第十二話 世界維持教団 グレイシス
気づけば、ギルドの中は少しずつ騒がしくなっていた。
さっきまでは空いていたはずなのに、いつの間にか討伐士や商人らしい人影が増え、ざわざわとした話し声が広がっている。
「じゃあ、依頼受けてくるから」
そう言って、シアは軽く手を振ると受付の方へ向かっていった。
その背中を横目に見送りながら、颯真は腕に抱えている仮面――
メルヴァンと一緒に、ギルド中央に設置された大きな掲示板の前に立つ。
無数の紙が、重なるように貼られている。
文字、図、簡単な挿絵。どれもこれも意味が分からない。
(……読めねえ)
異世界の文字は、相変わらずさっぱりだ。
「おい、メル。これ、なんて書いてある?」
「どれだ?」
颯真は仮面を少し持ち上げる。
「ふーん……適当なの拾うぞ」
メルヴァンは、貼り紙を読み上げていった。
「《グロウルバット》羽の採取十五体分。危険度Ⅰ【ハーモス】。
《ロックモール》6体討伐……こっちはⅡ【ディアス】だな
後は、外壁塗装の募集中だったり…」
「……ハーモス? ディアス?」
颯真は首を傾げる。
「危険度の指標だ。
Ⅰ《ハーモス》は無害寄り。一人でも受けられるのが多いな。
無害と言っても、油断すると最悪死ぬけどな」
「え……まじで?」
「Ⅱ《ディアス》は注意域。
基本は二、三人で受けることが多い。
まあ、一人じゃ無理なのがほとんどだ」
なるほど、と颯真は内心で頷く。
(危険度ランクみたいなもんか。
でも、結構厳しめっぽいな……)
そう思ったところで、メルヴァンが続けた。
「……まだこれで全部だと思うなよ」
「え?」
「この上にm、ふたつランクがあるぞ」
「……ほう」
(なんか言いかけた気がするけど、まあいいや)
「ちなみに前に倒したドラゴンは、ディアスの一つ上――ヴァリスだな。
一瞬で決着ついちまったが、本来はめちゃくちゃ強い」
「……まじか。そんなのを一撃でやったのか」
他にも様々な依頼が貼られている中、
颯真は無意識に、少し変わった依頼書に目を留めた。
そこに描かれていたのは、魔物ではなく――人の絵。
長髪。
耳がやや長く、目つきの鋭い、どこか胡散臭そうな男だった。
「……なあ、これは?」
「どれだ?」
「これ、魔物じゃないよな?」
メルヴァンが一瞬、黙る。
「……ああ。そいつは魔物じゃないな」
「じゃあ何」
「指名手配犯だな。
というか、これ――」
メルヴァンは鼻で笑った。
「俺のこと封印したバカルト教団の奴じゃねえか。
そうそう、世界維持教団――グレイシスだ」
颯真は目を見開く。
「え?」
「へえ、国から指名手配出てるな。えらいこっちゃだな。
それとその長髪の男、確か……俺が嵌められた時、現場にいたな」
「……まじか」
颯真は思わず仮面を見下ろす。
「本当に何もしてないのか?、心当たりは?」
「ないな」
即答だった。
「なんで襲うか聞いても『黙れ、化け物』って言われて会話成立しなかったし。
そもそも、ほとんど関わりなかった」
一拍置いて、低く言い切る。
「覚えとけ。
話の通じない奴は、魔物より厄介だぞ」
そのとき――
「お待たせ」
シアが依頼書を手に戻ってきた。
「依頼、取れたよ」
掲示板から離れ、三人はギルドの出口へ向かう。
背後ではさらに人が増え、朝のギルドは本格的に動き出していた。
扉を抜け、外の光が目に差し込む。
――こうして、初依頼の朝が始まる。




