10『始動』
それから直ぐにブランテの戦争を終わらせるための作戦が決行された。ヴァーノンとフィービーにその内容を話すと、二人は直ぐに仲間に伝え、行動を開始したのだ。思い立ったら吉日、がモットーらしい。
「今、ウンディーネの子たちと、植物系が得意な子たちが動いているわ。武器をダメにするところからやってみるみたい」
外から帰ってきたフィービーがそんなことをブランテに報告した。どうやら、ウンディーネが大気の水を操り濃霧を発生させ視界を奪い、向こうが下手に動けないそのすきに武器庫に突入する作戦らしい。武器庫が植物園と化したら、攻撃の手は弱まるだろう。そんな考えで。
「貴方が場所をかなり細かく教えてくれたお陰で、こっちはいくらでも抑えられるみたいよ。だから、心配しなくても大丈夫。……それじゃあ、貴方の方も作戦を考えましょうか」
「そこなんだよな……」フィービーの言葉に、ブランテは悩ましげな表情を浮かべた。「どうやったら平和に女王様と話せるんだか」
ブランテが考えた敗戦という形で戦争を終わらせる方法。それは外堀から埋めていくというものだった。フィネティアを国規模で囲い、出方次第では袋叩きにしてしまうという考え。母国が袋叩きにされるというのは気分のよくないものだったが、背に腹は代えられない。このまま放置していれば、シャンテシャルムは一方的に潰され、国民がどんどんフィネティアで殺されていってしまうのだから。
国規模でフィネティアを囲うということは、シャンテシャルムは勿論、他国の協力も必要だ。そうなると、個人でチマチマやっていてもどうにもならないことになる。一言で国を動かせる人が必要になる。となると、必然的に女王に協力をあおがなければならないことになる。これは、皮肉なことにブランテがフィーニスに命令されてからずっと考えていた課題でもあった。
「その話なんだけどな」唐突に扉が開かれ声がかけられる。「相談してみたら、エルフたちが手伝ってくれるそうだ」
「あら、ヴァーノン。おかえりなさい」
室内に入ってきたヴァーノンにフィービーは嬉しそうに駆け寄った。そんな様子を見て、ブランテは密かに「夫婦っていいなぁ……」と和むのだが、今はそんなことを考えている場合ではないと思い直す。そんなことよりも、ヴァーノンの言葉の方が気になった。
「エルフたちが手伝うって?」
「女王様と話すって奴だよ。話せるようになれば、そこからは自信があるんだろ?」
「まあ……なんとかなる、とは思ってるけど」
歯切れの悪いブランテの返答に、ヴァーノンは楽観的に「なら大丈夫だ」なんて言うのだった。そう言える根拠を知らないブランテには不安しかない。しかし、ヴァーノンの隣でフィービーも同じような顔をしてるので、少しは信頼しても良さそうだ。どうやら、エルフが居れば百人力らしい。
「おっと、もうセッティングが出来たらしいぜ。仕事の早い奴等だ」
窓の外に顔を向けたヴァーノンはそう言って窓を開けた。するとそこからひょっこりと可愛らしいエルフの少女が顔を出す。クリーム色の長い髪をツインテールにし、たれ目がちでおっとりとした印象を与えるその顔は、とっておきの悪戯を仕掛けてきた子どものような顔をしていた。
「ブランテさん……だっけ? あとは貴方が来てくれれば直ぐに女王様と話せると思うよ! 大丈夫、特別なことは貴方は何にもしなくていいから」
少女は初対面のフィネティア人であるブランテに人懐こい笑顔を向けてそんなことを言う。なにもしなくていい、という響きは逆にブランテを更に心配させた。大丈夫だろうか、と疑いたくなくても疑ってしまう。
しかし、乗り掛かった船だ。後には引けないし、他に策もない。
「分かった、とりあえず外に出ればいいのか? 俺、今足がこんなんだから歩くのもおせーけど」
「ん、問題ないよ!」
腹をくくるとブランテは立ち上がり少女の待つ外へと向かうのだった。そういえば、シャンテシャルムに来てから可愛い女の子に出会ってもナンパをしていないな、なんてどうでもいいことを思いながら。




