第3話「双子の妹」
いつもよりひと気が無いように思われる駅についた。
僕は彼の肩にのせていた腕を慌ただしく離す。
「あ、ありがとう。」
僕は櫻井から少し離れ、ぺこりとお辞儀をした。
「いいよ、別に。後は大丈夫?」
櫻井が心配そうに僕を見てくる。
「はい。」
この人は実の兄よりも優しいと思う。
僕に向けられた優しい微笑みに、微笑み返しそうになる。
そんな時、彼は口を開いた。
「君は、柚樹ではない?」
彼の口から出た言葉は、兄の名前だった。
「はい。妹です。双子の」
助けてもらったのだから、質問には答えた。
「似てるわけだ。」
笑われた。小学生の男子がゲラゲラを人を面白がるような無様な笑では無くて、とても心が温まるような…そんな笑み。
「よく言われます。」
「だよね。」
また笑みを向けられた。
その笑顔には何故が懐かしさがこもっている気がした。
「櫻井さんって、なんか可愛いですね。」
「え?」
櫻井がキョトンと軽く首を傾げる。
「…なんか可愛いです。」
その仕草も可愛いと思ってしまった。
自分でも、おかしな事を言ってるのは分かった。
けど、そう思った。そして言ってしまったのだ。
「男に可愛い言っても男は嬉しくはないよ。」
少し疑問系に言われる。
…あれだろうか。
男を落とそうとしてるのではないか。的な事考えられただろうか。つまり僕は逆ナンと言うものをしていると思われたらしい。
実際は全然違うのだが。
そう言うつもりは一切ないのだが。
…どうでもいいと思ってしまう。
「別に嬉しくなって欲しくて言ってるわけではないので。」
「マジ?」
「当たり前じゃないですか。いちいち考えてられません。」
「本心?」
櫻井が珍しいものを見た。と言うような表情で見てくる。
彼は、人のことをよく考える人だ。
人は自分と反対の性格を見た時、自然と相手のことが分かると思う。
今、僕はそれを体験した。
「はい。と言うか本心以外何があると?」
彼の考えに少し興味が湧いた。
だから、問いかけて見た。
少しだけ、二人の間に沈黙が浮かんだ。
「面白いね。君。やっぱり柚樹の妹だ。」
笑われた。嘘とか表だけとかそんな笑みじゃなくて本当の笑顔。
さっきまでの温まるような微笑みではないけれど、この笑顔も人を思っている笑顔だった。
この人は柚樹の何なんだろう。
柚樹の名が、この人から聞くと特別に感じた。
「櫻井さんは、柚樹と仲がいいのですか?」
「そうだね。強いて言えば....ライバルかな?」
「ライバル?」
普段、僕があまり聞かないキーワードが彼の口からでたことに驚きながらもその意味を考えた。
「そうらしいよ。」
「そうらしいって、そうじゃないんですか?もしかして兄が思ってるだけとか!」
「ううん。そういうわけじゃない。」
少しさみし気な顔をされた。
なにかあったの?なんでそんな顔するの?
…僕は、桜丘高校に通ってわかったことがいくらかあった。
自分は勝手に兄をこの高校では1人狼だと思っていた。けど、違かった。
柚樹は、皆から慕われていた。生徒会の人達は兄を尊敬していた。先生達も兄を頼っていた。
それに、兄は人を本心から傷つけることはしない。これは僕の結論。
「櫻井さんは、兄のこと好きですか?」
「う、うん。いきなりどうした?
」
「確かめたくて…いきなり変なこと聞いてすみません。」
….僕は、何が聞きたかった?
「きみは柚樹のこと好き?」
そんなの決まってる。
「嫌いです。」
「そうなんだ。」
櫻井は、からかわなかった。
からかわれても困るだけなのだが、雰囲気がどこか人とは違う気がする。これだけのことで気づいたんじゃなくて、この人はほんのたまに何処かに何かを忘れてきた人みたいな、そんな目をする。
困惑の色___。
「私、櫻井さんのことも嫌いです。」
「またいきなり。」
今度は笑い気味に少し飽きられた。
「櫻井さんは、どこか遠くをみてる。」
他人にいきなりこんなことを言われて戸惑われるのは目に見えるけど、この人は他人には見えなかった。
それに、兄の知り合いだし、少しだけ他人ではないかもしれない。
「前、柚樹にも言われた。」
「兄がそんなことを」
意外だと思った。兄は尊敬はされているが、他人にあまり興味がなくて1人で行動してたり芸能活動に突っ走ってると思っていたからとても意外だった。
「そう言えばなんで君は俺の名前を知ってる?」
「聞いたんです。…風の噂で。」
「風の、噂?」
「はい。お強いんですよね。櫻井 空我さん。」
嘘ではない。実際自分の本当の高校でも彼の名前は知れ渡っていた。
"血を知らない空竜”
って。
由来は知らない。ただ人の血も恐れず暴力を振るう不良少年と聞いた。
僕は、そこまで他人に興味がないし詳しくは知らないけど彼の名前を聞いた時、なぜか気になって少しだけ聴いた。
「俺は弱い。柚樹は強い。」
「柚樹が?」
柚樹はそこまで暴力とかそう言う多面では強くはない。少なくとも僕が知る限り。
それに、もし強いとしても暴力はふらないだろう。すぐに芸能活に伝わり批判を浴びるのは目に見えてるだろうから。
「あいつは…」
櫻井は何かを言おうとした。
けどその時、聞き慣れた声が飛んできた。
「柚葉〜!」
お母さんが急いいでこちらに走ってきた。
彼女の目は小さな子供が迷子になってた時、お母さんを見つけた時のような瞳をしていた。
「どこ行ってたの?携帯鳴らしても出ないし。」
頬を膨らませ少し拗ねられる。
お母さんはどこか小さい子供みたいな所がある。
「ごめん。少しこの人と話してて…」
「この人?」
お母さんは僕がさした方を覗き込む。
「誰もいないじゃない。」
「…気のせいだったかも。」
さっきまでいたはずの櫻井はいなくたっていた。
あたりを見渡しても彼らしき姿は見つからなく僕はお母さんに顔を向ける。
「帰ろ。お母さん」
「そうね。」
お母さんは僕に笑いかける。
僕らは家に帰った。
書き方を変えてみました。
読みづらかったら教えて下さい。