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「二人のおかげでほんま助かったわ。ありがとな。」

「殆ど飛燕ですよ。」


 飛燕の能力が無かったらどうにもできなかった。

二人のおかげというには些か私の仕事量が少ない。


「お前が指示出さんかったら俺はやらんかったで。」

「飛燕もそう言っとるんやし、素直に受け取っとき。」


 両サイドから言葉と共に軽く背中を叩かれた。

どっちも力の加減に気をつけすぎたらしく、全く痛くは無いが、それはそれできもちわるいな。


「そういやお前ら結構仲良さそうやけど、どれくらいの付き合いなん?」

「前にも言った通り、小学生からの腐れ縁みたいなものですよ。」


 それ以上でも以下でも無い。

私はこれ以外何かを話すつもりはなかったので後は飛燕に視線を向けて黙る。

 正直記憶消されてたせいでまだ色々と気持ち悪いのだ。

 何も言わないままに数歩足を進めると、飛燕が折れた。


「………しゃーないな。」


 飛燕がボソッと面倒そうな声を出したが、シガンさんには届かなかったらしい。


「俺が小学校に通ってた時に同じクラスで、そこから中学二年の夏までずっとクラス一緒だった。」

「ずっとか。珍しいな。」


 横からシガンさんの視線を感じたが、私はそっと目を合わせないように視線を流す。

 ずっと同じクラスだった事に関しては心当たりがないでも無い。

無いでも無いのだが、その心当たりが碌でも無いのであまり詮索されても困る。


「まぁ、そんな訳でこんな感じになってるんや。」


 飛燕もやはり心当たりはありそうだったが、そこには触れずに締める。

一拍置いて、シガンさんが口を開いた。


「中二の夏になんかあったんか。」


 一瞬、足を止めそうになった。


それは飛燕も同じだったようで、軋んだような調子で足を動かしていた。

 そりゃあ中二の夏という新学期でもなんでも無い時期まで同じクラス、というのは不自然だろう。

それに加えて記憶の改竄まで行われていたのだから、その時期に何かあったと思うのは自然だ。

 別に私達だってそこら辺の事を隠そうとしていた訳では無いし、それは別に良いのだが、急に言われると心臓に悪い。


「……別に、無理矢理聞き出そうとは思ってないで。どうせ怪異関係やろ。」


 俺も何回か学校辞めさせられそうやったわ、なんて言って話を逸らしてくれたシガンさんに内心感謝しつつも申し訳なさが残った。

 気を使わせてしまったので、代わりに何か話題を……話題………

 特に適切な話題が思いつかないまま歩き続けていると、気づいたらすぐそこから泣き声が聞こえている事に気づいた。


「そこの角曲がった所、だよね。」


 私は声を顰めて角の手前で立ち止まり、飛燕に聞く。

私と同じ位置で止まった飛燕は声を出さずに無言で頷いた。


「やったら、角からちょこっと見れればええわ。」


 小さく言ったシガンさんは、私達よりもさらに数歩先まで行き、曲がり角から顔だけ出して廊下の先を伺い始める。

 その瞬間。


おぎゃぁぁぁぁぁ!!


 赤ん坊の泣き声が、家を震わせるほど強く響き渡った。

ビリビリと揺れる空気に、私は咄嗟に体も喉も動かない。


「つ、つじ!シガンは大丈夫か!?」


 なんとか絞り出された飛燕の声に私は反射的にシガンさんのいる方、怪異がいる方角の廊下を見た。

 怪異に一番近いのはシガンさんだ。

ただでさえ怪我をしているのに、泣き声の衝撃を強く受けているのでは無いか。

 私の心配は、さらなる音でかき消された。


「あかん!怪異が来とる!つつじ、飛燕、俺が一旦引きつけるからはよ________」


 シガンさんが私達の方を向いて言い終わるよりも早く、バキバキとマヨイガが軋み崩れる音がシガンさんまでたどり着いた。

 シガンさんの背後、私達の正面。

そこには、マヨイガを喰らいながらシガンさんを濁った瞳に鈍く映し出している怪異。


「あれ、まずいんとちゃうか!?」


 微かに白いものが怪異の足に巻き付いているのが見えたが、それでは怪異は止まらない。

怪異は、マヨイガを喰らっていた鋭い牙を、容赦なくシガンさんに向けた。


「っ……!」


 また、何度目か分からない大きな音がした。

今度の音は、何かを喰らうような音ではなく、それらよりはずっと柔らかいものを殴ったような粘着質な音だった。


「あ、いつ、あのでかい怪異殴ったんか……?」

「………あー、そういえば、シガンさん、こういうのに強かったっけ……」


 私は土埃や舞い散った埃や木屑で殆ど見えなくなった怪異とシガンさんの方を見ながら半ば呆然と呟く。

 手を汚怪我していて出せる威力では無いが、恐らくシガンさんは背後にいた怪異を殴った。

あの怪異に実態があるのかどうかは知らないが、‘怪異を物理的に殴れる’能力を持つシガンさんにとっては関係のない事だ。


「でも、あんなんで終わる訳ないよね。」


 当然、人間にしては大きいシガンさんでも、怪異からしたら十分に小さい。

そんな小さな存在に殴られたって、怪異にとっては傷にもならないだろう。

 視界が晴れてきた。

怪異は体勢を崩すこともなく、油断の無さそうな瞳で自身の足元にいるらしいシガンさんを凝視していた。

勿論、赤ん坊の泣き声はとんでもない勢いで大きく重なっていく。

 最早自分の衣擦れすら聞こえない。


「飛__!____えて__!?」

「あ___!___聞___!」


 一応できる限りの大声で飛燕に向けて声を張り上げてみたが、案の定聞こえないらしいし、私も飛燕の声を聞き取れなかった。

全てがけたたましい泣き声に吸収されてしまう。

これでは意思疎通をとるどころか下手に移動もできない。

 このまま移動しようものなら絶対に逸れる。

大きな音のせいで空気は震え、耳鳴りなのか泣き声なのかも区別がつかなくなった今、私にできることはない。

 シガンさんと怪異は睨み合っているし、怪異の足に絡まっていた白いもの、白蛇も見当たらない。

 完全に、見ている以外の事ができなかった。


___ォぉ____!!


 ビリビリと震える空気の中、一つだけ異なる振動が私の耳を通り過ぎた。

思わずシガンさんと怪異から目を離して周りを見ると、同じ振動を感じ取ったらしい飛燕の鋭い瞳と目が合う。

 どうやら単なる聞き間違いではないらしい。

 更に耳を澄ませると、さっきとは異なるがやけに軽やかに廊下が振動している事に気づく。

その振動はだんだんと大きく______


 バギャッ!とも、ギシッ!とも取れぬ大きな音がした。


 その音は怪異の泣き声にも負けず、しっかりと私の耳に届く。

音の出所は、シガンさんと怪異が立っていた方向。

 この時には泣き声は一瞬で随分と小さくなっていた。


「つつじ、飛燕!大丈夫か!?」


 音に釣られて飛燕とほぼ同時にシガンさんの方を向くと、いつの間にかシガンさんが私達が振り返った目の前にいた。


「それはこっちのセリフ……というか、怪異は!?大丈夫なんか!?」

「そんな焦らんでも大丈夫やで。やっぱ然玖らがきてくれとるみたいやわ。」


 そう言って少し体をズラしたシガンさんの先には、大きな虎が一匹、怪異に食らいついていた。

流石に怪異程は大きく無いが、白蛇と同じくらい白い毛並みの虎。

 それが、今も怪異に組みついて怪異を離さない。

泣き声が小さくなったのは、怪異が虎に気を取られているからだろうか。


「あれは凛の能力や。アイツは然玖と違うてあんま能力の範囲広く無かったはずやし、多分近くにおると思う。」

「それは良いんですが、怪我大丈夫ですか。」


 私は言いながら視線をシガンさんの手に移す。

シガンさんの右手は拳の形になっているが、今もぼたぼたと血が垂れている。


「あー、多分大丈夫やろ。こんくらいやったら大丈夫や。……そう心配せんでもええ。」


 シガンさんは苦笑して屈みながら、ずっとシガンさんの拳から視線を離さない私と飛燕に視線を合わせて瓶覗の瞳を細めた。

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