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一ノ瀬兄妹(に)は伝えたいことがある  作者: 久川梓紗
僕に与えられた芸名
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58話「他人への興味」

 学校に入ると、そこは騒がしい。

 登校中に感じていた賑やかさとかまた違う騒がしさだ。人が作り出す雑音が僕の耳にへばりつく感じが、好きになれない。


 だからと言って耳を塞ごうとは思わない辺りはまだ僕も人並みだ。この空間にまで支配されてしまったら僕は家から出られるとは思えないので、その事に安堵する。


 教室に入ると空気が重たい。いや、周りのクラスメイトの空気が重い訳では無いのだ。たった今教室に入った僕だけが鉛でも入った空気を背負ってるかのようにどんよりとしているだけである。自分の席に座り適当に準備をしていると「おはよう!」と元気の良い恵美の声が聞こえてきた。その声に顔を上げると相変わらずなにこやかな顔をして机の前に立っている。


「おはよう」


 いつもと大差ない僕の静かな挨拶だが、今の気分を出来るだけ押し殺した渾身だ。恵美と目が合ったら彼女は嬉しそうに口角を上げ、自分の席へと去っていく。その事に不思議なほど安心感があった。とても嫌なことだ。今ならば彼女の声が夜中に鳴り響く止められないアラームのように耳障りにしか聞こえないのだから。



 1時間目の授業のノートと教科書を適当に開く。復習する気分にもならないし、昨日やらなかった課題をやる気分にもならない。我ながら大問題だ。今までの学生生活の中で課題を期限以内に提出しなかった日など1度もなかったというのに昨日に続き今日もその気は湧いてこなかった。とてもありえないことである。僕は一体どうしたというのだろう? 何がこんなに僕の頭を支配しているのだろう。

 答えは見えてきそうで、けれどもやっぱりそれは見えては来なかった。



「起立、例」



 気づけば、1時間目が終わっていた。SHRも1限目の合名も朧気ながら覚えているがハッキリとしたとは言えないほどだ。それにいつの間にラインマーカーやノートを書いたのか新たに書き加えられている色を見て違和感さえ覚える。どうやら人は習慣になったことはそこに集中していなくてもこなすことは出来るらしい。そのおかげで今回の授業はまるっきり頭には入ってきていない。


 そんな調子でお昼だ。昼食を食べるのもかったるい。けれど、お腹はすいている気がする。お腹の虫は元気なのだがらその分頭の虫も動き回ってくれればいいのにとも思うが、頭の中にいるのは少し前世界でブームを起こし歩きスマホの注意を轟かせたゲームのキャラクターカゴビンのような気もしてきた。


 今日は1人で屋上の隠し場所で食べようかと思って恵美に断りを入れた。


 屋上に入るためのドアの横に梯子が立てかけてあってそこを上るとちょっとしたスペースがある。1人になりたい時そこに寝っ転がるのが僕は好きなのだが、今日は先客がいた。僕を待っていたかのように片手を上げ大きい目でよっと語っている。何故かそいつの膝の横にはお弁当箱もあって偶然ではないことに気づき引っ込めていた足を戻すことにした。正直彼とも話す気は無いがこういう時、僕が逃げたとしても彼は追いかけてくることを知っている。だてに小さい頃からいる訳では無い。


 無言のまま座り込むとソウの方から話しかけてきた。


「なんかあったのか?」


「なんでもない」


「なんでもないわけねぇだろ。らしくもなく課題提出してないくせに」


「そんなの誰にでもあるでしょ」


「お前はねぇだろ」


「……なんなの。なんなのなんなの?! 先生も会長もソウもなんで人の事わかるわけ!?」



 空に僕の声がこだまする。こんなの逆ギレだ。三人にキレることなど何も無いはずなのに、誰にでもできることが自分にはできていないだけなのにその思いをそうにぶつけてしまっている。こんなんだから人のことなどわかるはずがないのだ。


「は? 分かるわけないだろ」


 彼は何も考えた様子がないように真顔で言った。そんなはずがないのに彼が嘘をついているようには見えない。


「そんなはずない。だって、ソウはいつも」


 私のことわかってるから。それが言葉になっていたかはわからない。けれど、口がもちょもちょしたのは感じる。何を言おうとしていたのかは彼には分かったらしく少し小馬鹿にされたような顔で言われた。


「それはお前だからだ。誰でもわかるわけじゃねぇよ」


「でも、私はソウのことわからない」


「柚葉は人に関心を持ってないからだ。もちろん俺にも」


 悲しげな顔をされた。関心を持ってない? そんなはずはない。


「柚葉は本当の意味で他人を知ろうとしてないんだよ」


 知ろうとしてない……?


「会長も柚樹も俺も人にチヤホヤされてきて期待され続けた人間だからお前の存在は特別だったんだ。他のやつとは違う距離感があるからな。けど、最初はそれが嬉しかったはずがそれじゃあ物足りなくなる。大地先生なんかはお前のおかげで明るくなったような気もするけどな」


「よく、わからない」


「人との付き合いで最初から正解なんかないんだ。柚葉は柚葉の付き合い方をすればいいし、もし今ので納得がいかないなら今からでも学んでいけばいい」


「どうやったら学べるの?」


「あーじゃあ俺を練習相手にしてみろよ」


「え?」


「他のやつで答えがわからない練習したってお前物足りないだろ? んなら俺で練習してみろ。今まで以上に俺について考えてみろ。な? 良い考えだろ」


 この上から目線な態度が彼らしい。でも今回はその案に乗ろうとおもう。


「私がソウのことジロジロみたって文句言わないでね」


「お前まだ昔のこと気にしてんのか?」


「うっさいな」


「文句なんて言うかよ」

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