15『死』
突然悲鳴をあげながら倒れた二人の騎士は倒れたあとはピクリとも動かない。しかし死んでいるわけではなさそうだ。どうやら麻酔銃を撃たれたらしい。
「ねえ、僕『死ぬなよ』って言ったよねぇ!?」
二人を撃った犯人は、ややヒステリック気味に言いながら銃を持ったままブランテに近付いてくる。
「ああ――」その姿を見て、ブランテは安堵のため息を一つついた。「――スメールチ」
しかし安堵できたのもつかの間、次の瞬間には乾いた音が鳴り響いて、痛みがブランテの左頬を襲っている。スメールチがブランテをビンタしたのだ。
何故ビンタされたのか理解できず、とりあえず不満をぶつけようとスメールチを見ると、眉を寄せ唇を噛み、険しい目付きでブランテを睨み返すその顔は今にも泣きそうで言葉に詰まった。
「バカなんじゃないのかい? 僕が今、来てなかったら……ブランテ君、どうするつもりだったんだい?」
どうしてたんだろうな、なんて言うことが許される雰囲気ではない。普段表情を全くと言っていいほど動かさないスメールチが感情を露にして泣きそうになりながら怒っているのだ。ドクドクと血が流れているブランテの脇腹を右手で押さえながら、ブランテを思い切り責めようとしているのだ。軽い調子で返せるわけがない。
「分かってるかい? 君は今、本当の本当に死にそうだったんだよ? 僕の、目の前で!」
「……ああ、そうだな」
「『そうだな』じゃないよ! 意味分かってるかい? 死ぬんだよ? 生きられないんだ! 存在できないんだ! この世から消え去るんだ!!」
とうとうスメールチの目から透明な雫がこぼれ出す。出会って早々、どうしてこいつはこんなに感情的になってるんだ、とスメールチについていけないブランテは呆けた顔でスメールチを見て、そして呟くように言った。
「どうした? ……何で今日は、こんなに感情的なんだ。むしろ誰だよ、お前」
「誰だって? そうだねえ、誰なのかなあ! 向こう見ずのバカが冗談抜きに死にそうになってて肝を冷やした通りすがりのお人好しとかでいいんじゃないかなあ!!」
「……何言ってんだ」
スメールチの涙は止まらない。負傷したブランテよりも余程傷ついたように見えた。
「ブランテさん!!」
ボロボロと泣き出すスメールチに戸惑っていると、何処からかブランテの名を叫ぶ女の声が聞こえてくる。それはほんの数時間前に聞いたばかりの声で、何故こんなところに居るのかと疑問をぶつけたくなる声だった。
「バカなんですか、貴方は! こんなときに、一人で行動するなんて!!」
アムールもスメールチ同様泣きそうになりながら怒っている。はて、二人はいつから自分を見ていたのだろうかとブランテは戸惑いながら疑問を抱いた。そもそも、何故此処にスメールチがいるのかすら謎だ。
「とりあえず、ここじゃまたいつ襲われるか分かりません。一回わたくしの城まで行きます!」
アムールはブランテが口を開くのを待たずにそう言った。そしてその直後、アムールの足元とブランテとスメールチの下に魔方陣が現れ光を放つ。光はどんどん強くなっていき目が眩んだ。
光が収まる頃には、辺りの景色は一変していた。どう見ても森の入り口付近ではない。それどころか、室外でもない。
高い天井から吊るされたシャンデリア。光を差し込む大きな窓。見るからに高そうな真っ赤な絨毯。白を基調としたデスクとソファー。アムールの言う通り城の内部のようだ。
「手当てを!」
アムールが叫ぶように言うと、直ぐにメイドがやって来てブランテの傷の手当てを始める。ブランテがフィネティア人であることを考慮したのか、一切魔法は使わずに、薬草など極一般的な手当てが採用されていた。
「……間に合ってよかったです、本当に……フラヴィと、ヴァーノンさんに感謝してください」
メイドたちが去るとアムールは脱力したようにソファーに座り込み力なく言った。どうやら、ブランテが出ていったことがヴァーノンからフラヴィに伝わり、それがアムールに届いたらしい。伝わる速度が尋常では無いところから、フラヴィが異常性を感じとり急いだということがわかる。
「……僕はフラヴィちゃんと一緒にいたんだ。情報収集とか仕入とかその辺のためにこっちに来ていてね。本当、間に合ってよかった」
泣き止んだらしく、スメールチはブスッとした顔で自分の事情を簡単に説明した。それからブランテを睨んでブランテ側の状況の説明を促す。
「……俺はただ、信用されてなかったって話だよ」
なんとも言えない重い空気に逃げたくなりながらもブランテは騎士と話した内容までしっかりと説明することにした。ここで何か一つでも隠し事をすれば、どれだけ怒られるか分かったものではない。流石にそこまでバカではなかった。
ブランテの話を聴き終わると、二人は「そう……」と言って口を閉じた。何か深く考えているようだ。きっとブランテの身をこれからどうやって守るか、ということだろう。だが、二人の思考を読みながら、ブランテは最悪のケースを考える。
即ち、自分が殺されたときどうするか。殺されるまでに何をしておくべきか、ということだ。




