掃討作戦
翌日の夕方、僕はソフィアと共に練兵場に居た。親衛隊に召集がかけられた為だ。
ロスアレスさんが前に立ち、今回僕たちを集めた要旨を話す。
「今度の作戦だが、予定を大幅に変更する。」そう口火を切った彼は続ける。
「今までの作戦は王都に敵が侵入する事を前提とした作戦であり、犠牲者も止む無しと考えていた。だが、先日「ミシアンの遣い」の捜索に出ていた部隊が奴らの潜伏場所を掴んだ。」
僕が感じた方角を基に、予想される潜伏場所を調査しに行ったとのことだ。
「つまり、手がかりが増え、強行手段に踏み切ることが可能になったのだ。」
敵の潜伏場所。内通者の正体。この二つが揃えば無理に式典での迎撃を行う必要は無い。そして、片方は分かった。あとは・・・。
「誰が、姫様を害するものか。」それが判明すれば。
「私がその者を、殺す。」
ロスアレスさんはそう言った。親衛隊の面々からは動揺の声。
「しかしそれは・・・。」親衛隊の一人が言う。
内通者は王都の権力者争いに加担しているのだ、その者の地位が高くない筈はない。けれど僕たちが分かったところで、それを王に証明出来なければその者を排除することは難しい。私がやりました、そう言わせる事は不可能に近く、更に確からしい証拠、それを皆に信じさせる方法、これらを揃えるのにもまた、時間がかかってしまう。姫様の命が脅かされている、ならばそれ以外の事を思慮している暇はない。
ロスアレスさんは信じている。姫様が絶対の「優しさ」であると。だからこそこの国を守っていけるのだと。
ならば「力」である彼が取る方法は一つ。
内通者を殺す。例え、自身が犯罪者として処刑されてしまうことになったとしても。姫様を害する者を、殺す。
そういうことだ。
「ロスアレスさん・・・」僕は呟く。彼が気づくも、微笑みかけてくるのみだ。
「君を処刑させることを黙認した私だ。その方法を取らないならば、私は自身を許せないだろう。」
「でも、姫様は・・・。」きっと彼に全幅の信頼を置いているだろう彼女の事を。
「「力」を持つ者はまだまだ居る。私の代わりは居るのだ、ソフィアのようにな。だが、「優しさ」を持つ者は少ない。更にそれが王族ともなれば。」
この国の未来の為に、私は礎となろう。そう、彼は言った。
ロスアレスさんは親衛隊の面々と作戦会議を始める。
僕はそれには参加せず、少し離れた場所でまた、呟く。
「でも、そんなの・・・。」
「何を考えているの?」
ソフィアが戻ってきて僕の顔を覗き込む。「教えて欲しいな。」
昨日、彼女とは、とりあえずしばらくは一緒に居ることを約束した。彼女からは強さを、彼女へは強さを、互いに教え合えるように。けれど僕は、未だに自信がないから、彼女に偉そうなことは言えない。
「まだ、考えがまとまらないや・・・。」そう場を濁す。
「そう。一人で悩まないでね。私が側に居るから。」寄り掛かっていいよ、と。彼女はそんな事を言ってくれる。「あなたが強くなるまで、私が面倒を見てあげるんだから。」
彼女の飾らない言葉は心に真っ直ぐ突き進んできて、僕を勇気づけてくれる。
「ありがとう。ソフィア。」僕はそんな彼女の求めに応えてあげられるのだろうか。
迎撃作戦は侵攻作戦に形を変えた。「ミシアンの遣い」の潜伏場所へは式典の前日に出征することとなる。奴らが立て直す時間を与えない為だ。当日の警護に親衛隊は力になれなくなるかもしれないが、その時には襲撃される可能性は低くなるから構わない。
前日の侵攻に、彼らは全てを掛ける。
「君達は留守番だ。」
ロスアレスさんは最後に僕たちに言った。
「私もですかっ?」ソフィアが食い掛かる。
「そうだ。私がいない間だれが姫様を守るというのだ。レンを捕まえに行った時もそうだっただろう?」
「・・・わかりました。まあレンと一緒ならいいです。」不服そうだがなんとか納得したようだ。
「レンは何か文句はあるか?」
「文句だなんて・・・。」そこまで言って思い直す。「いえ、あります。」彼の目を見つめる。
「・・・少し場所を変えようか。」
庭へ出る。僕とロスアレスさんの二人きりだ。
「納得行かない。そういう顔をしているな。気に入らないか?」この人もソフィアと同じく物事を言うべき時は言う人だ。そんな彼に対して僕も言葉を濁すことはしたくない。
「はい。何故あなたが・・・犠牲にならなければならないんですか?」
ハハ、と彼は笑う。
「何も私が処刑されると決まった訳ではないだろう?侵攻作戦で良い証拠を掴めるかもしれないしな。」
「でもっ!」
「・・・そうだな、隠し事はやめよう。私は、宰相のハレットを、殺すつもりだ。」
「やっぱり、あの人が・・・?」僕を処刑した、眼鏡の男。宰相ギム・ハレット。
「本当はわかっていたのだ。奴しかいないと。だが、証拠がなければ私たちは何をすることも出来ない。・・・奴はそれをわかっているからこそ、尻尾だけは出さないように立ち回っていた。だから、奴が居る限り・・・。」
姫様は命を狙われ続ける。
「けど、あなたが居なくなった後は?姫様の事を、人に任せていいんですかっ?」
「良くはない。だが、信頼できる者も多いからな。姫様の優しさは、人を惹きつける事が出来る。私にとって姫様は絶対に必要だが、逆はその限りではない。」
けど、悲しんでは欲しいかな、と。彼は自嘲気味の顔で言った。
彼は止まらないだろう。その志は硬く、迷いは見当たらない。
僕に、彼を止められる訳は無い。止めていい理由も無い。わかってはいた。だけど。
気付いていないのだろうか。彼は、彼自身も、姫様と同じように、優しさを持っていることを。
自分がただの「力」であるのみでは、無い事を。
僕が彼に初めて会ったときから、彼は優しかった。確かに非情な態度の時もあった。だが、彼は優しさも、確かに持っていると思う。
けど、僕は彼を止める為の言葉も持っていない。
僕は、弱いから。
去っていく彼の背を、僕は黙って見ていることしか、出来なかった。




