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第十四話 Force Invoke

森へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。



街を出たばかりの朝だというのに、森の中はまるで夕暮れ時のように薄暗い。

高く伸びた木々が頭上を覆い、幾重にも重なった葉と枝が陽光を遮っている。



ところどころ、木々の隙間から漏れた朝日が、細い光の筋となって地面を照らしていた。

その淡い光を頼りに、一行は獣道のような細い道を進んでいく。


颯真は周囲をきょろきょろと見回しながら、少し弾むような足取りで進んでいた。



「結構暗いな」



颯真は無意識に周囲を見回した。



「この森は、昼でもこんな感じよ」



前を歩くシアが、振り返らずに答える。



「木が密集してるから。魔物も隠れやすいし、初心者が迷いやすい場所でもあるわ」



「なるほど……」



颯真は腕に抱えた仮面――メルヴァンをちらりと見た。



「で、マッドピラーって、どの辺にいるの?」



「もう少し奥ね」



シアは歩調を落とさずに言う。



「この先、地面がぬかるんでくる場所があるの。沼地みたいになってて、そこが棲み処」



(いかにもサソリって感じだな……)



湿った土の匂いが、微かに鼻をついた。





しばらく進むと、会話が途切れ、森の音だけが支配する時間になる。

鳥の鳴き声、葉擦れの音、どこかで水が流れる気配。



その静けさに耐えきれなくなったのか、颯真はふと思い出したことを口にした。



「そういえばさ」



「なに?」



「フェンドリードさんが言ってたんだ」



颯真は言葉を選びながら続ける。



「ヴェイルブレイドに俺がいられるのは、ネクサリアに地球が来るまでだって」



シアの足が、一瞬だけ止まった。



「……ああ」



「それってさ」



颯真は続ける。



「あとどのくらいで来る、とか分かったりするの?」



シアは少し考え込み、視線を前に向けたまま答えた。



「正確には分からないわ。でも前例はある」



そう前置きしてから続ける。



「前の転移災害の時は、異変が観測されてから本転移まで――

大体一年前後だったって記録が残ってる」



「一年……」



颯真は目を瞬かせた。



「意外と、早いな」



その言葉には、実感と、わずかな焦りが混じっていた。


少し間を置いて、颯真はもう一つ気になっていたことを口にする。


「ちなみにさ。前にネクサリアに来た世界って、いつ頃?」



「第四世界――《アルド=ルーメル》ね」



シアは淡々と答えた。



「今からおよそ二千年前。その時は、転移による被害がかなり大きくて、歴史に残る混乱になったらしいわ」



「二千年前……」



その数字が、胸の奥に静かに沈む。



(二千年も前に、別の世界がここに来て……)

(それが“過去の出来事”として語られてる)



本来なら、交わるはずのない世界同士が、確かに交わった証。



「……不思議な話だよな」



ぽつりと、颯真が漏らす。



「本来、交わるはずのないものが、こうして交わってるんだから」



「そうね」



シアは前を向いたまま、静かに言った。



「でも、それがこの 世界(ネクサリア)よ」





森の奥へ進むにつれ、地面は少しずつ柔らかくなっていく。

靴底が沈み、ぬかるんだ土が嫌な音を立てた。



「この辺りね」



シアが足を止め、小さく息を整える。



「沼地はもうすぐ――」



その瞬間、彼女は指先を地面に向け、静かに目を閉じた。



「……《サーチ》」



淡く光る魔力が波紋のように広がり、森の奥へと消えていく。


数秒後、シアは目を開いた。



「いたわ。三体」



短く、しかし確信をもって言い切る。



「マッドピラー。正面右の木の近くに一体、他の二体は左奥、沼地の縁に集まってる」



「三体か……」



颯真はごくりと喉を鳴らした。

つま先で地面を踏み鳴らす



「ねえ、シア」

颯真の指先が、無意識に剣の柄を探していた。

「これ能力(アビリティ)、ちゃんと使えてる?」



シアは一瞬だけ彼を振り返る。



「……正直に言うと」



「うん」



「使えてない」



颯真の肩が、わずかに強張った。



「え?メルヴァンを被ってるだけじゃダメなの?」

そう言いながら、仮面に手を添える。



能力(アビリティ)を強く意識すればそれでも使えると思うけど」


シアは続けた。


「まあ、感覚が掴めないなら

―― 能力(アビリティ)名を口に出して。そうすれば自然に発動できる」



能力(アビリティ)名……」



颯真は息を吸い、仮面の内側で目を閉じる。



(フォース・インヴォーク……)

(力を、借りる……)



「――《フォース・インヴォーク》」



その瞬間、体の奥から熱が噴き上がった。



血液が一斉に巡り、筋肉が軋むほどの力が全身を満たす。

視界が冴え、森の輪郭がくっきりと浮かび上がった。



「うおっ!?力が抜ける!」

(力を貸すというよりは力の共有か⁈)

仮面から、メルヴァンの声が響く。



(すご……)

颯真は思わず拳を握る。



(本当に使えた……!)

(今なら、なんでもできる気がする)

(もしかしなくても僕の能力(アビリティ)は本当に…..!)



「使えたみたいだ!」



興奮を抑えきれず、颯真は声を上げた。



「じゃあ、倒してくる!」



「待って!」

シアが叫ぶ。


「危ない! 私の指示に――」



だが、遅かった。



颯真の体は、すでに前へと弾き出されていた。



「――っ、速すぎる!?」



追おうとしたシアとの距離が、一気に開く。



(なに、この速度……)

(他人から力を借りる能力(アビリティ)で、ここまで引き出せるはずが……)



木の根元で、巨大な影が蠢いていた。



マッドピラー。



二メートルはあろう巨体。

黒く光る外殻、太く発達したハサミ。

背中には、毒を孕んだ巨大なかぎ針が反り返っている。



「……でっか」



そう呟いた次の瞬間、颯真は躊躇しなかった。

剣の柄に手をかける。



剣を大きく振りかぶり、全力で振り下ろす。



斬る――というより、叩きつける。


「ドゴォォン――!」



鈍い衝撃音とともに、マッドピラーの体が吹き飛んだ。

その勢いのまま背後の木を叩き折り、地面を抉りながら転がっていく。

「……」



遠くからそれを見ていたシアは、言葉を失った。



一方、颯真は呆然と立ち尽くす。



(すげえ……)

(なにこれ……)

(俺の能力(アビリティ)、めっちゃ強くない?)



マッドピラーだったものが、颯真の足元に転がっている



森は――不自然なほど静まり返っていた。

シアは言葉を失ったままだ

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