面白くない冗談だ
歯ぎしりしながら矛で貫かれた俺は声を絞り出す。
「これは何の冗談だ?」
「本当に冗談でしたら良かったのですがねぇ」
殺意のかけらもない人の好さそうな爺さん牧師は悲しそうに首を振る。
「伯爵級の悪魔も防ぐ結界にいかなる魔をも貫く光の矛です」
「魔をも貫く、ねぇ」
何の抵抗もなく俺を貫いた矛はちょいと引っ張るとそのままするりと反対側から抜け落ちた。
落ちた瞬間に矛も後ろの天使も消えている。
俺は引きつりながらもう一度ていねいに尋ね直した。
「冗談ですよね?」
牧師はがっくりと肩を落として答える。
「必殺のはずなんですが。先ほどみたいに完全に貫けたら魔王だってただじゃすまないはずなのですよ。もっとも魔王には突き刺さったりしないかとも予想できますが。もしかしてトムさんって男爵に偽装した魔王なんですか?」
「う~ん、違うと思います」
明らかに年上に見える牧師が丁寧な言葉遣いをしてくれるのに、俺だっていつまでもふざけた言葉遣いは使ってられない、しかし実際は若く見えるが俺の方が年上でって、どうでもいいことだけどな。
「俺がいた地獄にはもっと強いやつらがいっぱいいましたから。俺は王を名乗るほどじゃないですよ」
「幸いにして魔王など伝説上の者なのですがそれにしても私の渾身の攻撃をあのようになかったことにされては自信を無くしてしまいます」
「そちらの自信のために俺がほんとに死んだらどうしてくれるんです」
「お祈りするのは仕事ですので」
「笑えない冗談ですねぇ」
「いやまったく」
「冗談ついでに俺の方からも少し試したいことがありまして」
「いえそれには及びません、いてっ! それには及ばないと言ってるだろうが、この若造めがぁ」
「地が出てますよ」
「これは失礼」
俺は爺さん牧師の額を指でパチンと、軽くデコピンしただけだ。
うん、俺の攻撃は通るようだ。




