59話「二人で」
「あーつまんねー」
「煩いぞ。橋川」
「だって一ノ瀬がいないなんてつまらないだもん。くそぉー」
「お前本当は気づいてるだろ。一ノ瀬たちのこと」
「当たり前じゃん。俺の事舐めてんの? これでも俺、或哉ファン1桁なんだから」
「でも驚くのはこっちの方だよ。櫻井って鈍感そうで天然そうなのに」
俺がわざとおどけた様子で言うと櫻井は真面目な顔で「俺ってそんなに天然か?」と聞いてくるのだから可笑しくて笑える。こいつは本当に裏表がない。きっと嘘がつけないタイプの人間だ。俺とは違う。
「そーいや知ってる? 宮水っちがすげー暗い顔してるって」
「宮水が?」
「そーそー。男ばかりだからそんな噂になってねーけどあの顔はいつも以上だ」
「そーいや、昨日……」
櫻井が言いかけて口を閉じた。なんだよ。気になるじゃないか。
「昨日何かあったのか?」
櫻井も昨日の宮水っちたちを見かけたのだろうか。男なのだからこの手の話し別にしても大丈夫だろう。何せここは本来ならば女子禁制の男子校なのだから。
「一ノ瀬……いや、柚葉と宮水が一緒にいたな、と」
「は?」
「買い物帰り歩いてたら2人してカフェで話してんの見かけた」
「はぁ?!」
おいおい。じゃあ俺の見たのはなんだ。一ノ瀬(妹)と何かあって気晴らしに違う女と遊んだってか? あの宮水っちが? ……いや、あの顔ならありうる。なんだってあの教師の顔は誰が見たって端整で芸能人のイケメン俳優並みだ。そこらのよっぽどの警戒心が強い女ではない限りあの男の誘いを断ることは無いだろう。
だからって……それは無いだろ。
まず、柚葉ちゃんと宮水っちの関係ってなんだよ。去年の教え子か? だからって普通、元教え子だとしても一緒にカフェに入るかよ。もし彼女のとの事が偶然で俺が見た光景が本来の目的だとしたら……あの宮水っちが振られたっていうのか?
___意味、分からなくなってきたぞ。
「そこまで驚くことか?」
「驚かねぇ方がどうかしてねーか?」
そうなのか? と櫻井が首を傾げている。
このままわからないままでは俺の気が晴れない。
「っし! 櫻井いくぞ」
「それで、俺に何の用だ?」
櫻井を引きずりながら職員室に向かっていたら空き教室前で宮水っちと出くわした。ナイスタイミングだ。
宮水っちを引き止め、教室に2人とも無理やり中に連れ込み、ゴホンっとわざと咳払いをしたら切り込まれた。
「単刀直入に聞きます」
「どうぞ」
「彼女に振られたんすか?」
「彼女?」
宮水っちの声に重さが加わった。彼女とは言ったが特定の人物の名前入っていない。それがガールフレンドの方か、もしくは柚葉ちゃんの方かこれから聞き出す。上手くこの会話を操り言わせてやる。
「俺、見たんすよ。宮水っちと二人でいるところ」
「橋川も見てたのか」
今まで黙ってた櫻井が相変わらずのテンポの遅さで聞いてくる。おい、待て。これ以上言うなよ。
「柚葉といる所」
言いやがった。櫻井のことを忘れていた訳では無いが口を出すとは思わなかった。いつも通り聞いてないようで聞いてないのかと思いきやこの有様だ。
しょうがない。ここは回り道は不要だ。
「一ノ瀬と?」
宮水っちが櫻井を見た。彼の瞳が揺れている。動揺しているようだった。珍しいこともあるようだ。あの飄々とし何事も適当だということで有名な彼が静かにあたふたしている。こんなのは、正解だと言うしかない。
それでも俺は少しの可能性にかけて問く。
こんなのは愚直だと承知だ。
「先生が夜一緒にいた女性は誰ですか?」
「……あいつは俺の学生時代からの友達だ」
この答えに嘘はない。だからこそその人について深く質問することは出来ない。
「柚葉とはなんで一緒にいたんすか?」
「偶然だよ」
「昨日先生、学校休みましたよね」
珍しいこともあるものだ。あの櫻井が宮水っちに自分から質問し詰問している。明日の天気は雨になるかもな。
「昨日は命日だったんだ」
「柚葉と会う理由は?」
「偶然だ。それ以上お前達に言う必要も無い」
宮水っちの切り捨てるような言い方が気になるがこれ以上は探索をしても無駄だ。流石に櫻井が黙る。いつもならこれが当たり前なのだが今日に限っては物足りない気分になる。
「もういいだろ」と踵を返す宮水っちの背に向かって俺は一言ぶつけることにした。
「俺らに話さなくていいんでその顔をその人に見せないでくださいよ」
彼には俺の声は届いただろうが、あえて無視をしたのかそのまま遠ざがって行く。その後ろ姿を見て彼女に会いたくなった。
二人の関係は知らないがアイツは彼よりも酷く荒れていそうで顔を見たくなったとは口が裂けても彼女の兄には言わない。




