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推して参る!!  作者: 小池
学徒編
24/37

愚者一得

 今回の事件は妙なことばかりだった。

 組織的な犯行かと思いきや、連携は上手くいってなかったようだし、計画はずさんだったし。クルティナをそそのかしたヤツの正体もはっきりしないままだ。誰かに利用されたのはわかったけど、肝心の目的がまったく見えてこない。

 首謀者は誰だ? 本当の目的は?

 厳粛に卒業式が進む中、俺の意識はあの事件のことでいっぱいになった。俺たちの足止め役だった五人は、校長先生が引き取っていった。そしてなぜかゼファイル先生が急に退職してしまった。彼女も事件に関わっていたのか?

 全容を知っていそうな学長は沈黙を保ったまま。俺は心の奥に燻ぶる疑問と、猜疑心をほどけないでいた。


「――――以上を持ちまして、卒業記念式典を終了いたします」


 ぼうっとしてたら、いつの間にか式が終わっていた。

 壇上で何か話していた学長の声や、シュナイゼルの兄貴の答辞も、すべて右から左に流れて記憶に残っていない。こういう堅い行事は眠気と戦うのが常だから、別にいいか。固くなった首の筋肉をほぐした。コキッコキッと音がする。

 退場する卒業生の中に、リグブランド兄がいた。主席というだけあって、風格とか、自信とか、そんな感じのものが漲っていた。彼が揉めている所に遭遇したときは鼻持ちならない傲慢知己かと思ったけど、こうして見ると随分と印象が違う。こう、抜身の刀というか、触れたら火傷するぜってカンジ? ちょっと危なっかしい。

 リグブランド兄がこっちを見た。あ、俺の視線に気づいたかな? 一瞬だけ目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった。つまらん。ガン付け合戦になるかと思ったのに。


「リューマ? どうした、他の生徒は移動しはじめたぞ」


「んあ? ああ、そうか。行くよ」


「学長に呼び出されてるんだろ? 急がなくていいのか」


「それ、お前もじゃね?」


 俺はしぶしぶ立ち上がった。本当は学長の呼び出しなんか無視したいんだけど。嫌な予感しかしないんだけど。

 結局、あの魔族騒動で学力試験は延期された。どさくさに紛れて一般試験の方に混ざれないかと画策したが、学長によって超級試験に強制送還されたんだ。おのれ、狸め。

 今日の呼び出しも、きっと俺たちの進級についての話だろう。直接呼出しがあるくらいだから、もしかすると、マジで六回生の教室に放り込まれるかもしれん。

 初めて呼び出されたときの緊張はどこへやら、俺は気負いもなく部屋のドアを開けた。


「失礼しまーす」


 予想通り、学長は高そうなソファアで寛いでいる。その向かい側には予想外の人物が座っていた。なんでお前がここにいる。


「よく来たね。好きなところに掛けてくれ」


「好きなって……」


 俺の視線の先には、仏頂面で足を組んでいる男。リグブランドの兄方だ。ついさっき目が合ったな。やつの隣しか空いてねえじゃん。イオニスが先に座れよ。

 俺が促すと、イオニスがそう? と言ってソファアに腰掛ける。リグブランドの反対側に。

 ……っておい! そこは奥に詰めろよ。最後に座る俺が真ん中って、どゆこと!?

 三人の眼がはやく座れよと無言で促すので、俺はしぶしぶ学長の真ん前に陣取った。リグブランドは相変わらずそっぽを向いている。落ち着かねえ……。沈黙が気まずすぎて、俺は口を開いた。


「学長、話って何ですか? それに……」


 ちらっと、隣を見た。何でコイツもいるの? と、学長に視線で問いかける。学長は面白そうに笑うだけで答えてくれない。


「君たちって、初対面かな?」


「いえ、一度だけ話したことがありますけど……ほぼ初対面です。はい」


 リグブランドは無愛想だった。視線は窓の外に向いたまま、こっちをちらりとも見ない。何か言えよ、コラ。


「そうかい。じゃあニコルビット君、君から自己紹介しなさい」


 嫌そうな顔をしたリグブランドは、ひとつ大きなため息を吐いた。


「……親衛隊直下、アンバー隊所属のニコルビット・ラッシャーだ」


 親衛隊って、アイドルのアレ?


「親衛隊って、国王直属の精鋭部隊だって聞いたけど、……彼が?」


 あ、やっぱり違うよね。真面目な組織だよね。ちょっと勘違いしそうになった。

 イオニスは知っていたのか。さすが、本の虫なだけはある。今度、賞金付の知恵比べ大会にでも出てみればいいのに。


「ニコルビット君はね、私の後輩の部下なんだ。今回、その伝手を辿ってこの学校に来てもらっていたんだ」


「へえ、その年で騎士になったのか。すげえな。俺、リューマ・イレイディター。よろしく……ええっと、ラッシャー? リグブランドじゃなかったっけ?」


「リグブランドの名は、任務のために借りていた。本名はラッシャーだ」


「そ、そうなのか」


 大変だなと呟くと、そうでもないと返事があった。意外に取っ付きにくくはない、のかな? 相変わらずこっちを見ないが、話は聞いているようなので気にしないことにしよう。


「それじゃ、本題に入ろうか」


 学長が話を切り出す。俺とイオニスは姿勢を正すが、ラッシャーは素知らぬ顔だ。良いのか、その態度。上司の先輩なんだろうに。


「まずは、君たちも気になっている先日の魔族召喚事件についてだ。……リヴォラティオ委員会って知ってる?」


「いいえ」


「聞いたことありません」


「リヴォラティオ委員会は反体制テロリスト集団のひとつで、人間主義の懐古派が理念なんだ。困ったことに、彼らの言う人間には『魔術師と戦士』は含まれていない。人ならざる力を持った者は、魔族の血を引いているって考えで、ね」


「ああ、あー。……そういえば、あの子がそんなカンジのセリフを言っていたような……?」


「そう、魔族を召喚したのはリヴォラティオ委員会に間違いない。彼らは生まれながらに特権を得る魔術師や戦士に、まあ、嫉妬している訳で。君たちを狙ったのも、その辺に動機があるってのは容易に想像できる。問題は……」


「イクシオン教会だ。やつらがこの件に関わっていた」


 ラッシャーが突然口を開いた。眉間にしわを寄せ、不機嫌オーラを全開にしている。何か、嫌な記憶でもあるのか、お前。学長も苦笑いしてるぞ。


「……学長、イクシオン教会とは……あの?」


 イオニスが食いついた。聞き覚えのある名前だったのか、ラッシャーに負けず劣らず険しい表情だ。


「君も聞いたことがあったかね。イクシオン協会は魔道士イクシオンの復活を画策している組織だ。もちろん、テロリストの一派でもある。彼らは目的が目的だからね、魔術師至上主義的なところがあるんだが、……何よりも、『純色』に固執している」


「え、どうして」


「現在にいたるまで、文献等で確認された純色は三人。……青の魔道士イクシオン、赤の聖勇者ディナイゼル、そして……君だ。リューマ・イレイディター」


 ひゅうひゅうと呼吸音がやけに耳に触る。俺は言葉を失った。

 純色って、……そこまで? 適性が高いってだけじゃないのか?


「イクシオン協会が純色に拘るのは、必然でもある。魔道士も聖勇者もすさまじい武をもって大事を成した。悪行も、功績も大きすぎた。協会でなくとも『純色』を崇拝する者がいるくらいだ。……不思議に思わないかね?」


「ええ、不思議というより、おかしいですね。学長の話を聞くかぎり、リヴォラティオ委員会とイクシオン協会の思想は対極にあるといって良いです。なぜ、相いれないはずの組織が手を組んだのか。なぜ、あれほど杜撰な計画を立てたのか」


 イオニスの指摘に、学長はうんうんと頷いて答えた。


「そうなんだよねえ。私たちもその点についてあれこれ調べたんだけど、全く動きがつかめないんだ。学校に潜んでいた委員会の構成員を尋問しても、手を組んだという意識はなさそうだったし」


「じゃあ、委員会は利用されただけ?」


「彼らもそんなマヌケじゃないよ。あるとしたら、『利用されてやった』……かね。リューマ君から預かった例のマントは、ただのブースターだったし。召喚士の子の証言からは計画を指示した人物を特定できなかったし。もうお手上げ」


 学長はお手上げ~と両手をあげる。おい、ふざけるなよ。

 俺がわかったのは、学長思ってたより使えねえってことだった。想像以上の大物が関わってたってことは確かだが、肝心の動機がわかりません、じゃあな。身内に潜むスパイもあぶりだせてないし。


「で? 呼び出しの理由はなんですか? 学長の無能を晒して終わりなんて言いませんよね」


 無能とは厳しいね、と学長は眉を下げた。でも事実だから仕方がない。


「ここからが本題だ。――――君たち、王都に行ってくれないか」


  ◆


 寒空の中、校門前に待ち人がいた。俺はその人に見覚えがあった。もう春なのに、今日はやたらと冷える。俺は鞄を背負い直して走った。


「アイラ先輩!」


 先輩が俺の声に振り向いた。鼻の頭が真っ赤になっている。ずっと待っていたんだと思うと、少し申し訳ない。


「師匠!」


 俺を呼ぶ声と一緒にアイラ先輩が抱きついてきた。俺が先輩よりも身長が高かったら格好が付いたのに……。どう見ても姉と弟だ。


「先輩、こんなに寒い中で待ってたんですか?」


「だってえ、あの事件の後はほとんど会えなかったし……」


 ちょっとベソかいてるぞ、この人。さっきからグスグスと鼻水をすする音が聞こえている。俺は先輩の頭をぽんぽんと撫でてやった。これじゃ、どっちが年下なのかわからんな。


「お礼だって、言いたかったし。もっと教えてほしい事……あったのに」


「今生の別れじゃあるまいし、そんなに落ち込まなくてもいいでしょう」


「でもでも、リューマ君。王都に行くんでしょ?」


 やっぱりその話を聞いていたか。

 噂が結構広まってるみたいで、クラスメイト達にも問い詰められたしな。イオニスは工業都市クルセスピアの『ノーステア開拓者養成学校』に進むことで話がついたけど、俺の方はそうもいかなかった。

 俺が、『純色』だからだ。

 事件の時に魔族相手に暴れたのもあったから、本格的に目を付けられたようだ。イオニスはその点、ただの高い適性を持つ子どもっていうだけだし、危険度は低い。しかし、俺はあらゆる意味において捨て置けないと、偉い人が判断したそうな。


「そうですね。どれくらいあっちに居ることになるかは、俺にも分かりませんけど」


 先輩は抱きしめる力を強くした。ちょっと息苦しいが、先輩の好きなようにさせた。俺も男だし、女の子に抱きつかれてドキドキしないわけでもない。


「会えなくなるの……いやだよ」


 ぽろぽろと涙をこぼす先輩に、何と声をかけたらいいんだろう? 

 ここに、ユーテリアに帰ってこれるのは、いつになるのか予測もできない。もしかしたら、帰ってこれないかもしれない。


「…………じゃあ、先輩が会いに来てくださいよ。はやく鑑定士になって」


 苦しいのと恥ずかしいのを誤魔化すために、先輩のサラサラの髪をぐしぐしと掻き回した。銀色ベースの赤だから、光を反射するとやわらかなピンク色に見える。


「うん、うん。そうする。会いに行くからね」


 やっと気がすんだのか、先輩はそっと手を放した。俺はぷはっと息を吸い込む。先輩を見上げると、ちょびっとだけ、涙の痕があった。


「師匠……いや、リューマ君に、私からひとつだけ忠告」


 急に真顔になった先輩は、俺の耳元でささやいた。


「あの事件で視えた(・・・)黒い魔力は、魔道士の右手のじゃなかった。もっと、もっと()から溢れてたの。……気を付けて」


 確信だった。彼女の、アイラ先輩の言ったことはきっと、事件の根幹にかかわる事だったんだと。魔族を召還した理由ではなく、魔道士の右手を持ち去ろうとした理由でもない。もっと、根っこの部分だ。


 ――――そして、平穏な俺の世界が崩れる音がした。


説明会でしたね。全容がちょびっと見えてきました。ずさんに見えて、意外と巧妙に目的を隠す、嫌な敵です。頑張れ主人公。

あと一・二話はさんで王都篇に入ります。

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