30話『優しさ』
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
ちょうどよく濡れた髪で白くキメ細かい肌を持った男の子は笑顔を女子共に向けた。
1人は倒れ、もう1人は頬を赤くする。
「なんていい子なの!?こいつとは大違い!!」
どこからそんな声を出してんだ。と姉に聞きたいがそんなことはほっといて俺を侮辱してそいつの頬をグリグリと両手で可愛がるのをやめろ。
「僕はいい子じゃないです……」
姉に小さくされてる口で小さく呟いた。
いい子じゃない。てのはコイツには似合わない。どうぜ、お得意の演技でもしてるのだろう。
いい子じゃないって言えるのは俺みたいに人に迷惑をかけるやつだ。
「暁杜君。アイス食べる?」
ずっと暁杜の頬を可愛がっていた姉がやっと手を離し、暁杜の返事も待たず冷蔵庫へ向かう。
勘のいい姉のことだ。暁杜は遠慮すると思って返事を待たず持ってこうとしたんだろう。
案の定暁杜は「大丈夫です」と言いたそうな顔をしたが、笑顔で二つのアイスを持ってくる姉に笑顔を作った。
「バニラとチョコどっちがいい?」
俺に話しかける時とは全然違う声を出す。
普段の声をもう知ってるこいつに作り声を作って話しかけてどうするんだと言いたくなる。
それでも暁杜は平然とそれもどこか嬉しそうに「じゃあこっちで」と白いパッケージの方を指差した。
「素直でよろしい」
姉はアイスを暁杜に渡す。
暁杜は戸惑いの顔をするだろうなと横目で見ていたら想像とは違う顔をしていた。
どこか恥ずかしそうで嬉しそうな顔だ。
姉に恋でもしたか?
と考えた自分が馬鹿らしくなった。
コイツは姉に対して恥ずかしくなったんじゃなくて自分が恥ずかしくなったんだ。
でもそれは意外と悪い事じゃなくて、子供としてもとても良いことだと思う。
暁杜はなんでも1人で抱え込み過ぎだと今日あったばかりの姉は見抜かしていた。
こういうよく知らない他人から見たら分からない優しさを姉は持っている。
けどそれは姉が意図的にやるものであって、姉の素顔を知る俺には全くそういったものをしない。
「いただきマース」
姉は茶色いパッケージの蓋をとって食べ始めた。
あぁ。やっぱり自分のだったか。
それを見ていた暁杜が食べる?と言った目でこちらを見てくる。
「いやいいよ。お前が食べろ。」
暁杜の躊躇した顔が伺えたが後は姉に任せ、俺は風呂に入ることにした。
暗くなった部屋で暁杜は俺の耳元で囁いた。
「こんなに賑やかで楽しそうな家族なのになんで君は警戒してるの?」
こいつもこの類の人間だったな。
姉の顔を思い出しながら俺は素っ気なく答える。
「これが俺に出来るやり方だからだ」
これ以上会話は続かないだろう。そう思って布団で顔を隠そうとしたらその手を好奇心を隠せない様子で掴まれた。
「本当に?」
一瞬暁杜瞳が煌めいた。
なんでお前はそんなワクワクしてるんだよ。
意味がわからなくなった状態に俺が困惑を覚える。
「君は僕と似てるね」
そんな意味深な言葉を置いて桐生暁杜は眠りについた。
俺の指と自分の指を絡ませてお母さんと赤ちゃんが寝るみたいにコイツはすやすやと眠っている。
こいつなんかと似てたまるか。
暁杜を何となく見つめながら考えていると目が覚めた。
寝るのも面倒臭いと感じるほど頭がスッキリしていた。
どいつもこいつも俺への扱いがうますぎる。
力の入ってない指を離して、ベットから降りる。
そしてそのまま俺は公園へと向かった。




