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おまけIR  作者: 影都 千虎
Another Story
35/36

17『笑顔』

 翌日。アムールに城の外から出ないようにとキツく言われたブランテは、一人裏庭にいた。兵士やメイドがいる城内はあまり落ち着かなかったのだ。

「落ち着いてる場合じゃ無いんだけど、な」

 自分の現状を振り替えって、ブランテはポツリと呟いた。これからあとどのくらい自分は生き残ることが出来るのだろうか。それまでの間に、あと自分は何が出来るのだろうか。そんな暗い考えがどうしてもあたまのなかを渦巻いてしまう。

 刺された右肩はまともに機能しそうにない。これが回復するまでの間は、剣を握って戦うことは不可能だろう。なんせ、相手はフィネティアの騎士団なのだ。万全の状態でも厳しい相手なのに。

「なーんで母国の騎士が敵なんだかなー」

 これが因果ってやつなのか、とため息をつくしかない。騎士団に育てられ、副騎士団長をぶん殴り、騎士団の最高権威に呼び出され、そして今騎士団に殺されようとしている。全く、なんて人生だ。

「ああ、ブランテ。ここにいたのか」

「……ん? ヴァーノン?」

 嘆きようもない現実に項垂れていると、聞きなれた声がかけられた。振り返ってみれば、ヴァーノンが手を振りながらこちらに向かってきている。

「お前のこと探してたんだ」

「ああ……」そういえば、ヴァーノンがフィービーに話をしてくれたお陰で自分は助かったんだっけ、なんて思いながらブランテは微笑んだ。「ありがとう。心配かけたな」

「……そうですね」

 次の瞬間、ブランテの表情は凍りつく。

 正確には微笑みが驚愕と苦痛によって歪な形に変えられてしまったと言おうか。

「ブランテ・エントゥージア」

「え…………?」

 いつの間にか口から赤い液体が溢れ落ちていて、ブランテの身体は急に力を失い崩れ落ちた。ヴァーノンは悲しい表情を浮かべて、それを支えずただ見ている。

「見つからなければいいのにと、思っていました」

「……だ、れだ……おまえ」

 仰向けに倒れたブランテの腹には一振りのナイフが刺さっている。それが殺意を持って刺されたことに違いはない。

「……さす、なら……もっとうまくやれ、よ……」

 また血を吐き、ブランテは愚痴るように言った。その言葉にヴァーノン……否、ヴァーノンに扮した男は目を見開いた。まさかそんな恨み言を言われるとは思っても見なかったのだ。

 やがてヴァーノンの姿が揺らぎ、別の男の姿が現れる。その男はフィネティアの騎士だった。

「化けてた、のか……」

「はい。捕らえたシャンテシャルム人に変化魔法を使える者が居たので……外見を変えさせてもらいました」

 そう言って騎士はブランテの隣に座った。

「少し、此方の話をさせてください。俺は正直なところ、今でも貴方を殺していいものなのか悩んでいるんです。ただ、仕事を放棄するわけにもいかず……だから、指す場所も急所をはずして、ナイフには微量の弱い毒を塗らせてもらいました。苦しい、ですよね……すみません」

「……でも、俺を殺さなきゃ……おまえ、が、殺されるんだろ……?」

「どうでしょうね。フィーニス様がどう考えてらっしゃるのか……俺にはよくわかりません」

 そう言って騎士は苦しそうにブランテを見た。そんな騎士をブランテは変なやつだ、と心の中で評価する。死んでいこうとする『敵』に心が痛むだなんて。

「……ここで、俺も死んだら罪から逃れられるでしょうか」

 騎士は苦しそうに言葉を吐く。「無理だな」と、ブランテは敢えて厳しい言葉をぶつけることにした。

「……お前がここで死ぬのは、俺、が……許さない。何をしたって……ゆるしてなんか、やんねー……」

 血を失い、酸素が薄くなり、ボーッとしてくる頭で必死に言葉を選びながらブランテは続きを紡ぐ。

「なあ……頼みがあるん、だ」

「頼み?」

「フィネティアの……トリパエーゼ、に、帽子と剣……届けてくんねーか……? どうせ、俺、向こうに帰れねーんだろ……?」

 自分の今後を悟ったようなブランテに、騎士は顔を歪めた。正にその通りだったらしい。

「……罪滅ぼしする、なら……せめて、これで」

 あと、そうだな、なんて言ってブランテは一息つく。痛みに耐えるのが辛くなってきたのか、目を閉じ浅い息を繰り返す。

「……俺に、ちゃんとトドメさしてけ」

「…………」

 覚悟を決めた強い瞳。既に瀕死な筈なのに、今ここで完全に息の根を止めてしまわなければ、逆に騎士が殺されてしまうような、そんな迫力すらある。それを見て、騎士も覚悟を決めた。

「……貴方は、残酷な人です」

「はは……なんつー顔、してんだ……っ」

 騎士はブランテの腹に刺さったままのナイフを抜き、今度は心臓に突き立てた。その一刺しだけで、ブランテの鼓動は完全に止まる。

 ブランテの最期の表情はへにゃりとした笑顔だった。

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