提案
「珍しいわねあんた、誰かと話したがるなんて」
「俺だって好きでこうしちゃいねえんだよ」
とある日の放課後、青嶋は綿谷と仲のいい親友である、古谷怜奈を呼び出していた。
「綿谷がなぜ俺にわざわざこんなに絡みたがるのか知りたいんだが」
「はあ、何を聞くのかと思ったら、、まあそんなことだろうと思ったわよ」
青嶋も好きで古谷と話したいわけではない。綿谷のことについて聞くために、不本意ながら古谷を呼び出したのである。
「言っとくけど、そんなこと私にも分からないのよ。あの子は気まぐれなの、何を考えてるかちっともわからない」
「まあ、、確かに、、」
青嶋は綿谷の考えてることを読めたことが1度だってない。そして親友の古谷でさえも分からないというのである。
「あと、私はあんたの考えてることもイマイチよく分からないわ」
「は?おれ?」
予想外の古谷の言葉に困惑する青嶋である。
「まずなんであなたは人と関わりたくないの?その理由を穂乃花に伝えたら穂乃花だって関わるの辞めるんじゃない?」
「そうやって色々説明すんのがめんどくさいから、最初っから関わりたくないって言ってんの」
「はあ」
古谷は納得いって無さそうな表情をしていた。
「なんで関わりたくないのよ、端的でいいから話して」
「、、、、言いたくない」
「どうせ過去に何かあったんでしょ?別に無理に聞くつもりもないけど、それを説明せずに穂乃花を無理矢理突き放すのも酷いと思うけど」
「はあ、、めんどくせえ、、、」
青嶋は心からそう吐き捨てた。青嶋には中学生の頃に、人間関係で人間不信になるほどの暗い過去があった。なので人間自体をそもそも好きではない。なので今こうして話しているのもかなりストレスなのである。
「穂乃花はそんな酷いことする人間じゃないわよ、あなたも見ててわかるでしょ?」
「知らん。まず表面だけ見ても酷い人間かどうかなんて分からないし、そもそも酷い人間かどうかなんて関係ない、ただ人と関わりたくないんだよ」
「理屈になってないのよ、ただなんの意味もなく感情だけで人間を嫌ってるだけのように見えるわ」
「はあ、、、、」
青嶋は深くため息をついた。
「あなたに何があったのかは知らないわ。でも、逆に1回考えてみてほしいのよ」
「は?」
古谷は青嶋に語りかけ始めた。
「あの優しくて天使な穂乃花と関わって、その人間嫌いを克服してみたらどう?あの子と接する時だけはその人間嫌いの感情を忘れるのよ、そうすれば治るかもしれないじゃない」
「はあ、そんなもんかね」
青嶋は首を傾げながら少しだけ頷いた。
「とにかく、あの子を傷つけるようなことがあれば鉄槌が下るから、わかった?」
「お前って」
「なによ」
「見かけによらず結構良い奴なんだな」
「は!?何がよ!!」
突然の青嶋の言葉に驚く古谷である。
「勝手にクソきつい典型的な真面目女かと思ってたけど、友達想いだし意外と優しいんだなって」
「べ、別に優しくはないわよ!!」
「あれー?怜奈まだいるじゃん!笑」
「!?!?!?」
そんな話をしていると、突如凄くチャラそうな陽キャっぽい男子が教室に入ってきた。
「な、何しに来たのよ涼太、、!」
この男は同じクラスの川上涼太である。どうやら2人は知り合いのようだ。
「いやー忘れ物取りに来たんだけど、、もしかして彼氏と喧嘩中?笑」
「違うに決まってるでしょ!早くどっか行ってよ!」
「うわー辛辣だなー笑!はーいよしよし笑じゃあ俺帰るからまた明日なー」
「頭撫でるのやめなさいよ!!」
「はは笑じゃあなー笑」
そうしてチャラい男は颯爽と立ち去っていった。
「、、、、、、」
「な、なによ!!」
一部始終を見ていた青嶋は、古谷の方をじっと見ていた。
「あいつのこと好きなのか?」
「ち、ち、ち、違うに決まってるでしょ!!!」
古谷は顔を真っ赤にして大声で反論した。
「声でっか、わかりやすすぎだろ」
「うるさい!!」
「ははは、おもしろ」
「、、、!!」
「あ?なんだ?」
青嶋の笑った顔を、何か珍しいものを見たかのように古谷は眺めていた。
「あなたって、笑えたのね、、」
初めて笑顔を見せた青嶋に驚いていた古谷である。
「俺だって笑うことくらいあるわ、まあでも笑ったのは1年ぶりぐらいかもな」
人と関わることがなかった青嶋は生きてる上で笑うことがほとんどない。なので久しぶりの感情に青嶋も上機嫌である。
「あいつはただの幼なじみよ、別に深い関係とかではないわ」
「でも好きなんじゃねえのか?」
「す、好きじゃ、、!ないわよ!」
「ははは!わかりやすすぎだろ!おもしろいなこれ!」
まるでおもちゃを見つけたかのように、怜奈をいじり倒す青嶋である。
「はあ、仕方ねえな。久しぶりに笑ったからお前の提案を飲んでやるとするか」
「なんでそんな上からなのよ」
「別に俺はやりたくねえからな」
「はあ」
青嶋は、綿谷で人間嫌いを克服してみろという古谷の提案を飲むことにした。
「ただ、俺が嫌なことをされた瞬間にすぐにでも突っ放すからな?」
「好きにしたらいいけど、それで穂乃花を泣かせたらちょん切るわよ」
「な、なにをだ、、?」
古谷の意味深な言動に、さすがの青嶋も背筋が凍りそうになる。
「まあいいわ、じゃあ私帰るから」
「うい」
そうして古谷は教室の外へと出ていった。
「びっくりした!なんでいるのよ!」
その瞬間廊下からそんな声が聞こえた。
「いや〜笑笑一緒に帰ろっかなーって笑」
「か、勝手にすれば!?」
(これがツンデレってやつか?)
教室の外からそんなような会話が聞こえてきて、また少し微笑みかけた青嶋であった。
「今日はクッキー焼いてきたんだ〜」
「はあ」
相変わらず昼休みになると青嶋の横に座っている綿谷である。
「見て〜色んな味があるんだよ〜」
「ほう」
思ったより本格的なクッキーに少しだけ興味を示す青嶋である。
「どうぞ〜」
「、、、、うまいな」
「でしょ〜」
綿谷の料理の腕は知っているので、躊躇することなくクッキーを頬張る青嶋である。
「なあ、これなんか色が変なんだけど」
青嶋は虹色に色付けされているクッキーを指さして綿谷に問いかけた。
「それはこのクッキーの全部の味が混ざったクッキーだよ〜」
「それは、、ほんとにうめえのか、、?」
どうやら、チョコ味やミルク味、イチゴ味やベリー味など色々なものが混じっているらしい。そこまでになるとさすがに少し味の方が心配になる青嶋である。
「大丈夫だよ〜食べてみて〜」
「どれどれ、、、、うん、、、、」
青嶋は食べた瞬間に凄く微妙な顔つきになった。
「あれ、、?美味しくない、、?」
「お前これほんとに味見したか、、?」
「してないよ〜」
「してないのかよ、、1回食べてみろ」
そう言われ綿谷は素直に虹色のクッキーを口に運んだ。
「、、、、、、美味しくは無いかも〜、、、」
「だろうな」
いつもニコニコとしている綿谷がかつて見ないほどに感情が消え、微妙な表情をしていた。
「ほ、他のはちゃんと美味しいよ〜」
「ああ、特にミルクが1番うめえな」
「でしょでしょ〜!自信作なんだ〜」
だが、すぐにふわっとした笑顔が戻る綿谷である。
「、、、、、?」
「ん?どうした?」
突如、綿谷が青嶋のことを不思議そうな目で見始めた。
「今日は追い返そうとしないの〜?」
「ああ?お前は俺をなんだと思ってんだ?」
「だって〜前までは食べ物渡しても食べずにすぐ追い返そうとしてきたのに〜」
「今日はちょっと機嫌が良いだけだな」
青嶋は昨日古谷に言われた、綿谷で人間嫌いを克服するということを、一応実践してみているのである。
「そうなんだ〜!それじゃあまた勝手に膝枕しても怒らない〜?」
「それとこれとは話が違えだろ」
「おやすみなさ〜い、、」
「っておい!!」
結局青嶋の言うことは聞かずに、勝手に青嶋の太ももに頭を乗せ寝始める綿谷である。
「はあ、、、まあ、、、たまにはいっか、、、」
なんだかんだ言って機嫌はそこそこ良い青嶋は、綿谷の勝手な行動も今日だけは許すことにした。
「それにしてもまじで髪の毛ふわっふわだな、、」
太ももの上で風になびかれているふわふわとした髪の毛を、無意識に触る青嶋である。
「青嶋くん〜、、?」
「あ?どうした?」
「膝枕してもらう度に髪の毛触ってるけど〜、、あんまり気軽に女の子の髪の毛触ったらダメなんだよ〜、、?色々勘違いされちゃうよ〜、、?」
綿谷は眠そうなふにゃけた声でそう言った。
「嫌なら膝枕すんのをやめたらいいんじゃねえか??お前が寝てる時間俺何もすることなくて髪の毛触るぐらいしかやることねえんだけど」
「それじゃあ仕方ないか〜、、」
綿谷はそう言ってまた目を閉じて寝始めた。
「髪の毛ふわふわなおかげで頭も撫で心地いいな、猫みてえだ」
青嶋は、まるで毛がふわふわな猫を撫でるかのように、綿谷の頭を撫でていた。
「、、、、、」
「おい?お前耳赤いけど大丈夫か??熱あるんじゃねえか??」
突如として耳から顔まで赤くなり始めた綿谷を、少しばかり心配する青嶋である。
「だ、大丈夫だよ〜、、!ちょっと眠くて暖かくなっただけ〜、、!」
「そうか?それならいいんだけど」
そう言って青嶋はまた綿谷の髪の毛を触り始めた。
「キーンコーンカーンコーン」
「やべっ!おい!もう昼休み終わるぞ!起きろ!」
「あと5ふん〜、、」
「ダメに決まってんだろ!!5分経ったら遅刻だわ!!」
「あ〜〜、、、、」
青嶋は焦りながら綿谷のことを引っ張って何とか校舎まで連れて帰るのであった。




