18話「副会長?」
「疲れたぁー」
ベットに勢い良くダイビングをし、背筋を思いっきり伸ばす。
まくらに頭を預け、直ぐにでも寝てしまいそうな心地になる。
「いかんいかん。柚樹に電話しないとっ!」
僕は離れ難い枕から頭を離し、鞄から携帯を手にする。
特に戸惑うこともなく、柚樹に電話をした。
プルルルルプルルルル
電波確認中の音が耳に響く。
プチッ
「もしもし…」
プルルルルプルルルル
イラッ。
繋がったと思った音は囮だったらしく、それにまんまと引っかかった自分に、と言うより、電波に腹を立つ。
プチッ
今度は引っかからない!
電波が繋がったという合図ではないと僕は判断し、何も言わず、ベットの上で正座をして待ち続けた。
また、プルルルルと音を鳴ことを。
『柚葉?』
「柚樹!?」
しかし、耳に聞こえたのは待っていた電波音ではなく、本来目的としてかけた柚樹に電波が繋がっていた。
『何でお前が驚くんだ?それにしても珍しいな。どうした?』
柚樹の事が耳に響く。
ファンの子が柚樹と電話なんてしたら鼻血が出るかもしれない。それか固まるか。あと、感激したりもするかも。
まぁ、僕はそんな事絶対ないけど。
「ちょっと、聞きたい事があるんだけどいい?」
単刀直入に言うのをやめ、少し相手の時間を確認する。
『ちょっと、待ててくれ。』
柚樹は電話から口を離したのか、彼の声がぶれて聞こえてくる。多分、誰か遠くにいる人に確認するような声が離れた携帯電話に届き、僕に聞こえたのだろう。
『十分くらいは大丈夫だ。』
「そっか。ありがとう。」
柚樹はさっきグループの人かマネジャーに確認したんだな。と思った。
「それで、柚樹。宮水先生って知ってるよね?」
簡単に話しが終わりそうな事から話す。
『そりゃあな。』
「宮水先生と話した事ある?」
うーん。と考え込む声が聞こえた後、柚樹は少し疑問系に答える。
『あー、あまりないかも』
「そっか。ありがとう。」
そういう事なら、柚樹の事をあまり知らない先生が今日、僕を柚葉の双子の兄って分かってもおかしくないよね。
『それがどうしたんだ?』
「え、えっと…ほら、宮水先生って生徒会の先生でしょ?だから聞いておこーかなって。」
『ふーん。まぁ、いいけど。』
柚葉が僕を見透かしたような言葉の後に、話題を変える。
『それで?後はなに?』
仕事の休憩中か移動中だからか、柚樹の声がいつもと違うように聞こえる。まさにテレビに写っているユキの声だ。
柚樹の声以外にもザワザワと人がたてる音や声が聞こえるが、柚樹の声はそれをかき消すようにはっきり聞こえてくる。
「柚樹って学校ではどうやって過ごしてたの?」
『どうって、普通だよ。』
いや、だから普通が分からないですよ。お兄さん。
『空我にでも聞けば良いだろ?あいつなら俺とお前が入れ替わってるの知ってそうだし。』
今、何が爆弾発言をしたと思ったのは僕だけなのだろうか…。
「ねぇ、私と柚樹が入れ替わってるの、誰か知ってるの?」
『誰にも言ってないけど、あいつには俺がアイドルやってる事言ってるし、知ってるんじゃないか?』
え?知らないのか?と柚樹が付け加えてくる。
…そうだよな。やっぱ櫻井が疑問に持たない訳がない。
通勤時間でも生放送に出てる兄を知っていて、学校にいる事を不思議に思わないはずがない。
櫻井はあえて僕に気づいていないふりをして言わないのか…?
『あー、けどあいつ、天然と言うか…たまに抜けてる所あるから本気で気づいてないのかもな。』
「どっちだよ!」
携帯に向かって叫ぶ。
『でも聞いてみろ。多分、分かってっから。』
聞くって…。柚樹は簡単そうに言った。けど、もし、知ってなかったら…バレるだけで終わりじゃないか?
バレないようにするための方法を聴くために僕は柚樹に電話をしたのだが…。
バレる…?そういや橋川に今通ってる一ノ瀬柚樹が僕だってばれたんだっけ?
「柚樹。」
『何だ?』
「橋川に僕と柚樹が入れ替わってる事がばれた。」
『橋川って前回三位の?なんで?特に俺と接点とかないのによくわかったな。…お前が知り合いとか?』
柚樹が早口で話す。
もう時間が少ないのかもしれない。
「僕は今日始めてあった。ユキの大ファンなんだって。橋川。」
『マジ!?』
柚樹が嬉しそうな声を驚きと共に出す。
「そうらしいよ。それで今日色々あった上で、ユキが今ここにいるのはおかしい!ってことでばれた。」
『…まぁ、俺がユキって分かってるやつは分かるかもな。』
仕方ないか。と溜息交じりに言ってくる。
「柚葉の馬鹿野郎。」
自分で言ったことだろ。の意味で柚樹には聞こえない声で言ってみた。
『なんか言ったか?』
「別に何も」
案の定聞こえてなくて、ホッとする。そして先ほどより大きな声で、なんでもない!と答えた。
『そろそろスタンバイお願いしまーす。』
微かに柚樹の声ではない人の声が聞こえた。
どうやら柚樹は職場にいたらしい。
『悪りぃ。そろそろ出番だ。』
「あ、いいよ。全然。こっちがありがと。」
柚樹が切るのを待っているとその前に彼は早口で何かを言った。
『生徒会のことは副会長に聞け。』
そう言うと瞬時に携帯電話の通知のボタンを押したらしく、電話はきれていた。
副会長…?
手から携帯電話をベットに寝たせ、自分も横たわる。
手の甲を額に乗せ、生徒会の副会長を僕は一度も見ていないことに気づく。
今まで、副会長の存在を忘れていたし、いたメンバーが全員だと思っていたから気にしていなかった。
…明日、福田にでも聴こうかな。
天井をみると円盤型の電気から漏れてくる淡い光が見える。
「そう言えば…あの野球ボールを投げた人って誰だろう。」
休み時間に起こった出来事を思い出し、ふと思う。
あの時間に野球はできるはずもないし、近所の子供が…ってあんなに飛ばせるはずないか。
じゃあ誰が?
当然のように考えてみても答えは見つからない。
意図的に僕を助けたのかは分からないが、その人物が分かったらお礼でも言おうかな。相手が知らない。って言えばそれで終わりで良いし。
明日、少し探してみようかな。
「よしっ!」
ベットから勢い良く立ち上がり、僕は一階へ降りることにした。
ちなみに次のユキの仕事は食レポでした。←




