俺の何がわかるってんだ?俺の心の内なんざわからねぇだろ?」
「なぜ・・・何故だ?何故そんな事をするのだ?本当は、本当はっ、そんな事、したくは無いだろうっ?」
「うるせぇっ!俺は・・・っ。・・・俺が、することに、口出しすんじゃねえっ、お前に俺の何が分かるってんだっ!」
「わかるさっ。ずっと、おぬしを、連太郎をっ、見てきたのだからっ!」
「れん・・・たろう・・・じゃねぇ・・・俺はっ・・・連太郎じゃ、ねぇっ」
何かに耐えるようにクロエは歯を食いしばって再び剣に手を掛ける。それはそのまま抜き放たれた。
クロエが彼女に斬りかかる。
「アルメリアっ!」
とっさに僕は彼女を助けようとクロエの前に出た。
庇った僕の背中にクロエの剣が走る。斜めに真っ直ぐ切り裂かれたのがわかった。痛みに思わず叫ぶが、そのままアルメリアをクロエから離す。
「あるめりあ・・・?そうか、お前の名前・・・アルメリアだったな、クソ餓鬼・・・。忘れてたぜ・・・。」
アルメリアは尚もクロエを真っ直ぐ見つめている。
「なるほどな・・・。お前が変な力を持っているのは、そういう事って訳だ。」
クロエは一人で納得している。そして、急に頭を押さえだした。
「じゃあ、俺は?・・・一体、何者なんだ・・・?なぜ、ここにいるんだ・・・?」
「おぬしは、連太郎、だ。」
「・・・がぅ・・・ちがうっ、・・・わけわかんねぇ・・・わけわかんねぇよっ!」
そう言ってクロエは闇の中へと走り出す。そこまで見届けた後、僕は気を失った。




