40「個人情報」
「ねぇ」
「なに?」
「ひとつ聞いてもいい?」
「どうぞ」
「なんでネクタイしてないの?」
椅子に座って構えている桐生に質問する。ずっと気になっていたんだ。彼がネクタイしていないこと。
「え?あー、朝ファンの誰かに取られた」
「そんなことあっていいのか?!」
「ダメだろうけど、面倒臭いしいいんじゃない」
無気力だ……。
ふぁあ。と桐生は眠たそうにあくびをする。朝、彼を見た時には気づかなかったけれどネクタイをしていなかったなんて。彼にも副生徒会長がそんなことあってならない。
「ネクタイ予備持ってる?」
「制服類は予備持ってる」
「それなら良かった」
「そんなにネクタイないとダメ?」
「ダメ」
「なんで」
桐生が端整な顔の真顔で聞いてくる。彼も日頃規則とか気にしない類の類の人間かもしれない。いや、まずこの学校に規則正しくと生活している者がいるかも不明なのだが。
「規則だから」
「君は柚樹と違ってつまらないね」
桐生がなんてこともないように言うからすぐには深く考えられなかった。
けれど、彼が僕に対しての評価が高くないことはわかった。
校則、規則。それらは僕にとっては絶対で守らなくてはいけないものた。それらを守ろうとしないやつや気にしないやつの心境を僕は全くわからない。女子はオシャレだとかJKだからとかよく分からない理由でスカートを短くする。男子は平気で髪を染めたりピアスを開けたりする。それらは僕にとっては許せない行為だ。あ、でも僕もギリギリなことはしている。
バイトだ。
けれどあれは母さんの手伝いだ。小遣い目当ててやっている訳では無い。それに前の学校ではちゃんと申請を出していたし、この学校に通っている間は申請を出さなくても良いはずだ。
だから、破ってはいない。
あ、違う。そよりもアウトなのがあった。こうやって柚樹の格好をして僕がいることだ。僕の学校の方は普通の学校と少し違うから大丈夫だとは思うが、出席日数をプラスできないことは少し痛い。そのうち、あっちの学校には行かなくては。とりあえず、僕は頼まれたことを忠実に再現することしか出来ない。
それと違って柚樹は僕と反対だ。何にも縛られない。自分のやりたいことには素直でいるし校則も規則を気にしない。と言うよりそれに不満があれば自分で変えようとする。効率的な方法で、自分一人の力ではなく。柚葉と僕は確かに双子で、似ているとよく言われるがそういう根は真逆にできている。だから僕はたまに、柚樹が羨ましく感じることがある。こんなこと、本人には言いたくないけれど。
「つまらないか……確かにそうかもね」
僕は力なく笑っていた。別に何かこの表情を見て読み取って欲しい訳でもない。慰めて欲しい訳でもない。お前はお前で大変なのだとそんな上部の言葉を欲しい訳でもない。ただ、何故かそれが限界だった。そうすることしか出来なかった。
「きっと君には君の面白いところがあるだろうから、それを楽しみにしてる」
桐生はそう言うと生徒会室をあとにした。
桐生の言葉がやけに優しく聞こえる。“楽しみにしている”彼は、無責任な言葉を使わない人なのだろう。だからだろうか、僕の胸にストンとその言葉が落ちてきた。
僕の面白いところ。
それが何なのかは僕にはわからない。それでも、見つけるいい機会だと思った。この環境で過ごすのも柚樹のツアーが終わるまでだ。そこまで長くはないしいつまで本当にこの生活ができるのかもわからない。だから、今を大事にしよう。今の自分を超えれるように。
「てか、用ってさっきのを伝えにわざわざ?」
電話で言えばよかったのに___と思ったが、彼にとってそれでは意味が無いのだろう。確か僕にほかの女の子なら従う。と言っていた。だからもし僕があの時、彼に従っていたならばこの話しは無かったのだ。しかし、もしあの時僕が従っていれば彼が電話のとき言っていた用というものは済まされていないような気がする。結局、なんのために僕を呼んだんだ……?
そう思ってさっきまで彼が座っていた方に視線をやると机に1枚のメモ帳が置かれていた。
電話番号とメールアドレス。それにLINEのIDが。そんなに一気に僕に個人情報を漏らしていいものなのだろうか。僕は信頼してくれてのことだろうか。いや、それは無いだろう。どちらかと言うと柚樹を信頼してのことだ。
とりまえず有難くその個人情報をスマホに打ち込む。IDを入れるとすぐには桐生と思わしき人のアイコンが出てきた。それを追加する。すぐに僕のも追加された。
そしてメッセージが送られてくる。
『言うの忘れた』
『明日、ここに来て』
2個に分けられたメッセージの後に住所が書かれた大きな吹き出しが送られてくる。
ここは確か……。
とりあえず、『わかった』とだけ返事をした。
直ぐに既読は着いた。
それから僕は住所が書かれているアドレスを検索してやっぱり、と納得する。
何故僕をここに呼ぶのだろう。柚樹に何かあったとか……?いや、そんなことはないとは思うけれど。けれど何故、スタジオに僕を呼びだす必要があるのだ。僕はそのまま不安と疑問を抱きながら翌日、桐生に呼ばれたスタジオへと向うのだった。




